テラーノベル
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二対一ということもあり、闘いは蒼梧とヂューダが優勢だった。 全身を噛まれ、抉られ、血を撒き散らしながらも、黒豹は吠えた。
「こんの——◼️◼️◼️ッ!」
詠唱に呼応し、何かが蒼梧へと襲いかかる。
それは、魔女の箒だった。
柄の先端が、蒼梧の顔面に直撃する。
よろめいた蒼梧の周りを、箒はぐるぐる旋回しつつ、何度も執拗に攻撃を加えた。
一方の魔女は、蒼梧の相手は箒に任せ、ヂューダへと飛びかかった。
二匹が、揉み合ってごろごろと床を転がる。
上になったのは——魔女だ。
黒豹が先ほどのお返しとばかりに、ヂューダの喉笛に噛み付いた。
ヂューダが苦しげな叫び声をあげる。
「ヂューダ——戻って!」
絞り出すような声で、由宇が叫んだ。
その途端、大鼠の体は光の粒子へと分解され始めた。
粒子が由宇の元へと戻っていくのと入れ替わりに、僕は黒豹へと駆け寄った。
魔女が傷ついている、この機を逃す訳にはいかない。
僕は魔女の数メートル前に立つと、その頭部へ狙いを定めた。
一瞬、違和感の様なものを感じたが、モタモタしている余裕はない。
考えるより先に引き金を引く。
——カチリ。
拳銃から聞こえた音に、僕の心臓は氷りついた。
「おやおや、弾切れかい?」
魔女がニヤニヤと笑って続ける。
僕は自分の愚かさを呪った。
自分が何発撃ったか、数えるのを忘れるとは!
感じた違和感は、拳銃の補助魔法が切れた感覚だったのだ。
「ま、仮に弾が出たところで、そんな玩具じゃアタシは殺せないんだけどねえ。ご覧——」
僕達を嘲笑うかの様に、魔女の体が回復を始めた。
傷口が塞がり、抉れた肉が再生していく。
「——アタシは、不死身なんだ」
「く、くそっ!」
僕は持っていた拳銃を魔女に向かって投げつけた。
魔女は蝿でも払うかの様に前足でそれを弾くと、ひっひっひっ、と笑いながら言った。
「そうそう、試せることは何でも試さないとねえ——それで?次は何を見せてくれるんだい?」
ジリジリとに魔女がにじり寄ってくる。
闇斬りもない。
拳銃も弾切れ。
使えるものといったら——
後退りながら、僕はポケットから最後の呪符を取り出した。
正直、考えがあっての行動ではなかった。
しかし——魔女は呪符を見て、足を止めた。
それどころか、舌打ちして背後へと飛び退る。
その背中が盛り上がり、あっという間に蝙蝠じみた両翼を形作った。
黒豹が、僕から距離を取るように空中へと舞い上がる。
助かったが——どういうことだ?
呆気に取られる僕を、竜の咆哮が揺さぶった。
見れば、蒼梧が尻尾を鞭のように使って、箒を地面に叩きつけていた。
動きを止めた箒に、オーマがすかさず蔓を巻き付け、『森』へと飲み込む。
「ナイス、オーマ!」
叫びながら、蒼梧が魔女を追って飛翔する。
「舐めるんじゃあないよ!」
魔女も急降下しながら、蒼梧を迎えうった。
いつの間にか、その右肩からは蟷螂のような腕が、左肩からは蠍のような尻尾が生えていた。
黒豹に元からあった尻尾も、蛇の姿に形状を変えている。
そして、そのどれもが黒い。
漆黒のキマイラだ。
二匹が空中でぶつかりあう。
——僕はその隙に、由宇とオーマの元へと走った。
蹲り、荒い息をつく由宇の体には、相変わらず謎の文字列がびっしりと刻まれていた。
何とか、由宇を助けなくては——
#怪異
阿炎快空
123
リユ
232
#ダークファンタジー
阿炎快空
82
阿炎快空
111
「駄目!」
最後の呪符を掲げた僕を、鋭い口調で由宇が止めた。
「だ、駄目って——」
「その使い道だと、みんな死ぬ——それだけは、わかる」
予知の力によるものだろうか。
どうやら、未来を垣間見たらしい。
「私はいいから——自分の直感に従って!」
僕は、ぐっと唇を噛み締めた。
彼女の言う通りだった。
由宇のことを助けたい半面——直感は、呪符の異なる使い道を僕に告げていた。
その時——苦しげな咆哮が、空から響いた。
鎌と針、そして蛇の牙が、一斉に竜の体に突き刺さっていた。
トドメとばかりに、黒豹の口が、至近距離から火球を放つ。
黒い爆炎が上がり、浮力を失った蒼梧が地面へと墜落する。
気絶だろうか。
死んだとは思いたくない。
「蒼梧!」
「ひっひっひっ!一体一だったら負けやしないよ!」
僕の叫びと、魔女の高笑いが重なった。
ひらり、ひらりと僕の足元に何かが舞い落ちる。
——呪符だ。
蒼梧の体に貼りついたままになっていたのだろう。
「とは言え、竜の血を色濃く受け継いでやがる。このことを知ってたんなら、母親がアンタの方を選んだのも納得だよ。そういやあ——そっちの娘のこと、さっき『姉さん』とか呼んでたねえ。まさか、そいつもあの時の——」
「蒼梧さーーーん!」
魔女の言葉を遮ったのは、オーマの叫び声だった。
オーマは蒼梧へと駆け寄った。
胴体の火球を受けた部分が、赤く焼け爛れていた。
「大丈夫ですか、蒼梧さん!?蒼梧さ——うわあああっ!?」
「——人が話してる途中だろうがっ!」
魔女が急降下し、オーマを蔓で絡め取る。
数本の蔓に巻き付かれたまま、オーマは空へと攫われた。
「ひええええ!?」
「オーマ!」
修の声が、虚しく響く。
「馬鹿な猫だよ。せっかく鴉共から逃げ延びたってのに、自分からのこのこやってくるとはねえ」
空中でじたばたと暴れるオーマを、魔女が嘲笑う。
その瞳が、紅く光り——
「そんなに死にたいなら、殺してやるよ」
——黒豹の口から、新たに何かが飛び出した。
それは真っ赤に燃える、先の尖った太い蔓だった。
蔓は無常にも、オーマの小さな心臓を槍の如く刺し貫いた。
「オーマーーーーーッ!」
僕は力の限りに叫んだ。
叫ぶことしかできなかった。
蔓が引き抜かれ、オーマの体が地面へと落下する。
僕はオーマの元へと慌てて走り寄った。
その体に空いた穴からは、黒い煙がぶすぶすとあがっていた。
「おおっと。そういやそいつ、箒を飲み込んでたんだったね。吐き出させてから殺せばよかったよ」
やれやれ、と頭上から魔女の声が聞こえる。
「そ、そんな——オーマ——」
思わず、そのまま、泣き崩れそうになった僕だったが——
「——いや、そういうのは後にしてください!」
当のオーマが、ひょいっと首を起こして僕を叱り飛ばした。
「オーマ!?い、生きて——」
「死んでますよ!最初に出会った時と同じです!」
びっくりして涙が引っ込んだ僕に、オーマの死骸が続ける。
「私は大丈夫!土に埋まれば蘇りますから!修さんは、やるべきことを!」
そうだ——オーマの言う通りだ。
「〝宵闇〟の魔女!」
僕はキッと空を見上げた。
翼を羽ばたかせ、空中で静止している魔女に向かって叫ぶ。
「お前と、取り引きをしたい!」
「取り引きだあ?」
鸚鵡返しに問い返す魔女に、修は続けた。
「そうだ。こっちには秘策がある。そしてそれは、今すぐお前を殺せる策だ。ただし——」
そこで、修は一旦言葉を切った。
「……ただし、何だい!?」
苛立った声で、先を促す。
「——もう僕達に関わらないと誓うなら、許してやってもいい!」
魔女は、思わず吹き出しそうになった。
苦し紛れのハッタリもいいところだ。
「へええ?アタシを見逃してくれるってのかい?随分とお優しいこったが、一体全体、どうやってアタシを殺すつもりだい?」
魔女がニヤつきながら尋ねると、修は左手で、自らの左目を覆い隠した。
「こうして見てみると、はっきりとわかるよ。お前の魂は、黒猫の中に入っている。おそらく、魔法でその黒猫の肉体を乗っ取ったんだ」
「フン——だとしたら、何だって言うんだい?」
「つまり——こいつを使って魔法を解けば、お前の魂は、その不死の体から離れる。そうだろ?」
呪符を掲げて、修が言う。
確かにその通りだった。
老婆の肉体は、既に『森』で朽ち果てているはずだ。
弾き出された魂が向かうところは、元の体ではなく、あの世だろう。
しかし。
「だからよぉ——その呪符を、どうやって空を飛んでるアタシに貼り付けるつもりだって訊いてんだよ、この間抜けぇ!」
呪符は、使用者が自ら貼り、詠唱することで発動するのだ。
大声で笑う魔女の言葉に、修はあっさりと頷いた。
「ああ。確かにそうだね」
「——はあ?」
「いやあ、バレてしまったなら仕方ないね。お察しの通り、僕にはこの呪符をあんたの体に貼る手段はない。だから——こんな紙切れには、実は何の価値もない」
そう言って。
修は手に持った呪符を、ビリビリに破り始めた。
「なっ!?」
予想外の行動に、魔女は絶句した。
紙吹雪が、風に吹かれて飛んでいく。
(勝機を自分から手放しただあ!?恐怖で気でも狂ったのかい!?)
「それと、嘘はもう一つ——」
修が魔女を見据えて、鋭い口調で言い放つ。
「——僕には今更、あんたを許すつもりなんて毛頭ない!」
それとほぼ同時に。
「■■■■■■■ッ!」
詠唱が響き渡った。
修ではない。
由宇の声だ。
魔女は慌てて由宇を見た。
苦しそうに蹲りながらも、魔女のことを気丈に睨みつけている。
激しい怒りを感じるが——何か特別な〝力〟を使っている気配はない。
(?一体、何を——)
困惑した、次の瞬間。
背中に何かが触れる感触と共に、魔女の体が光に包まれた。
「ぐああっ!?」
光に身体を灼かれながら、魔女は慌てて背中に顔を向けた。
そこに居たのは、翼もないのに宙に浮かんだ、殆ど透明で——先ほどのヂューダ以上に透けている——もはや視認するのも難しい、マントを羽織った二足歩行の猫だった。
数分前——オーマが魔女に捕まる直前。
ひらひら舞い落ちてきた使用済みの呪符を、僕は咄嗟に掴み取った。
代わりに、残った最後の呪符を、由宇に握らせ短く言った。
「魔女にこれを」
それだけで、由宇には全て伝わったようだった。
(畜生——全ては陽動——本命はこの猫——殺意が全くない上——存在感がカス過ぎて、気がつけなかった——)
勢いを増す光の中で、魔女はかろうじて叫んだ。
「何だてめえはぁぁぁぁぁぁぁ!?」
対する猫は、悪戯っぽくコツンと自分の頭を叩いて言った。
「にゃははうぺっ」
にゃははうぺーは、由宇の分身。
即ち。
彼の貼った呪符も、由宇の詠唱で発動する。
赤い空が、金色に染まる——……
コメント
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うわあああああッ!?オーマ死んだと思ったら生きてるし!?!?!?!?!?!? しかもオーマが死んだふりからのまさかの作戦だったんだね…ッ!最後の「にゃははうぺっ」で全部持ってかれたよ…🥀🤍 修の嘘と陽動、由宇の詠唱、全部が繋がった瞬間が本当に鳥肌もんだった。たった一枚の呪符を巡る駆け引き、めっちゃ熱かったです🔥