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#怪異
阿炎快空
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リユ
232
#ダークファンタジー
阿炎快空
82
阿炎快空
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眩く発光しながら、魔女が地面へと落下する。 その光が、徐々に収まっていき——やがて完全に消失した時、そこにもう禍々しいキマイラの姿はなかった。
「……やった」
身動き一つせず横たわっている黒猫の姿を見て、僕は呟いた。
やった、やったぞ。
とうとう——不死の魔女を斃したのだ!
思わず両手でガッツポーズを取った、ちょうどその瞬間——
世界に〝夜〟が訪れた。
境の世界の空高くに点在する、沢山の穴。
その全てから、〝夜〟は一斉に飛び出した。
それぞれの〝夜〟はあっという間に赤い空に広がると、溶け合い、一つとなって、世界を闇に染め上げた。
同刻——市場にて。
瞬く間に空が〝夜〟に覆われるのを、磯田は周囲の客や出店者と共に見上げていた。
彼が滞在できるのは、〝夜〟が訪れるまで——それが運営側との契約だ。
磯田と、肩に乗ったブルー、そしてシートに並べた商品の数々が、徐々に透けていく。
(彼らは無事だろうか?やはり、無理やりにでも引きとめるべきだったのでは――)
ふとそんなことを思う磯田の肩で、キュウ、と小さくブルーが鳴いた。
「……ああ、わかってる」
磯田はそう呟き、そっとブルーの頭を撫でた。
「あの子達を、信じよう」
言い終わると同時に、彼らの体は完全に境の世界から消失し——待つ者の居る、帰るべき世界へと戻っていった。
「これが……〝夜〟……?」
僕が呆気に取られて空を見上げていた、その時だった。
「このぉ……餓鬼共がぁ……」
恨みがましい、しゃがれ声が聴こえた。
驚いて、視線を向ける。
黒猫が、ゆっくりと立ち上がろうとしていた。
産まれたての子鹿のように小刻みに痙攣し、ひどく衰弱してはいるが——その声は間違いなく、〝宵闇〟の魔女のそれだった。
「な——なんで——」
「流石は、アタシ特製の呪符だねえ——もう一枚使われてたらやばかったよ——だが——」
魔女は、『森』から何かをオエッと吐きだした。
蔓でがんじがらめにされたそれは、黒猫の体の倍以上はあろうかというサイズの生き物だった。
見た目は、胴の太い蛇、とでも言おうか。
小学校の頃、図書室の『UMA大図鑑』で見たツチノコのイラストにそっくりだ。
蔓から逃れようと、必死にもがいている。
色は茶褐色だが、体中に赤い模様のようなものがある。
いや——あれは文字か?
そう、まるで——由宇の体に刻まれているものに——生贄の印にそっくりな——
「——〝夜〟よ!贄の命と引き換えに、我に力を!」
魔女はそう叫ぶと同時に、口から更に、二本の蔓を吐きだした。
その先端には、それぞれ短剣が巻き付いている。
二本の短剣が、サクサクサクサク——と、ツチノコの体を素早く何度も突き刺した。
シャアアアアアアアアアアッ!
血を撒き散らしながら、ツチノコが体を思いっきりのけ反らせた。
そしてすぐに、ぐったりとなって力尽きる。
その瞬間——僕は、全身の毛が逆立つ感覚に襲われた。
起こってはいけないことが起こった。
かろうじて、それだけはわかった。
同時に、魔女の真上——漆黒の夜空から無数の黒い触手のようなものが、魔女めがけて、まるで滝から落ちる水の様に降り注いだ。
〝夜〟だ。
〝夜〟の一部が、魔女に引き寄せられている。
触手の群れは魔女とツチノコを飲み込むと、融合しあい、まるで腫瘍のような、ドーム状の繭を形成した。
「フン——養殖のツチノコじゃあこんなもんか。まあいいさ。お前らを始末するには充分な魔力だ」
繭は触手を通じて〝夜〟を吸収し、脈打ちながらどんどん膨らんでいく。
「はっきりわかったよ。お前達は危険だ」
魔女の声が、闇夜に響く。
もう、先ほどまでの、相手を見下したような響きはない。
淡々とした、冷徹な口調だ。
「今、この場で全員——確実に殺す」
まずい。
まずいまずいまずいまずいまずいまずいまずいまずい。
僕はただ、震えて立ち尽くすことしかできなかった。
全身を支配する、本能的な恐怖。
呼吸が乱れ、体が震える。
勝てる可能性があるのは、きっと、さっきまでだった。
僕らは手持ちのカードを全て使い切り、策も力も出し尽くし——そして、負けた。
敗北したのだ——
「おい!ぼさっとすんな!」
——蒼梧の声が、絶望に飲まれそうになっていた僕を正気に引きずり戻した。
この異様な気配のせいで、気絶から醒めたのだろうか。
親友の生存を喜ぶ暇もなく、蒼梧の吐いた火球が繭に向かって飛んだ。
直撃——爆炎——しかし。
「ハッ——今更そんなもんが効くかよぉ!」
繭はそれをものともせずに成長を続け、ナギや側近達の屍を飲み込んでいく。
「くそっ!」
蒼梧はそう毒づくと、地面を滑るように飛んで、僕の元へとやってきた。
「乗れ!あれはやばい!俺でもわかる!」
「わ、わかった!」
蒼梧は僕を背中に乗せると、今度はすぐに由宇の元へと向かった。
由宇の傍らには、殆ど透明な状態のにゃははうぺーが浮かんでいた。
いつの間にか、オーマの死骸を抱き抱えている。
僕は辛そうな由宇を立たせて、何とか蒼梧の背中へと乗せた。
その間にも、繭は徐々に大きくなり、僕らの方へと迫っている。
僕は急いで、由宇の後ろへと乗った。
「乗ったか!?逃げるぞ!」
叫びと共に、蒼梧が飛翔する。
「逃すかよ、馬鹿が!」
背後から、魔女の声が追いかけてくる。
振り返った僕の目に飛び込んできたのは、立方体の上面を覆い尽くすかのごとく成長した巨大な繭だった。
必要な養分を与え終え、触手達が〝夜〟へと戻っていく。
やがて——繭を引き裂き、中から何かが姿を現した。
それは、体のあちこちに赤い目玉が存在する、暗黒の巨人であった。
コメント
1件
うわ、今週もめちゃくちゃ熱い展開でしたね…!「勝った!」と思った瞬間にまさかの逆転、しかも魔女が〝夜〟の力を吸収して巨人化って、絶望感が半端ないです。でも蒼梧の「ぼさっとすんな!」で我に返る主人公、ああいう仲間の一声が物語を動かす瞬間、すごく好きです。次話が待ち遠しい!