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そう、この人は生まれるのが早過ぎた。当時SFは海外で数作発表されたぐらいで、日本では表に出ていなかった。
戦後人々が絶望している中で、夢と希望の物語であるあなたの本が注目されるようになった。
あなたは、すごい人なんだよ。誰もが思い付かない発想、大人から子供までを虜にする夢が溢れる物語。現代では児童書や英訳され、子供から海外の人まであなたの話を読んで面白いって言ってるんだよ。私なんて、あなたによって人生が変わったんだから。
「あなたが握るべきは銃ではなくて、万年筆です。それで多くの人を笑顔にする。それはあなたにしか出来ません」
手を付き、頭を畳に擦り付ける。
お願い、思い止まって。あなたにはあなたにしか出来ないことがあるのだから。
「頭、上げてくれ! でもな、俺が行かんと……!」
「戦争は八月十五日で終わります! だから、あなたが行ったところで何も変わらない!」
絶対口にしないと決めていた、この国の行く末を告げる。
おかしな人間だと思われる。気味悪がられる。最悪追い出されると懸念し、絶対に口にしないと決めていた言葉を。
当然ながら私の意味が分からない発言に、大志さんは瞬きをせずにただ呆然としている。
開いたままの口を閉じたかと思えば、一呼吸置き。
「……そっか、やっと終わるんや。日本は勝つんか負けるんか、教えてくれんか?」
潤ませた瞳を真っ直ぐこちらに向けてきて、そこには軽蔑も嘲笑もない。
だからこそ言えなかった。
この時代の人は勝つと信じてきた。
だからこそ、どんな理不尽なことにも耐えてきた。
それなのに……。
「……そうか。そうか……」
大志さんは私の顔をじっくりと見つめたかと思えば、膝の上に置いた両手を強く握り締め、目を強く閉じ俯く。
私は今、どんな表情を浮かべていたのだろう?
今からでも勝つと嘘を吐くべき?
いや、負けると言えば出征しない?
そう心付いた私は口を開こうとする。
「俺な、行くわ。国を守りたいなんて大きなこと言うつもりない。やけど、この村と村の人を守りたいんや。……未来を守りたいんや」
「未来……を?」
突如出てきた言葉に、思わず聞き返してしまった。
「って何言ってんやろな? 大きなこと言ってもたわ。村の男はな、村を守ると言って行きよったんよ。誰も逃げんかった。家族や友人を守る為にな。それなのにここで逃げたら、俺は一生自分を恨む。それこそ小説も書けんくなる。それにな、俺が行かんかったらどこかの誰かが呼ばれるやろ?」
……あ。
突き付けられた現実に、心臓が鳴る。
そうだ。大志さんの運命を変えるということは、誰かの運命も変えてしまうかもしれない。
もしかしてその人が生きる運命にある人で、結婚して子供をもうけていたら? その人が戦地で亡くなったら、現代に生きている子孫はどうなるの?
過去を変えるということは、それが因果となり未来を大きく変えてしまうかもしれないこと。
……だから私の小説はだめなのだろう。こうやって粗が出る。その代わりになる人のこと、全然考えていなかった。
──だから。運命は変えられない。