テラーノベル
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ブゥゥゥンと唸り声を上げながら、砂漠を走る一両の車。シャーレ専用オフロード車は現在、セリカを救出するため、朝日へ移り変わる時間帯まで走り続けていたのだ。
“うぅん、まだ移動してるね……”
揺れる車内で、先生はまずそうに呟いた。手元にあるシッテムの箱には、現在地を表示するマークと、対象であろう赤い点がマップ上で動いていた。
「おかしいですよね。ヘルメット団なら自分の領域まで連れて匿うと思っていたのですが……」
後部座席から覗いていたノノミも予想外の行動に戸惑いを隠しきれなかった。
「う〜ん、これじゃ、どうなるか分からないな〜?」
ノノミの隣で他人事かのように呟くホシノ。同時に、手を後ろに回して心地良さそうに景色を眺めていた。
「これ、本当に作戦通りになるんですか?」
次に、己の武器を手入れしていたイシュメールが溜息と共に疑念が吐かれる。当初、練られた作戦は、止まったところを奇襲し、そのまま拠点を制圧するというものだったが。
「突発的な作戦だからしょうがない。それに相手の手数も把握できてない 」
シロコの言う通り、相手の手数を把握できていなかったりなど、いくつか欠陥はあった。だが、それでもやらなければならない。
「いつも通りだろ?逆に聞くが、今まででそんなことあったか?」
「まぁ……ないですね……」
「だったらいつものように成功できんだろ?」
ヒースクリフの口元がわずかに緩んだ。
「戦いって言うものは、まるでコイントスみたいなものなの。どれだけ練っても結局裏を引いちゃったら台無しになっちゃう時だってある」
珍しく哲学的なことを口ずさむロージャだったが、次のセリフは気楽なものだった。
「ま、私が全部表を引くから心配しないでね!」
自信たっぷりに不器用なウィンクしながらそう言う彼女の態度に、車内の空気が少し柔らかくなる。
「……フラグっぽい言い回しはやめてくださいよ」
イシュメールが眉をひそめて苦言を呈するが、口調にどこか余裕が戻っているのが分かる。
「はは、言うだけタダだしな。悪い流れを笑い飛ばすのも作戦のうちって、アニキも言ってたな」
ヒースクリフが笑いながらバットを手にし、窓の外を見やる。
「あはは……これ本当に今から戦場に行く雰囲気なのでしょうか?」
大人たちのやりとりを見ていたアヤネは、おかしそうに苦笑した。 朝焼けに照らされた砂の海の先には、いつの間にか、もうすぐ追いつく“標的”の影が、確かにあった。
「護衛車が、1、2、3……6台か」
標的の周囲には、黒色の護送車が全方位を補うよう、幾つも取り囲んでいた。
「うーん、けどシロコちゃんのドローンならギリ出来るんじゃないかな?」
目標まで300m、250mと刻々と近づく中、生徒や大人達は外へ飛び出す準備を済ませる。
ドォォンッ!!
突如、標的周辺で一台の護送車が激しい閃光と共に吹き飛んだ。爆風が砂を巻き上げ、黒煙が空へと伸びる。
「えっ!?何っ!?」
「爆発!?……違う、これ、誘爆か……!」
「っぶな……!」
瞬間的な爆風がこちらにも届き、車内が揺れる。車の中にいた全員が反射的に身を低くした。
「誰かの仕掛け?でも……誰が?」
混乱する中、残りの護衛車も慌ただしく動きを変えはじめた。それはまるで、突発的な襲撃を受けたかのような、想定外の反応だった。
“予定変更!このまま突っ込む!”
ハンドルを握る先生の声が響くと同時に、車は急加速し、騒然とする戦場へと突っ込んでいった。
「先生!?何を考えているんですか!?」
突然の予想外の命令に、何人かが困惑する。しかし、その奥にある意図を汲み取れたのか、次々と外へ抜け出す。
「ちっ……死ぬんじゃねぇぞ」
“分かってるさ、生徒たちが卒業するまで見届ける気だからね”
ヒースクリフが留まろうとしたが、なんとか説得させ退出した。
「先生とアヤネは!?」
降りてきて開口一番に、ノノミがそう言う。
「まだ残るつもりだ」
「それって……!」
その話を聞いたロージャは、何か気が付いたか、顔を青ざめた瞬間。
ドゴォォォォォォォォン!!
「はっ……!?」
先生とアヤネを乗せたオフロード車は、護衛車の一つに近づいた瞬間、爆炎と共に横転した。
一方、車内では先生とアヤネが留まっていた。
“アヤネ。悪いけど、残っててくれる?”
「勿論ですけど……先生は……!」
先生を心配しているのだろう。しかしこれは、大人の責任だ。答えを返す代わりに、私が気がついたことを話した。
“さっきの護送車、あれはハリボテだ。中に人は入ってない”
「ええ!?どういうことですか!?」
先生の推論に追いつけず、アヤネが声を上げる。
“ヘルメット団は私たちが襲撃することを予知して、いくつか対策を練ってきたんだ。あのままだとおそらく掌の上で踊らされてただろうね”
「だったら……?」
“私が予測した結果、この車は直に爆発させられる”
「急に飛躍させないでください!?ていうか、尚更早く出ないと!」
“最も可能性が高いのは、対空砲による爆破だろう。なら!”
先生は強くアクセルを踏み、そのまま護衛車に向かう。
“相手ごと巻き込む!アヤネは危なくなったら、私を引っ張って出て!”
その言葉を呟くように漏らすと、先生は車のフロントガードをぐっと切り、ハリボテの護衛車へと突っ込んだ。そしてその瞬間――
ドゴォォォォン!!
“っ!?今だ!”
「はいっ!」
オフロード車の下に仕掛けられていた地雷が爆発。続けて周囲の小型爆弾も誘爆し、轟音とともに炎と砂煙が車体を包み込んだ。車は衝撃で宙を舞い上がり、そのわずかな浮遊の間を縫って、先生とアヤネはドアを蹴り破るようにして飛び出し、転がるようにして安全圏へと身を投げた。
直後、空中に浮かんだオフロード車が地面に叩きつけられ、鉄がひしゃげる鈍い音と共に爆炎を上げた。砂が舞い上がり、辺りを包む。
“……地雷!? まだ仕掛けを隠していたのか……!”
焦げた煙を払いながら、先生は顔をしかめ、悔しげに呟く。
そのとき、背後から複数の足音が駆け寄ってくる。
「せ、先生!?おじさん、びっくりしちゃったよ!?マジで心臓止まるかと……!」
「神風特攻って……本気で死ぬつもりだったんですか!?」
先に車外へ脱出していた生徒たちと大人たちが駆け寄り、口々に非難混じりの驚きの声をあげる。
“はは、ごめんごめん”
先生は煙まみれの顔で笑いながら謝るが。
「ごめんって……軽すぎですよっ!」
ノノミは呆れ顔のまま、軽く先生の頭にゲンコツを落とした。
「それで、どうすんだ?」
わいわいとした空気を割るように、ヒースクリフが短く問いかけた。
「あっ……!」
イシュメールもハッとしたように標的の方へ視線を向ける。その先には――すでに遠ざかりつつあるトラックと護衛車の隊列が、朝焼けの中を走っていた。
「ま、まずいです!このままじゃ本当に追いつけません!」
その言葉に、一気に場の空気が引き締まる。慌てて何か手立てを探そうとするも、すでに時は遅く焦りだけが募っていく。
その時だった。
「ん、 ロージャ!?」
誰かがそう叫んだ瞬間、皆の視線は一人の少女に釘付けになった。
トラックに向かって疾走していたのは、ロージャだった。砂漠の地面を蹴りつけるように走り、その足取りは異様なほど軽く、速い。じわりじわりと、トラックとの距離を縮めていく。
「ロージャさん!無謀ですよ!」
イシュメールが声を上げるが、ロージャは振り向きもせずに走り続ける。
「イシュ、言ってなかったっけ?」
そう言いながら、彼女は勢いよく地面を踏みしめた。その姿勢はまるで彼女の得物、斧を投げる直前の構え。
「ま、まさかこの距離から!?」
それまでうへうへと余裕そうにしていたホシノですら、思わず真顔で声を漏らす。皆がその様子を見守る中、次の瞬間。
パリンッ!
鋭く、硝子の割れるような音が響いた。音の出所を探していた目線は、やがて一点に集まる。
“ロージャ……?”
彼女の姿が、明らかに“変わって”いた。
砂漠の中にあるはずのない冷気が、彼女の周囲に立ち込めている。囚人服を思わせるような粗末な上着をマントのように羽織り、手にしていた斧は氷で形成された武器へと変化。刃先からは、誰のものかも分からない血が静かに滴っていた。
その顔には、いつもの飄々とした笑みは一切ない。氷のように無表情で、ぞっとするほど冷たい目をしていた。
「な、なんですか!? あの姿は……!」
「ん……!?」
「え、えぇぇぇ!?」
「う、うへ〜……!?」
生徒たちは動揺し、声を上げる。混乱したように口々に戸惑いの声を漏らすが。
「ま、まさか……!」
「…………」
一方で、イシュメールとヒースクリフは何かに気づいているようだった。声を出すことなく、ただ黙って、ロージャの変化を見据えていた。
ロージャ 覚醒ego
《投げられたもの》
斧が一気に投げられる。斧は落ちず、一直線と護送車へと風を切って突き進む。まるで操ってるかのように。そして……。
バリッ……
斧が護送車に突き刺さった瞬間、バリバリと地面を割るように氷塊が一気にせり上がり、爆音とともに複数の護送車を飲み込んだ。砂煙と破片が巻き上がり、周囲はまるで極寒の嵐に飲まれたかのように凍りつく。
ドゴォォォン!!
爆音の余韻が引いていく中、トラック周辺に残っていた護送車はすでに大破。残った車両も、氷に包まれ沈黙していた。
パリッ……
もう一度、硝子が砕けるような音が響いた。次にロージャを見た時には、先ほどの冷気は嘘のように消えており、彼女はいつもの調子で斧を肩に担いでいた。
「私は、表を引くって言ったでしょ?」
どこか得意げに笑いながら、遠くのトラックを見据える。氷塊はすでに溶け始めており、彼女の斧からは何事もなかったかのように、水滴がぽたりと砂に落ちていった。
「うぐっ……ぐすっ……」
乾いた車内に、か細いすすり泣きが響く。声の主はセリカ。両手足をきつく縛られ、身動きもできぬまま、冷たい床に押しつけられていた。
みんな、心配してるかな……。
私、どこか遠くへ連れていかれて、そのまま……埋められちゃうのかな……。
――裏切ったって思われたらどうしよう。
……そんなの、嫌だよ……。
……会いたいよ、みんなに……!
胸の奥で膨れあがるのは、罪悪感と孤独と、不安と。 込み上げてきた思いは、言葉となって自然と口をつき、頬からは雫が零れ落ちた。誰にも届かず、ひんやりとした床に吸い込まれていくその涙は、まるで希望の終わりを告げる鐘のように――冷たかった。
静寂のなか、ぽつり、ぽつりと落ちる雫。その刹那――
ドゴォォォォォン!!
「うわぁ!?」
突如、爆発音が辺りを揺らし、車体が大きく跳ねた。続けざまに後部扉が吹き飛び、激しい衝撃とともに外の空気が雪崩れ込む。
「かはっ……けほっ……けほっ……!」
煙が渦を巻いて車内を満たし、呼吸もままならない。咳き込む中で、異質な“冷たさ”がセリカの肌を刺した。
「……寒っ!?ここ、砂漠だよね!?」
吹き込んでくる風は、あまりに冷たく、砂漠の夜とも違う。まるで“氷”のような空気だった。くしゃみを一つ。目が慣れる頃には、煙がようやく晴れてきていた。
視界の先、裂けた扉の外に広がるのは、朝焼けに染まった空と、光を照り返す砂の海。
「な、何!?トラックが……爆発したの!?砲撃でも受けた!?」
混乱する思考に追いつけないまま、セリカは声を上げた。だが、その時。
「セリカちゃん発見!生存確認しました!」
聞こえたのは――懐かしい声だった。
「アヤネちゃん!?」
砂の向こうから届いた声に、セリカの心が跳ねた。まさか、ほんとうに、助けに来てくれたなんて。
「おい!四肢とかもがれてねぇよな?」
「ちょっ!?物騒すぎでしょ!」
茶化すにしてはからなり物騒な言葉に反射的に返しつつ、胸の奥がふっとあたたかくなる。そうだ、この感じ――間違いなく、いつもの日常がそこにある。
「こちらも確認した。半泣きのセリカを発見」
「……っ!」
そのひと言に、セリカの体がびくりと震えた。頬が急に熱を持ち、思わず視線を伏せる。
「なにぃー!?うちの可愛いセリカちゃんが泣いてただと!?そんなに寂しかったの?ママが悪かったわ、ごめんねー!!」
どかっと勢いよく扉の影から飛び込んできたのは、やっぱりあの子だった。
「うわぁっ!?う、うるさい!泣いてなんか……!」
慌てて顔を隠しながら否定するけれど、震える声が裏腹だった。
「嘘っ!この目でしっかり見た!」
「泣かないでください、セリカちゃん!私たちが、その涙、拭いて差し上げますから!」
次々と顔を覗かせる仲間たち。その声は、どこまでもあたたかくて、騒がしくて、優しくて。壊れかけていたセリカの心を、そっと包んでくれる。
「もうっ!子猫ちゃんったら、そんなに強がんなくていいっての!」
「もう!?さっきから何なの!?黙れーーーっ!」
顔を真っ赤にして怒鳴るが、涙は止まらない。嬉しくて、情けなくて、でも、 なにより、心からほっとしていた。
「……結構余裕そうですね」
ぽつりと誰かのつぶやきがこぼれた途端、ふっと場の空気が緩んで、笑いが広がる。
“うん、元気で安心したよ”
その声を聞いた瞬間、涙がまた止まらなくなった。 みんな、ちゃんと来てくれた。 全部、間に合ってくれた。 ようやく少し冷静さを取り戻したセリカは、先生の顔を見つけて眉をひそめる。
「ていうか、何で先生まで!?どうやってここまで来たの!?」
その問いに返ってきたのは、実にこの人らしい、ふざけた答えだった。
“ふむ、伊達にストーカーやってる訳ではないからね!それに、さらわれたお姫様を助けるのは勇者の役目だからね!”
……ああ、そうだ。そういえば、この人はそういう人だったわ。
「ちょっと!ストーカーとか、お姫様とか!冗談はやめて!ぶ、ぶん殴られたいの!?」
「うへ、元気そうじゃーん?無事保護完了ー」
何か罵るたびに、誰かが茶化す……。私はこんな日常を、再び取り戻したかったと、セリカは改めて自認した。
「よかった……セリカちゃん……。私、セリカちゃんに何かあったんじゃないかって……」
「アヤネちゃん……」
セリカ救出は無事に成功した。アヤネの安堵の声とセリカの物悲しそうな声がそう伝えたからだ。しかし、これあくまで作戦の半分が成功しただけに過ぎない。
「まだ油断は禁物。トラックは制圧したけど、まだここは敵地のど真ん中だから」
シロコの言う通り、ここはカタカタヘルメット団の本拠地付近である。そんな中で、目的のブツが輸送できなかったとなると、相手はそのまま見逃すわけには行かないだろう。こんなところで立ち止まってる余裕はない。
「トラック……そういえば」
ふと、ノノミが何かを思い出したように、小さく声を上げた。眉をひそめ、目線は何かを探るように宙を泳いでいる。 何か、気になることでもあるのだろうか?
「トラックねー……? 強いて言うなら、“2台も必要だった”ことかな?」
「ほーん? 2台もか」
察しの良いホシノとヒースクリフが、同時にぽつりと疑問を漏らす。 その言葉に誘われるように、全員の視線がもう一台のトラックへと向けられた。セリカが乗せられていた車両と同様に、爆発の衝撃で損傷こそ見られるが、それにしても……やけに重装甲だ。
「なんだか、やけに厳重だね? もしかしたらあれには、もっと大事な物が運ばれてるのかも?」
ロージャの推測は、誰の耳にも現実味を帯びて聞こえた。他の面々も、それぞれに意見を交わし始める。 しかしーー。
「その荷物とやらに、今、時間をかける余裕があるのでしょうか?」
イシュメールの静かな声が、その空気を切り裂いた。
「恐らく、数分以内に敵勢力がこちらへ到達する可能性が高いです。後回しにすべきかと」
その指摘に、場の空気が一気に現実へと引き戻される。誰もが納得する内容だった。
“だったらみんな。カタカタヘルメット団を迎撃できるように、バリケードをーー”
ピロン
先生が指示を出しかけたその時、不意にタブレット、シッテムの箱から軽い電子音が響いた。音に続いて、画面の上に淡い光が浮かび、人型のホログラムが展開される。 アロナだった。
「先生! もう一台のトラックから……おかしな反応を検知しました!」
声には、いつもの穏やかさではなく、はっきりとした緊張がにじんでいる。まるで、追いつめられたような不安と焦りを滲ませながら。
“アロナ? 何かまずいものでも検知したのかい?”
「これは……キヴォトスの観測範囲には存在しないエネルギーパターンです! 空気圧、熱構成、データの流れも全部……違います! これは一体……!」
聞きながら、先生はじっと画面を見つめる。そして、静かにうなずいた。
“ありがとう、アロナ。警告としては十分すぎるよ”
「はい、ありがとうございます! それと……どうか、気をつけてくださいね!」
そう言い残し、アロナのホログラムはふっと光を収め、再びシッテムの箱へと戻っていった。そして、そっとタブレットをしまい、皆んなに向き直る。
“みんな。どうやら、あのトラックの中に載せられている物は、私たちの知らない──それも、かなり危険な代物らしい”
先生の言葉に、なんだなんだと、全員の視線が先生に集中する。
「危険って……どれ程のでしょうか?」
ドローンを操作しつつ、バリケードの配置を確認していたアヤネが、眉を寄せながら問い返す。
“ひとつ言えるのは、もしそれが相手に渡れば、この戦況は一気に覆される可能性がある。そして将来的にも、キヴォトス全体が危機的状況に陥るかもしれない”
言葉を慎重に選びながら、先生は皆へ警告を告げる。不確かでありながらも、放置するにはあまりに不穏すぎた。
「ええ!?それほどの事なの!?」
キヴォトス全体という言葉を聞いて、急にスケールが大きくなったことに、セリカは驚愕した。
「だけどさ、今ここで防衛を崩すのは悪手なんじゃない?」
ホシノが、あくび混じりにそう返す。だがその指摘は的確だった。
“ホシノの言う通りだね。だから……二手に分かれよう”
先生は状況を整理しながら、合理的な判断を下した。
「でしたら……生徒と大人、それぞれでチームを組みましょうか?」
提案したのはイシュメール。すでに先を見据えていたのか、その声に迷いはない。
「いいですね、イシュメールさん! じゃあ、私たちは引き続きバリケードを作りましょう。銃弾が飛び交う戦闘は、私たちのほうが慣れてますし♪」
ノノミもすぐに賛同し、手を動かしながら微笑んだ。冷静に状況を整理できる二人が話を進めるうちに、自然と議論はまとまり始める。
“うん。その方が私は安心かな。生徒たちを率先して戦わせるのは避けたいけど、それよりも何が起きるか分からない物に近づけさせたくないんだ”
先生が静かに言うと──。
「オレたちは、何が起きてもどうでもいいって、そう言いてぇのか?」
皮肉混じりにヒースクリフが口を挟む。解釈がかなり歪曲……いや、そう聞こえてもしょうがない。
“い、いやいやいやいや! そ、そういう意味じゃなくてさ……!”
「まあまあ、善は急げって言うし〜?」
なんとか誤解を解こうとした所、そんなことよりさっさと行こうとロージャに急かさせる。こうして、先生、ヒースクリフ、イシュメール、ロージャの危険物回収班、ホシノ、シロコ、アヤネ、セリカ、ノノミのバリケード建設班に分かれ、物事を進めることにし、これからの戦闘に立ち向かうことになった。
「嘘っ……ヒースクリフ?」
この戦場で、誰かの時間が噛み合わなくなる事を知らずに。
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