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20 海奏
シーコー……シーコー……
単調な音が、砂浜に響く。
「…これ終わったら交代ね」
ポンプを踏みながら、陽向がぼやく。
「いや、大丈夫。」
「俺がもたねぇんだよ!」
シーコー……シーコー……
少しずつ、浮き輪が膨らんでいく。
「……だいぶ膨らんできたな」
「いい感じ!さすが陽向!このまま次も行こうか」
「いや変われよ!?」
シーコー……
ひとつ目の浮き輪にちょうど空気が入り切った頃…
「お待たせー!」
後ろから渚の声。
2人が振り返ると……
そこに立っていたのは、ラッシュガード姿の3人。
「遅くなってごめんー!」
渚は明るい色のラッシュガードを羽織り、いつも通りの笑顔。
その下から、赤い紐が少しだけ見えている。
「お、浮き輪やっててくれたんだ」
紅葉は落ち着いた色のラッシュガードをしっかりと閉め、無駄のないシルエット。
そして――
「……お待たせしました」
こはる。
白を基調としたラッシュガードに、やわらかい色合い。
少しだけ大きめなのか、袖が手元にかかっている。
その下から、ひらひらとした布がわずかに覗いていた。
「おぉ!!ありがとうございます!!」
「なんの感謝だよ」
雪斗が陽向に突っ込む。
「お疲れ様、それがこの間買ったやつ?」
動揺を隠すよう、冷静なフリをする雪斗。
「いえーす!かわいいだろぉ」
そう言いながらその場でくるりと回る渚
「みんな本当に似合ってるよ!テンション上がってキタァ!!」
そう言いながら、陽向は二つ目の浮き輪の空気を入れていた。
⸻
みんながシートを敷いたり、ボールに空気を入れたりしている中、こはるは自然と波打ち際まで足を運んでいた。
「……あ」
ふと、こはるの足が止まる。
目の前に広がるのは――
どこまでも続く、青。
鳴り止まない波の音。
いつもとは違う風の匂い。
足元に波打つ、きらきらと光る水面。
「……」
言葉が出ない。
(……これが)
(海……!)
ゆっくりと、一歩踏み出す。
波の動きに合わせて、足元の砂が流されていくのがわかる。
「すごい……」
思わず、こぼれる。
「こはるー!」
ふと我に帰り、後ろを振り向くと…
渚が大きく手を振っていた。
「溺れるよ〜(笑)!浮き輪できたしみんなで入ろう!」
「……はい!」
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大きく返事をし、みんなの元へ急いで戻るこはるであった。
「それじゃ入りますか!」
ラッシュガードのジッパーに手をかける渚。
「早く入って涼みたい〜!」
するり、と脱ぐ。
赤のビキニ。
胸元を編み上げたデザイン。
「どう?」
ポーズをとってみんなに見せる渚。
「……とりあえず、ご馳走様です。」
「何がだよ!!」
陽向のお尻に渚の蹴りが飛んだ。
紅葉も静かにジッパーを下ろす。
現れたのは、落ち着いたハイネックの水着。
「………」
手を前でクロスさせて、心なしか顔が赤くなっている紅葉。
「紅葉さんは本当に綺麗ですよね」
「確かに、すごく紅葉っぽくて似合ってるよ」
率直な意見を言うこはると雪斗。
「……ありがと」
くるっと背を向けた紅葉。
耳が赤くなっていた。
⸻
「最後は……こはるだね。さぁ脱ぎましょう!それとも脱がせましょうか♡」
渚の手がいやらしく動く。
「え、あ……」
少しだけ戸惑う。
「……自分で脱ぎます!」
ゆっくりとジッパーに手をかける。
(……変……じゃないよね……?)
小さく息を吸う。
(……見られてる……)
するり、と下ろす。
白を基調とした、やわらかいデザイン。
ひらひらと揺れる布。
「……」
一瞬静まり返る。
「……え」
「……変、ですか……?」
「……いや」
こはるに視線が集中する。
「なんだろう。普段はあまり主張しないからなのかな」
「可愛いど真ん中」
改めて感想を言う渚と紅葉。
耳まで赤くなる。
「確かにこはるらしいって言うのかな?めっちゃ似合ってるじゃん!」
お尻を抑えている陽向。
「……似合ってるよ」
ぽつりと、雪斗が呟く。
「……!」
「……あ、ありがとうございます……」
こはるは、つい視線を逸らしてしまった。
でも――
少しだけ、赤く染まった顔はほんのり笑っていた。
⸻
「はい」
紅葉がこはるに浮き輪を渡す。
「ありがとうございます!」
初めて触るパンパンに膨れ上がった浮き輪。
どう使っていいのかは分からなくても、手に持つだけでも気持ちが昂揚していく。
紅葉と陽向は脇に抱えたまま波打ち際へと歩いていった。
こはるも後ろをついていきながら、辺りを見渡す。
浮き輪を腰に通している人。
座るような形で浮き輪から手と足と顔を出して浮かんでいる人。
浮かんでいる浮き輪に捕まる形で浮かんでいる人。
様々な使い方をしている。
(……面白そう!)
無意識に軽いビンキーステップをしながら、
2人を追いかけて海へ入っていった。
⸻
「……気持ちいい……」
浮き輪に身を預ける。
焼けるような日差しと、ひんやりした海の冷たさ。
月にいたときのような浮遊感に、心地の良い波の音。
こはるは目を閉じ、全身で海を堪能していた。
側では浮き輪からお互いを落としあっている渚と紅葉。
謎の物体を拾い上げている陽向と、それを見て若干引いている雪斗。
その声すらも心地よく
気づけば、うとうとし始めていた。
その時……
ざぷん
「……っ!?」
少し大きな波。
「わっ……!?」
バランスを崩したこはるはそのまま、ひっくり返った。
「ちょ、ちょっと……!」
浮き輪もひっくり返った拍子に、手の届かないところへ行ってしまった。
「!?」
咄嗟のことで焦るこはる。
必死に水面を叩くこはる。
「たすっ………ぷは!」
ひょいっ
「……何やってんだよ」
泣きそうになったのも束の間、
後ろから腕を軽く支えられる。
「こはる」
「はぁ……はぁ……ありがとうございます」
「足、つくぞ」
「……………え?」
とん
「……あ」
水は、腰くらい。
「……ほんとだ」
「溺れてたな」
「溺れてません!」
「何してるのかと思った(笑)」
「ち、ちょっとひっくり返っただけです!」
頬を膨らませるこはる。
それを見て笑う雪斗。
ムスー
流石に恥ずかしすぎて、ふくれた顔を戻せないこはる。
でも……
「助けてくれてありがとうございました……」
「ちゃんと見てないと危ないな」
そう言って、先ほど流されかけた浮き輪を渡す雪斗。
クスッと笑いながら、
こはるはその浮き輪を受け取った。
少しだけ――
さっきよりも、安心した表情で。
⸻
波打ち際。
「右!右!」
「左だよ左!」
「どっちだよ!」
スカッ
振った棒が空を切り砂浜を叩きつける。
目隠しを取ると棒の隣にはスイカが置いてあった。
「誰だ最後左って言ったやつ!」
笑い声が広がる。
⸻
「ちょっと動くなって!」
「無理だろ!」
渚と紅葉により、砂に埋められる陽向。
「何やってるんですか……?」
「あ、こはるちょっと」
こはるに耳打ちする雪斗
「……!わかりました!」
何かを聞いたこはるはゆっくりと陽向の隣で膝をつき、砂を手に掬い……
胸にかける。
その行為を何度か繰り返していると……
「あの……こはるさん?」
「はい」
「なんで胸に砂を盛ってるんでしょうか?」
「え?雪斗くんが、陽向くんは大きい胸が好きだから、砂で胸を大きくすると喜ぶって聞いたので!」
爆笑する紅葉。
「へぇ〜……そうなんだ……」
微妙な顔で陽向を見下す渚。
「おい!雪斗てめぇ!何言ってるんだ!!」
みんなの笑い声が響いた。
⸻
夕方。
「楽しかった?」
「はい!」
「良かった。でも次は溺れないように気をつけなきゃね(笑)」
(……次………)
一瞬の間。
「溺れてません!」
ムスーっとした表情に変えて答えるこはる。
前では、すでに着替えている渚たちが楽しそうに話している。
こはると雪斗。
「でも……本当に楽しかった。」
「そりゃよかったな」
「……はい」
視線を前にいる陽向たちに移す雪斗。
「みんなも楽しそうで良かった」
笑ってそう呟いた瞬間。
「……あっ」
足を取られるこはる。
どさっ
こはるはそのまま尻餅をついてしまった。
「大丈夫か!?」
全身ずぶ濡れ。
「……大丈夫じゃないです……」
「悪い、ちょっと目離してた」
【ちゃんと見てないと危ないな】
日中の言葉を思い出すこはる。
ふっと、口元が緩んだ。
「本当ですよ……」
わざと頬を膨らませてみる。
「ちゃんと見ててくれないからです」
ちゃぷん
雪斗に水をかける。
「……つめたっ!?」
舌を出して雪斗を見上げるこはる。
「……このやろう」
ちゃぷん
かけ返される。
「きゃっ……!」
「何するんですか!」
ばしゃ!
「先にやったのはどっちだよ!」
ばしゃ!
口では文句を言い合っているが、楽しそうに水を掛け合っている2人。
⸻
「あの2人、何やってんの?」
「ちょっと俺も行ってくる!」
「私たちも混ざろう」
3人が2人の元へゆっくり歩いてきた。
「目を離すとすぐイチャつく」
わざとらしく紅葉が言う。
「違う!」
「違いません!」
「どっち?」
照れる雪斗と笑うこはる。
恥ずかしくなったのか、急に陽向の方に身体を向ける。
「陽向、ちょっとこっち」
「ん?どうした?」
「渚も」
「え?なに?」
陽向に見えないように渚に手で合図を送る雪斗。
それで何かを察した渚。
3人が集まると。
雪斗は陽向の身体を。
渚は陽向の足をそれぞれ持ち上げた。
「おい!やめろ!!」
どぼん
「うわああああ!?」
笑い声が、広がる。
夕焼けの中。
時間は、ゆっくりと流れていった。