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善悪が結城(ゆうき)昭(あきら)の掌(てのひら)を両手で握りしめて感謝を伝えていると、インヴィディアがお茶を運んできて二人の前に置き、コユキに向き直って言ったのである。
「コユキ様、丹波(たんば)晃(あきら)と名乗るお客様がお見えになっていますが、どう致しましょうか? 何でも善悪様に相談したい事があるとか…… 別室にお通しして宜しいでしょうか?」
「へ? 晃くんが? 一年ぶりじゃない! 懐かしいわね、なんだろ? 善悪、ちょっとアタシ行ってくるわねん」
晃君、そのキーワードが善悪を歓喜の世界から現実に引き戻すのであった。
「むむむっ! 待つのでござる! アキラクンは拙者に相談があるのでござろ? ちょっと行くなら僕チンが行ってくるのでござるよっ! 結城氏、少しだけ待ってて欲しいのでござる、なあにどこの馬の骨とも知れぬ下らない男でござる! 直ぐ追い返して帰って来るのでござるよ、申し訳っ!」
そう言うとコユキの答えも結城昭の返事も聞かずにさっさと席を立って行ってしまったのである。
残されたコユキは、面識も関わりも無い結城昭相手に緊張からくる不整脈を堪(こら)えながらも言葉を掛ける。
何しろこちら側でまともな人類はコユキだけだから仕方なく話すしかないのである。
「えっと、なんかすみません、来客中なのに……」
結城昭が答える。
「いえいえ、突然押し掛けたのは僕達も同じですからお気になさらずに…… それにしても意外でしたよ、善悪さんがあんな反応見せるなんて! 僕達の中では穏やかな人って印象でしたから…… 怒ってるみたいでしたよね、今?」
コユキは溜息混じりだ。
「そうなのよ、最近アタシが男の人とご飯食べに行ったりちょっと遠出したりするとムキになるんですよぉ、全くイミフな坊主で困っちまってんのよぉ、あ! です」
結城昭はピンが来た風味の表情でコユキに聞いた。
「えっ! それって…… あの、善悪さんとのご関係は? お名前も聞いても良いですかね?」
「ああ、アタシはコユキです、茶糖コユキ、字はコーンビーフのコにユッケのユ、キッシュのキねん、善悪とは幼馴染で今はパーティーメンバーで相方? まあ、一心同体みたいな感じなんです」
なぜ食べ物なのか…… というかカタカナって言えば良いんじゃね?
んまあ、コミュ障の割には丁寧に説明している所は評価して良いんじゃないかな。
頑張ったコユキを褒めるでもなく、顎に手を置いた結城昭は独り言のように呟くのであった。
「幼馴染、か…… パーティー? ゲームとかかな……」
「おおお、えらいつんどるやん、あしふまれたわぁ、まあ、だりやめやけんだんないんな…… こんちゃー!」
ずかずかと本堂の敲(たた)きから上がって来た男性に対してコユキが驚いた顔で言った。
「なっ! 秋沢(あきざわ)明(あきら)じゃないのよ! アンタまで突然の訪問なんて、一体何だって言うのよぉ!」
「ははは、はざんことないやん、ほい、これ」
にこにこと笑いながらコユキに大きな包みを手渡す秋沢農園の育牛農家、秋沢(あきざわ)明(あきら)である。
コユキはずっしりとした包みを受け取りながら聞いた。
「A5ね」
「A5だよ」
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