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第一章 一話
「 陽ってなんでも似合うよね〜。 」
なんて言いながら朱音が陽の髪の毛をいじる。私はその言葉にありがとうと笑って答える。
「 本当!今日のシュシュ、この黒髪にすごい似合ってる! 」
奏ちゃんがそう言ってくれた。奏ちゃんは純粋に私に優しくしてくれるから、その面では安心できた。
「 ありがとう!嬉しい 」
この言葉には笑顔がひきつらずにちゃんとお礼を言える。
「 でもさぁ〜。正直陽がこんなに褒められてるのってなんでかわからなくない? 」
その言葉で一気に四人の空気が重くなった気がした。
「 それなぁ〜。だってさうちらとあんま顔面偏差値変わんないでしょ? 」
そう言いながら朱音とひよりが笑ってる。私は笑顔を崩さないように苦笑する。笑顔がひきつっていても、笑えていたらなんでもいい。
「 まぁまぁ、普通に朱音もひよりも陽もすっごい可愛いじゃん! 」
「 そんなこと言ったら奏もね! 」
なんて、私だけ会話に置いてかれている気もするけれど、今会話に入ったら逆におかしな目で見られてしまう気がするから。私は笑顔で3人が話しているところを見守る。
ふと、窓の外を見ようとしたら、手前にいる氷室くんと目があってしまった。
彼はすぐに目を逸らしてしまったけど、何故か少しみられていたような気がして、とても落ち着かない。
あの時の私はちゃんとした普通の笑顔で笑えていただろうか。
陽は黒板の文字をなんとなく追いながらも、頭の中ではずっと朝の朱音とひよりの言葉が忘れられなかった。
あの時私はちゃんと笑えていただろうか。本当の笑顔を見せることができただろうか。
全く授業が頭に入ってこなかった、なんて一人で考えながら教科書を閉じた。3人が此方にくるまで少し暇だなともう一度席について窓の外をみていた。
「 朝のあれ、本当に笑ってた? 」
後ろの方から誰かに声をかけられた気がした。私は反射的に振り向く。
後ろには、此方を向いている氷室くんがいた。私の返答を待っているかのようにその場から動かずに、全てを見据えているような目で私をみていた。
「 勿論!ってか、本当にって何?本当の笑いしか私はしないよ? 」
当たり障りのない言葉を選んで話した。もし勘づかれても困る。
「 いつものあんたの笑顔。偽物だろ?無理してるんだろ? 」
「 そんなことないよ、私は普通に笑ってるよ〜!」
本当になんなんだろう、この人は。私の秘密を全て暴いていく。誰にも言う予定のなかった秘密を。こうも簡単に暴かれてしまうものなのかな?
“誰にも見つけてもらえない”かぁ、そんなのとっくの昔に知ってたよ。お母さんとお父さんが弟のことしか見てないことも。
友達だと思ってた子たちは殆ど、仕方ないから私と仲良くしてるのも。
あぁ、気づきたくなかったな…。
でも、心の中では誰かに気づいて欲しかった。”私の笑顔”を見抜いて欲しかったのかな。
そして、そのまま氷室くんは教室を出て行った。あの人が何をしたいのか私には全くわからない。でも、少しだけ彼に興味を持ってしまっている自分もいた。
「へぇ〜?陽ってああいう系が好きなんだ?」
今の会話を聞かれてしまっていたのだろうか?後ろから朱音の声がした。
「え!?全然そんなことないよ?ただ話してただけ…。」
「無口でクール系ねぇ、うんうんいいんじゃない?」
元気に笑っている彼女の声には棘があった。ひよりも後ろから朱音を援護するように言う。
「まぁ、陽って誰とでも話せるもんね〜。」
周りから見たら褒められているように見えるかもしれないけれど、私から見たら凄く貶しているように見える。私の被害妄想かもしれないけれど、何処か、いつもの感じじゃない。
私は必死に笑顔を作って、首を横に振る
「ううん!ただ席が隣だから普通に話してただけだよ?」
「そうかなぁ?まぁ陽はなんでもそつなくこなすしねぇ。羨ましいな〜」
そう言った彼女の目は全く笑っていなかった。
奏ちゃんは少し焦ったような顔をして、でも何も言えなかったのか静かに下を向いてしまった。
でも私は大丈夫。笑っていれば…!きっと笑っているだけでも世界は明るくなるから。
場の空気が少し凍ったような気がした。私が何も言い返せなかったからなのかもしれないし。話題がなくなってしまったからなのかもしれない。ただ、今の私からしたら沈黙が一番怖かった。次に何を言われるのか、それともまだにこにこ笑っていた方がいいのか。
どうすればいいんだろう…。
ふと、背後からの視線を感じた。振り返ってみると、氷室くんがこっちを見ていた。もしかしたら今の話を聞いていたのかもしれない。
ただ、さっきまで教室の外に行っていたはずの氷室くんが気づいたら後ろに居るのはなかなかのホラーだな、それよりも私は彼の目を直視することができなくて、顔を逸らしてしまった。