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朝、ヒノトは四時に起床した。
「うわ…………始業式の日もこんなことあったな……」
そして、中央ホールの自動販売機へと向かう。
「よー、グラム。おはよ〜」
眠気まなこ、いつもの様に早朝からゴミ回収をしているグラムに声を掛け、軽い挨拶を交わす。
「あまり寝られなかったのか?」
「あー、楽しみすぎて…………」
「ふっ、まるで子供だな」
「うるせぇやぃ」
チリン、と、スポーツドリンクを買い、自室に戻る。
今日は授業のない休日、風紀委員に挑む最後の砦。
普段よりも段違いに、観客で埋まるだろう。
何度も足繁く通った闘技場。
遂に初陣戦を飾れるこの日に、リゲルとの試合というのもまた、ヒノトの闘志を燃やすものだった。
初めて声を掛けてくれた友人。
それは、初めて正式に戦う相手になった。
リゲルに借りたままのノートを掲げる。
「助けたいとか、多分、勇者ならそう言うことも考えないといけない。でも、今の俺はそんなことより…………早くお前と戦って勝ちたい…………!」
そうして、ノートを机に戻した。
――
ブレイバーゲームの闘技場控え室には、怪我を防ぐ為の専用の武器と防具が揃えられていた。
「ふぅん、この透明な剣に属性魔法が乗って、剣術魔法の判定をしてくれるのか。いいなぁ、魔法使える奴ら」
剣は鉄ではなく、魔法で創られたエネルギー体で、相手に振るっても怪我を負わない。
しかし、防具のセンサーがそれをキャッチし、どれくらいの損傷を与えたかを判定する。
「魔法防御に優れるが、先日のレオの試合みたいに、あそこまで過負荷で吹き飛ばされれば、流石に無傷とは行かないから、注意するんだよ、ヒノトくん」
リオンは、着慣れたように防具を淡々と身に付けていた。三人は、リオンに教えてもらいながら、なんとか時間をかけて防具の装着を済ませた。
『今回の試合は、風紀委員 VS DIVERSITYです! まずは風紀委員の入場です ―――――― 』
アナウンスにより、風紀委員の出場が促される。
『続きまして、DIVERSITYの入場です ―――― 』
「行くぜ!!」
ウォーーーーー!! と、目にも止まらない大歓声がヒノトたちを包み、今までの闘技場で過去最大人数を誇る観客で賑わっていた。
後ろ姿に、ヒノトは、震えていた。
「ヒ、ヒノト……大丈夫…………? 流石のヒノトも、この人数だと緊張…………」
リリムがヒノトの顔を見ると、
「す、すっげぇーーーーー!! ブレイバーゲーム、最高…………!!」
「これからよ!! これから!!」
パシン!と叩き、風紀委員たちと睨み合う。
「君たちが最後の砦…………君たちを下し、キルロンド王国全てからブレイバーゲームを廃止する…………!」
そして、試合のゴングは、鳴らされる。
いつものように、リゲルは先行し、背後から雷シールドとカナリアの洗脳魔法が与えられる。
「グラム…………!!」
「おう…………」
“岩防御魔法・岩陰”
「あえ…………?」
グラムの岩シールドは、普段ならヒノトだけを覆うはずだが、四人全員を覆っていた。
「俺も、ただ黙って見ていたわけではない。お前たち全員を守れるように、毎日鍛錬を続けていた」
「でも、それだと防御力が落ちるんじゃ…………?」
そんなヒノトの横に、リリムとリオンは並ぶ。
「本来であればそうだね。ただ、リゲルくんの炎魔剣はシールドを貫通する。防御力はあまり関係ない。どちらかと言えば、相手のサポート、過負荷を防ぐ為の防御だ」
そして、一人リオンは前に出る。
「それと…………僕の魔法から身を守る為だ…………!」
“水放銃魔法・水葬”
辺り一面に水の魔力が広がる。
「相手の炎魔法は俺が掻き消そう!! ヒノトくん、リリムちゃん、存分に戦ってくれ…………!!」
ボン!!
「すっげぇ…………流石、グラムとリオンだ…………!」
ヒノトは、目を見開いてリゲルに突撃する。
キィィィン…………!!
リゲルは、今までの戦い全て無表情でいたが、ヒノトと剣を交え、その顔は初めて苦い顔を示した。
「よう、リゲル…………お前の剣術魔法は魔法を打ち消しちまうんだってな…………。でも、俺の剣には魔法なんて大層なモンはねぇ…………!!」
ブォン!!
リゲルは、初めて勢い良く後退させられる。
「キャンディス!! 過負荷対策されてるから過負荷の支援はもういい!! シールドをもっと強く張るんだ!!」
副委員長、雷属性のシールダー、キャンディス・ウォーカーは、咄嗟に援護射撃を止め、シールドに集中する。
「行くぜ、リリム…………!!」
ボン!!
更に強固と化したリゲルの雷シールドに突っ込み、左手をシールドに付ける。
「ただの魔力の暴発だとダサいから、名前を付けたんだ」
“陽飛剣・魔力弾”
ボン!!
ヒノトの左手から暴発した魔力は、いとも簡単に雷シールドを破壊するが、ヒノトは暴発の勢いで自身も吹き飛ばされる。
「馬鹿め…………! そんな体当たりみたいな攻撃でシールドを破壊しても、張り直すだけだ…………!!」
キャンディスが頭に血が上り、声を荒げた瞬間、
“闇魔法・彼岸”
リリムの魔法発動の途端、吹き飛んでいたはずのヒノトの身体は、勝手にリゲルの元へ向かう。
「そこで闇魔法…………だと…………!?」
ザン!!
その瞬間、その場にいる全ての人間が静寂に包まれる。
戦闘開始、僅か五分…………数多くのパーティが一切手を出せなかったリゲルを、ヒノトは吹き飛ばした。
「 ウオォォォォォーーー!!! 」
そして、現実に引き戻されるかのような歓声が上がる。
「ここまでは予測通り…………ここからだね」
「互いに魔族の力を使った。ここからが本当の…………ブレイバーゲームとしての戦いだ…………!」
観客席、ソル率いるSHOWTIMEは目を細めて眺める。
風紀委員長、カナリアは黙り込むが、決して焦った様子を見せることはなかった。
いつもと雰囲気の違う風紀委員長に、雷シールダーのキャンディス、炎メイジのシャマは汗混じりに顔を歪めて後退するが、その動きに戸惑いはなかった。
「安心しろ、DIVERSITY諸君…………僕は洗脳魔法だけで風紀委員長を務めている訳ではない…………」
そして、手から雷をバチバチと放出させる。
「僕はちゃんと強い」
“雷攻撃魔法・グロウサンズ”
ゴォン!ゴォン!ゴォン!と、的確に味方のいない位置を狙い、超高火力の落雷を振り落とす。
“炎魔法・ヒートグラウンド”
そこに、シャマは長年の経験から華麗に降り落ちる位置を予測し、炎魔法を展開させる。
「過負荷は起こさせない…………!!」
“水放銃魔法・水葬”
瞬時に、リオンは相手の炎魔法を水撃で掻き消す。
「フハハハ!! 炎魔法だけ掻き消せても、僕の雷撃をいつまでそのシールドで防げるかな!!」
(確かにそうだ…………グラムくんはただでさえ四人に付与している…………。こんな高火力の雷撃……長くは保たない…………!!)
ボン!!
そんな、魔法の押収する中、ヒノトはカナリアを眼前に捉えていた。
「ヒノトくん…………! いつの間に…………!」
その側には、リリムの姿があった。
「闇魔法・影縫!!」
リゲルを吹き飛ばした後、リリムは咄嗟にヒノトの元へ駆け付け、闇魔法で姿を隠していた。
「貴様ァァァァァ!!!」
“炎魔剣・業火”
ヒノトの前に炎が出現すると、その中からリゲルが剣を向けてヒノトに襲い掛かる。
その目を見て、ヒノトは確信し、ニシっと笑う。
「よう…………待ってたぜ、リゲル…………!!」
「お待たせ…………ヒノト…………!!」
リゲルの洗脳は、解かれていた。