君に拒否権はない ―――――――――― 。
リゲルが、風紀委員長 カナリア・アストレアに呼び止められ、そのまま風紀委員室に連れて来られる。
そこには、副委員長 キャンディス・ウォーカー、書記 シャマ・グレアもせっせこ仕事をしていた。
「紹介しよう、副委員長 雷シールダーのキャンディスくんと、書記 炎メイジのシャマくんだ」
リゲルはそっと二人の目を見てお辞儀をする。
「でも、僕はまだ入るとは…………」
「リゲル・スコーンくん。僕が君に声を掛けたのは他でもない、君のその力…………スコーンの力についてだ」
ギクっと目を大きく見開く。
「どうして…………スコーンのことを…………?」
「愚問だ。我々は風紀委員…………学寮の風紀を守る、それは、生徒を守ると言うこと。ここにいる三人は、この学寮内全ての生徒のデータを網羅している」
「守る…………ですか…………?」
「そうだ。単刀直入に言おう。僕は元王族で魔力量が高く、その上 “洗脳魔法” を得意とする。君は、『炎魔剣を強力に使うほど、自我がなくなる』。間違いないね?」
リゲルは俯き、激しく鳴る心臓の鼓動で答えた。
「僕の洗脳魔法で君の理性を操れば、君は誰一人傷付けることなく、その炎魔剣を存分に扱える…………」
「ぼ、僕を利用する……と言うことですか……?」
「ああ、そうだ」
カナリアは、隠し立てせず、真っ直ぐに見つめた。
「僕の……スコーンの力を利用して、風紀委員は一体、何をする気なんですか……?」
「ブレイバーゲームを廃止させるつもりだ。その為には、数多の強敵を下す必要がある。そして、それを成せるのは、“魔法を翻弄する魔法” 炎魔剣が必要だ」
「ブレイバーゲームを…………廃止させる…………?」
(そんなことをしたら…………あんなにブレイバーゲームを楽しみにしてたヒノトの気持ちを裏切ることになる。そんな誘いに乗れるわけ…………)
「先ほどは、君と話をしたかったから『拒否権はない』と言ったが、君の意向を無視することはしない。これから話すことを考え、君自身の答えを出して欲しい」
それから、カナリアの話が始まる。
「ブレイバーゲームとは、三王国の間で『冒険職に就く者がいなくなった為、戦闘を競技とし、これからの魔族や魔物の脅威に対して新たな戦士を育成する』ことが目的として作られた競技だ。しかし、現時点で魔王は倒され、魔族や魔物に対抗する兵士や、強力なパーティは存在しているし、子供たちが無理に戦わされる必要はない」
「しかし、ブレイバーゲームは任意ですし…………」
「確かに、パーティを組むことも、ブレイバーゲームに参加することも、一つも国からの強制はない。ただ、魔力測定や剣術の授業、強者と弱者が存在する限り、『差別』や『遺恨』と言うものは無くならない…………」
そう言うと、カナリアは顔を苦くした。
「差別や…………遺恨…………」
確かに、王子 レオは実際に威張り散らかしているし、魔王の娘 リリムも、仕方がないが省かれていた。
魔族と遺恨があるのは仕方ないにせよ、レオとの実力差でリオンが悩んでいたこともリゲルは聞いていた。
(それにヒノトも…………強さを必要としない社会なら、魔法が使えないことをコンプレックスに感じることはなかった…………)
「思い当たる節があるようだな…………リゲルくん」
苦渋の顔で、リゲルは言葉を返した。
「僕は……仲間が大変な場面でも、魔族の力の暴走を恐れて……いや、戦うことを恐れて、いつも何も出来ませんでした…………。でも、あれもこれも、ブレイバーゲームがなければ…………」
「そう、ブレイバーゲーム…………いや、そもそもの他者との強さの比較がなければ…………」
「起こり得ないことだった…………」
カナリアの話は、ブレイバーゲームを廃止させることよりももっと深い話だった。
根本を断つことで、差別をなくし、子供たちに真に平和な世界を歩んで欲しいというものだった。
「 “利用する…………” と言ったが、訂正しよう。君が僕の力を利用するんだ。この世界に生きる子供たちの平和の為ならば、僕は喜んで力を貸す。君の手を貸して欲しい。あとは、君自身で決断してくれ」
――
キィン……!
リゲルとヒノトの剣は、交わり合い鳴り響く。
「ヒノト…………俺は、自ら望んで洗脳魔法を掛けてもらっていた…………自分で選んだ道なのに…………。結局、ずっと逃げていたんだ…………。でも、それじゃあ変わらないよな…………!」
ブォン!!
リゲルが力を込めると、炎が舞い散り、ヒノトは強く後退させられる。
「ヒノト! ブレイバーゲームがある限り、この世界から闘争や差別はなくならない!! どころか、俺の父のように……犯罪者になる強者が現れる危険もある…………」
「そうか…………確かにな…………」
「ヒノト…………分かってくれ…………」
リゲルの笑みは、
「で…………」
ヒノトが剣先をリゲルに向けたことにより、消えた。
「強くなりたいこととそれと、関係ある?」
「ま、守りたいから強くなるんだろ…………!?」
「もちろん、守れるならそれに越したことはないよ。俺だってそう思う。でもそれよりさ、憧れちゃったんだ。“勇者” って存在にさ」
ゾク…………
ヒノトは、またいつもの変わらない笑みを溢す。
「お、お前のような奴が……強さを求めて魔族の力を求めたりするんだよ…………!!」
そして、リゲルは再び剣を振るい上げる。
「戦って示せ!! お前の “正義” を!! その “守りたい” って想いを…………!!」
ヒノトも、再び剣を構え、臨戦態勢を整える。
“炎魔剣・陽炎”
「ハァァァァ!!!」
リゲルは、ヒノトの目の前にぼんやりとした影を残したまま、瞬時にヒノトの背後から姿を現す。
ボン!!
「ぐあっ……!!」
しかし、ヒノトは瞬時に背後に魔力弾を放ち、出現した瞬間のリゲルを吹き飛ばした。
「悪いな、リゲル。リリムと色々試して分かったんだ。魔族の力……闇魔法と言っても、決して超常的な力が扱えるわけじゃない。そこには必ず、自然界の理を逸脱しない、魔法としてのロジックが存在する」
「炎魔剣…………!」
リゲルは雷シールドを破壊され、吹き飛ばされながらも尚、剣に炎を纏わせる。
ボン!!
リゲルが攻撃を仕向ける前に、ヒノトは眼前に迫る。
「俺に勝ちたいなら、その父親の炎魔剣じゃなくて、自分の剣で戦えよ」
ザン!!!
そして、エネルギー体の剣で一刀両断、リゲルは、戦闘不能と判定された。
炎魔剣・陽炎は、太陽光から相手に錯覚を見せ、背後の影から現れる魔法。
炎魔剣・業火は、味方の魔法の影から炎を巻き上げ、自身を移動させる魔法。
そして、闇魔法・影縫は、決して姿が消える魔法なんかではなかった。
闇魔法・影縫、ただ、影の中を歩み、自身と触れている者の存在感を薄くするだけの魔法。
闇魔法・彼岸、重力に負荷を掛けるのではなく、対象の重力の方向を変えるだけの魔法。
「ふふふふ…………アハハハハハ!!」
風紀委員長 カナリア・アストレアは、大きな高笑いを上げ、ヒノトを睨み付ける。
「たかが手駒が一つ倒されただけだよ」
そう言うと、金髪から少し、黒髪が出現した。
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