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俺が祖国──韓国を去ったのは、今年の3月中旬のことだった。
出て行くまでが、もう散々だった。アボジからは「勘当する」と宣言され、オモニからは「この親不孝者」と嘆かれ、かつての仲間達からは「もう顔も見たくない」と突っぱねられ、挙げ句の果てにネチズンからは、「死ね売国奴」だの「殺すぞ非国民」だの、SNSで罵詈雑言を浴びせられ。
周りから後ろ指を刺されながらの、出国だった。
そんな俺が向かった先は、極東の隣国・日本。羽田空港を後にして向かう先は、東京・高田馬場。
其処にいるのだ。俺が今一番、会いたい人が。
*
山手線の高田馬場駅を降り、歩いて数分。漸く辿り着いた先は、一軒の賃貸マンション。2階へ上がり、一番奥の部屋──211号室のチャイムを鳴らす。
扉が開き、現れたのは…………愛しい愛しい、俺の唯一。
「いらっしゃい。お久しぶりですね、ヨンスさん」
「菊…………」
「長旅、お疲れ様でした。暫く此処で、ゆっくりしていってくださいね」
「っ…………ああ…………」
菊──俺の長年のチング。俺の一番のペン。そして……誰にも明かすことのなかった、俺だけのチャギヤ。
何年経っても変わることのない、彼の優しい笑顔と言葉に……俺の視界は熱くなり、忽ち涙で滲んでいった。