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#創作
「一部の若者たちの間で紫が流行っているらしいね」
「むらさき……? 紫色ですか」
これはどういう意味なのだろうか。殿下の口から紡がれたまさかの言葉……私はあっけに取られてしまった。
流行調査? 王太子殿下自ら学園に赴いてやることではないだろう。そんなはずはない。きっと何か別の意味があるはずだ。
「リナリア嬢、そんなに難しい顔をしないでくれ。複雑に捉えなくていいから。そのままの意味で受け取ってくれればいいんだ」
殿下には私の考えていることがお見通しのようだ。本当にただの流行調査なのか。それなら少々肩透かし感はあるけど、胸の内を埋め尽くしていた不安な気持ちは薄れていく。
「はい。それでは……あまりお役に立てないかもしれませんが、友人や同級生の話を参考にお答えさせて頂きますね」
殿下は紫が流行っていると言っていたが、私の体感だと最近は白をベースに淡いパステル系の色を組み合わせたものが人気だと思う。花柄も定番だ。紫だと濃いものよりは、青みとくすみが強い灰紫色がより好まれている感じだろうか。
私が持っているなけなしのファッション情報を殿下に伝えた。少しでも参考になれば良いけど……
「なるほど、なるほど。リナリア嬢は『紫』と聞いてそのように答えるのか。ちなみに君自身はどんな色が好きかな?」
「そうですね……私も濃い色よりは淡色の方が好みです。薄い青色とか」
「薄い青か……君の髪色にも合いそうだね。聞いたか? バージル。今後の参考にしなよ」
「いきなり私に振らないで下さい」
バージル様は苦虫を噛み潰したような表情をしていた。そりゃあ、急に私の好きな色の話を振られても反応に困るだろうな。興味もないだろうし……
殿下がやったことなのに、私の方が申し訳ない気持ちになってしまう。
「ありがとう、リナリア嬢。とても参考になったよ。ただ……私が君に聞いた『紫』というのはファッションのトレンドカラーのことではないんだ。君がこの単語を聞いてどんな反応をするか見たかったんだ。試すような真似をしてすまなかった」
「試す……? あの、それは一体どういう……」
「だから最初に申し上げましたでしょう。リナリアは……いや、アルメーズ家は本件に全く関与していないと」
自分の調査結果を疑っているのかと、バージル様は殿下に詰め寄った。なんかまた妙な空気になってきたな。本件ってなんだろう。そういえば……バージル様は大きな事件の調査をしているとか聞いたな。もしかしてそれのことだろうか。
「リナリア嬢。私がバージルと共に学園を訪れたのは、ある事件の調査のため……そして、君に頼み事があったからなんだよ」
殿下の口からはっきりと事件の調査だと明言されてしまった。しかも私に頼み事だなんて……さっきから驚きの連続である。
「さて、それではここからが本番だ。とても大切な話だから誰にも言ってはいけないよ、リナリア嬢。約束できるかな?」
「は、はいっ……もちろんでございます」
「先ほど君に尋ねた『紫』というのは、ある特定の品物を指す隠語として使われているんだ。その品物の名前は『ダークパープル』……頭文字を取って『DP』とも呼ばれている。一応確認するが聞いたことは?」
「いいえ。今初めて聞きました」
DP……ダークパープルか。聞いたことない。話の流れ的に良くないものであるのは間違いないだろうけど……
「そうか、安心したよ。知らない方が健全だからね」
殿下は私に向かってにっこりと微笑んだ。その様子を見てバージル様は溜息をついている。
「DPとは……最近若者たちの間を中心に出回っている有害な薬物のこと。見た目が濃い紫色をしているためそのように呼ばれている」
「薬物……」
ここからはバージル様も殿下と一緒に説明をしてくれるようだ。それにしても薬物だなんて……これは想像していたよりも深刻な話なのかもしれない。
「摂取することで気分が高揚し、眠気や疲労感が無くなると言われている。俗に言うハイになるという奴だな。しかしそれは一時的な錯覚。使い続ければ心身ともに破壊され、取り返しのつかないことになる。幻覚などの精神障害に呼吸の異常……最悪死に至る場合もある」
「そんな恐ろしい薬が……」
「更に依存性も強くて、一度でも手を出せばやめることも困難になる。DPは国外で作られた薬物で、持ち込みは厳しく規制されていたはずだったんだが……ここ数年に渡り我が国での被害が急増しているんだ」
おふたりの話を更に詳しく聞いていくと、外国の違法薬物であるDPを国内に持ち込み、若い貴族をターゲットに売り捌いている者がいるのだそうだ。
事態を重く受け止めた殿下とバージル様は薬物の流入を遮断、そして売人及び運搬に関わった者たちを捕らえるべく、秘密裏に調査をしていたとのこと。
私もこの国の国民であり貴族だ。決して無関係な話ではないが、それでもやはり違和感がある。違法薬物の蔓延……私のような大した力も持たない、一介の令嬢に改まって話してどうなるというのだろう。
「単刀直入に言おう、リナリア嬢。我が国を乱した犯罪者たちを捕らえるため、バージルと共に調査に協力して欲しい」
「はあーー!?」
私は会話をしているのが王太子殿下だということを忘れて、本日一番の大声で叫んでしまった。