テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
私に捜査協力をして欲しいだなんて……聞き間違いではないだろうか。
確認の意味を込めてバージル様の方へ視線を向けると、彼は神妙な面持ちで首を縦に振った。バージル様の表情で確信してしまう。これは嘘でも冗談でもない本気のやつだ。
「恐れながら申し上げます、リシャール殿下。私もこの国の民でありますので、そのような危険な薬物が出回っているという事実に不安と憤りを感じております。ですが、私個人が捜査のお役に立てるとは到底思えず……協力要請という事でしたら、まずは父の方に話を通して頂きたく存じます」
父を主導にアルメーズ家としてなら協力できることもあるだろう。どちらにしろ私だけでは判断しかねる。
「その心配は無用だ。君の父上にはすでに了承を貰っている。後はリナが『はい』と言うだけだ」
「へっ?」
大声の次はなんともマヌケな返事をしてしまう。既に了承済みだと? いつの間にお父様とそんなやり取りをしていたのだろう。全然知らないんですけど。
「一昨日私が君の家に行っていただろう。その時に子爵とは話がついている。リナには我々から直接説明をしようと思っていたので子爵に口止めをしていたんだ。だから知らないのも無理はない」
一昨日とか……それはまたずいぶんと性急な。いや、そういう事ではなくてだ。確かにその日バージル様はうちに来ていた。ある事件の調査のためとは聞いていたが……まさか私自身がそれに駆り出されることになるとは想像もしていなかった。
お父様が許可を出したとバージル様は主張しているが本当だろうか。言われてみればお父様の様子が少しおかしかった気はする。それでもやはり納得はできないな。
「……信じられないって顔をしているね」
「それは……はい。申し訳ありませんが、私などがおふたりのお役に立てるとは思えませんから。なぜ私なのか……理由をお聞かせ頂けないでしょうか」
殿下とバージル様は顔を見合わせて頷いた。私がこのような反応をするのは想定内だったのだろう。
おふたりに協力をするのが嫌なわけではないが、内容が内容なだけに慎重になってしまう。役に立たないだけならまだしも、邪魔をしてしまう可能性だってある。やはりきちんと理由を教えて貰いたい。
「リナリア嬢を選んだ理由ね。色々あるけど、今この場で伝えられるものだとまずは……学園の生徒であることがひとつだね」
「後に詳しく説明するが、学園内を歩き回っていても不自然ではない者の協力が必要なんだ」
殿下とバージル様では目立ち過ぎる。更に極秘の捜査ゆえ、兵を派遣するわけにもいかないとのことだ。
「そして、一番の理由と言っても過言ではないのがリナリア嬢……君の人柄だね。正義感が強く、困っている者を見ると放っておけない。思いやりがあって優しい子だ」
「人柄……? あの、お言葉ですが……自分はそのように言って頂けるような出来た人間ではないと思われます」
一体殿下は何を根拠にそう思われたのか。私とまともに会話をするのだって今日が初めてのはずだ。殿下の発言にますます混乱してしまう。そんな私とは対照的に、彼は相変わらずにこにこと穏やかな笑みを崩さない。
「ジョゼット兄妹からの信頼が厚い。私にとってこれほど説得力のある根拠はないよ」
リシャール殿下とバージル様……そしてステラ。殿下にとって身内ともいえるふたりが、私に好印象を抱いている。それだけで充分だと殿下は語る。
「自分の身の危険も顧みず、他者を助けるための行動ができる人間はなかなかいない。昨年のあの事件……私もステラの幼い頃からの友人として、君に直接お礼を言いたいとずっと思っていた。ありがとう、リナリア嬢」
「いいえっ……あの場に居合わせた者として当然のことをしたまででございます」
殿下が言っている事件とは……ステラが暴漢に襲われそうになった時のことだ。私は彼女を助けようと一心不乱に走り回った。幸いなことにすぐ近くにジョゼット家の護衛らしき男性を見つけることができた。私はステラの危機をその護衛に伝え、彼女は無事に救出されたのだ。あの時は本当に必死で、記憶もところどころ曖昧な箇所があるけど、ステラに怪我がなくて本当に良かったと思う。
「これで私が君を信頼する理由は納得してくれたかな。もちろん感情論だけでなく、身辺調査もきちんと行なった上での判断だけどね。それではリナリア嬢、改めてもう一度聞く。我々の捜査に協力してくれないだろうか」
これはもう頼みというより強制ではないだろうか。このふたり……私が『はい』と言うまで帰してくれなそう。
私に対しての印象が良いのは分かったけど、それだけでは大切な捜査に関わらせる理由としては弱い気がする。他にも何か目的がありそうだが、今ここでは言えないのだろうな。
「……分かりました。リナリア・アルメーズ……謹んでお受け致します」
「そうこなくちゃ。よく決心してくれたね」
#創作
「……君に危険が及ばないよう、私が全力で守る。だから心配するな」
私は彼らの協力要請を受け入れることにした。ここまで聞いてしまっては今後知らないふりをすることもできなそうだから仕方ない。
自分がどの程度やれるかは分からないが、おふたりの期待に沿えるよう精一杯頑張ろう。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!