テラーノベル
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「修君。鏡はもう諦めて、何か他の方法を探した方がいいと思う」
未練がましく割れた鏡と睨めっこを続ける僕に、優しく諭すような口調で由宇が言った。
彼女の言う通り、僕らに残された時間は限られていた。
「うん……そうだね」
僕は溜息をついて、罅だらけの鏡面から視線を逸らした。
「幸い、この森は魔女の保管庫だ。何か、脱出に使えそうな道具を——」
と、あたりを見回した僕は、すぐ近くの茂みの陰に、何かが落ちているのを見つけた。
近寄り、手に取ってみる。
箒だ。
これは、まさか——
僕が口にするより早く、由宇が言った。
「これ、魔女の箒だよ。私を捕まえにきた時、これに乗って空を飛んでた」
なるほど、やっぱりそうか。
僕は頭上の星空を見上げた。
「この箒で真上に飛べば、霧の中から脱出できるんじゃないかな?」
「そっか——確かにそれなら、方向感覚を狂わされても関係ないね!」
由宇が、目を輝かせて僕を見る。
「まあ、問題は僕らにこの箒が扱えるか、だけど」
言い出しておいて弱気になる僕だったが、由宇は、
「貸して」
と僕に手を差し出して言った。
「魔女と力をぶつけ合った時に感じたけど、魔女の魔力と私の力は、なんて言うか、根幹の部分が同じ気がするんだ。だから——今の私なら、飛べる気がする」
由宇の瞳は、自信に満ちていた。
そして——それは決して、過信ではなかった。
由宇は箒に跨り、大きく息を吐いて目を瞑った。
数秒後——その体は、一メートルほどふわりと浮かびあがった。
「よし——なんとかいけそう」
由宇は満足そうに呟くと、一旦地面に舞い降り言った。
「じゃあ、後ろに乗って」
「う、うん」
「落ちないように、しっかり掴まってね」
「……わかった」
邪念を振り払い、おそるおそる体を寄せる。
お腹のあたりに手を回し、ぎゅっとしがみつくと。
「じゃあ、いくよ——」
由宇はそう言うやいなや、僕らの体は地面を離れ、空へ垂直にスーッと舞い上がった。
アニメや漫画などで魔法使いが空を飛ぶのを見るたび、
「箒が股にくいこんで痛そうだなあ。サドルを付けたほうがいいのでは……?」
などと無粋なことを思ったものだが、実際に体験してみるとそんな心配は不要だった。
確かに柄の部分の感触はあるが、箒の上昇に合わせて、僕らの体自体も上昇しているような感覚だ。
木々の上まで浮かび上がった僕らの目に飛び込んできたのは、どこまでも広がる果てのない『森』だった。
紫色の霧は、僕らの真下を中心に、直径一キロほどの円を描くようにして広がっていた。
よし。
目論見通り、霧を抜けられたようだ。
僕はひとまず安堵しつつ、ぐるりと首を回して周囲を確認した。
霧が広がっているのは、何と一箇所ではなかった。
緑、赤、黄色、ピンク——様々な色の霧が、数キロ程の距離を置いて、あちこちに点在しているのだ。
「どうする、修君?」
僕は少し考えたあとで、遠くの方に見える霧に目を止め言った。
「あの、青い霧のところまで飛べる?」
「青……あれだね。わかった」
箒が、目的地目掛けて飛行を始める。
「ちょっと急ぐよ」
その言葉通り、箒はどんどんスピードを増していった。
由宇にしがみつく腕にも、自然と力がこもる。
竜の飛行より、更に速い。
おそらく、高速道路を走る車くらいのスピードは出ているのではないだろうか。
#怪異
阿炎快空
123
リユ
232
#ダークファンタジー
阿炎快空
82
阿炎快空
111
おかげで僕らは、あっという間に青い霧の中心地へと辿り着くことができた。
「……なんか、慣れてるね」
箒から降りた僕がそう言うと、由宇は少し恥ずかしそうに、
「ハリーポッターの映画、よく観てたから」
と笑った。
霧の中、僕はあたりに目を凝らした。
僕の勘は、この場所に脱出の糸口があると告げていた。
「……これって」
僕は近くの木の根元に転がっていたある物を拾い上げ、目を見開いた。
それは、スナック菓子の袋だった。
僕もよくコンビニなどで買う、ポピュラーなお菓子だ。
少し離れたところには、真っ赤な三角コーンが横倒しになっている。
僕と由宇は、少しの間、探索を続けた。
しかし、壊れた家電やタイヤのホイール、ビニール紐でまとめられた古雑誌など、しょうもないものしか見つからない。
まるで、不法投棄の現場だ。
さっきまでとは、明らかに保管しているものの質が異なる。
一体どういうことだ?
と、そこまで考えた時——僕の目が、あるものを捉えた。
僕はそれに見覚えがあった。
何しろ、少し前に目にしたばかりだ。
近寄り、拾い上げる。
それは、水が薄茶色に濁り始めたスノードームだった。
ここは——この場所は、まさか——
「ねえ、修君。これ……」
振り返ると、由宇は手に何かを持っていた。
テープの伸び切ったVHSだ。
手書きでラベルに書かれたタイトルは——『ホームアローン2』。
「一体、どういうことだろ?」
混乱する由宇とは対照的に、僕には答えが見え始めていた。
顎に手をやり、考えをまとめる。
「間違いない——ここはきっと、オーマの『森』だ」
「オーマの?ナハトの『森』と、オーマの『森』が繋がってるってこと?」
「うん。ひょっとすると、あらゆる猫の『森』は、一つに繋がってるのかもしれない。というより——もともと『森』は一つで、猫達一匹一匹にある程度の領域が割り振られてる、って感じじゃないかな」
僕は、さっき空から見下ろした、色とりどりの霧のことを思い出していた。
「たぶんだけど、この青い霧に覆われている場所が、オーマの領域なんだと思う」
「仮にそうだとして——ここから、どうやって脱出しよう?」
そう、それが問題だ。
何とか、オーマにコンタクトが取れればいいのだが。
僕は息を吸い込むと、両手を口に当て、星空に向かって大声で叫んだ。
「おーい!オーマ!僕だ!修だ!ここから出してくれーっ!」
しかし、声は虚しく響き渡るばかりで、何事も起きなかった。
「駄目か……」
「今度は、私がやってみるね」
パン、パン、と両手で自らの頬を叩いて、由宇が言う。
「大声じゃなくて、オーマの脳内に直接呼びかけてみる」
「そんなことできるの?」
「わからないけど——にゃははうぺーが私に呼びかけてくれたやり方を応用すれば、もしかしたら」
自身に言い聞かせるようにそう呟くと、由宇は目を瞑り、大きく深呼吸をした。
コメント
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うわっ、ついに箒で空を飛んだね!由宇ちゃんが魔女の力を感じ取って、自分の力で飛べるって言い切ったシーン、すごくかっこよかったよ🖤 それに「ハリーポッターの映画よく観てたから」って照れながら言うところ、可愛すぎた……! で、青い霧の先で見つけたスノードームとVHS——あれって確か前に出てきたアイテムだよね? オーマの領域と繋がってるっていう修くんの推理、すごく納得。色とりどりの霧がそれぞれの猫のテリトリーって発想、ゾクゾクする……! 最後の由宇ちゃんの「脳内に直接呼びかけてみる」って挑戦、どうなるんだろう。続きが気になる〜!