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医療ポッドで体力を回復するつもりだったんだけど、予想より時間が掛かってしまった。フェルが言うには保有マナが減少していたから無意識に身体強化魔法を使ったんじゃないかって。一般的な魔法ではあるけど、私が使えばどうなるかと言えば軽いマナ欠乏症になっていたわけだよ。
いや、正直小さい頃から何度もなっているから慣れっこではあるんだけどね。
取り敢えず服を着てフェルと一緒にメディカルルームを出たんだけど違和感を感じた。まずカレンが居ないこと。私より早く終わったんだろうけど、カレンの性格的にフェルとお喋りでもしながら待っていそうなんだけどなぁ。
その事をフェルに質問しようとした瞬間、通路にある窓から外の景色を見て唖然とした。極彩色の空間……ハイパーレーンだ!なんでゲートに入ってるの!?
まだ医療シートやトランクを渡していないし、食料品も受け取っていないのに!
フェルに質問する前に、現れたばっちゃんが事の次第を教えてくれた。
「センチネルの探査彗星!?」
「あいつらの常套手段でね。近くにセンチネルの拠点があるか分からないけど、次がない保証はないかな」
「それなら戻らないと!地球が危ないじゃん!」
「戻ってどうするのかな?オメガ弾はもう無いし、プラネット号じゃ火力も足りないよ」
「それでもギャラクシー号を使えば内側からなんとか出来るかもしれない!」
『残念ですが、ギャラクシー号は先程の無茶でシールド発生装置が大破しました。これ以上の運用は禁止させていただきます。今後に備えて更なる戦力の強化を強く推奨します』
「そんな!それでもなにか方法が……!」
今こうしている間にも危険が迫っているのに地球を離れるなんて!
「はぁ……ティナちゃん、これ以上無茶をすれば死んじゃうよ。それでも君は満足だろうけど、君が死んだらフェルちゃんはどうなるのかな?」
「あっ……」
咄嗟にフェルを見てしまった。彼女は微笑んでいるけど……悲しげだ。
「何事にも一生懸命なのはティナちゃんの美徳だけど、今回の事は看過できないかなぁ。下手をすれば死んでたんだよ。
地球での無茶とは比べ物になら無いくらい危険なことをしたんだ。それに、今回の来訪で君は怪我をしたんだよ?フェルちゃんがどんな気持ちでそれを見ていたか……ちゃんと考えてあげないといけないよ」
ばっちゃんは笑顔だけど目は笑っていない……お説教されるのは久しぶりだなぁ。
……はぁ、考えてみればフェルに心配掛けてばっかりだ。気を付けようと思っていても、目の前でアクシデントが起きたら身体が勝手に動いちゃうんだよね……フェルに愛想尽かされないようにもう少し気を付けよう……。
「フェル……その」
「謝らないでください、ティナ。無茶をするのは止められませんし、これまでの無茶は人を助けるためでしたから、そんなティナを私は誇らしく思いますよ?」
「フェル……」
「でも、無茶をするにしてもバックアップは大切だと思うんです。ここは里長の言う通りにしてみませんか?」
「ばっちゃんの?」
「ついさっき、パトラウスに宛ててメールを送信したんだ。まあ、私達がアードへ戻るまでにはなんとかなるんじゃないかな?」
ゲートを介した通信、と言うよりメッセージのやり取りも可能で滅茶苦茶早い。と言っても片道三日は掛かるんだけど、十万光年の距離を六日足らずでメッセージのやり取りが出来るのは凄い。
「パトラウス政務局長に何を送ったのさ?援軍は無理じゃない?」
ばっちゃんが同行するのだって大騒ぎになったみたいだし、アード人の宇宙に対する恐怖心は筋金入りだ。
でも、引きこもってても何時かはセンチネルに見つかる。アードが滅ぶのを防ぐためには、外に出る以外に道はない。私はそう信じているし、ザッカル局長を含めて宇宙に携わる人達は同じ想いだ。とんでもなく少数派だけどね。
「少なくともメカニックは必要になるかな。それと火力を考えるならプラネット号じゃ限界があるから、新しい船や装備を用意する様におねだりしてみた☆」
「それ、政務局長頭抱える案件じゃん……」
パトラウス政務局長は厳格な人のイメージはあるけど、何だかんだでばっちゃんに甘いからなぁ。
メカニックについては当てがあるし、ザッカル局長も同じ人選をするはずだから心配は要らないかな。フェルもあの娘なら安心できるだろうしね。でも新しい船かぁ。
「正直プラネット号でもかなりもて余してるんだけど?」
だって私達三人が暮らせればいいし、居住区だって大半は使っていない。お掃除ドロイドのお陰で綺麗だけどさ。
「ちょっと考えがあるんだよね☆それに、アリアなら問題ないよね?」
『はい、マスターティリス。たとえ戦艦クラスであろうと問題なく運用することも可能です』
「アリアハイスペック過ぎない?」
フェルもチートだけどアリアも十分に規格外だよ。
「火力があればティナちゃんも今回みたいな無茶をしなくて済む。これはフェルちゃんの安心のためでもあるんだよ、良いね?」
「アッハイ」
まあ、それでフェルが安心してくれるなら文句はないかな。模様替えとか荷物の積み替えはトランクのお陰で簡単だしね。
それから七日後、無事に宇宙の旅を終えて私達はアード星系へと戻ってきた。
惑星アードの軌道上に存在するコロニーのドッグへ入港した。基本的にコロニー内部は無人で、ほぼ全てをAIが管理しているんだけど。
『内部に生命反応あり、数は一人。リーフ人です』
珍しいこともあるなぁ。リーフ人と聞いてフェルの顔が強張る。
「アリア、映像を」
『此方になります』
表示されたホロディスプレイに映し出されたリーフ人を見て、予想通りだったから安心したよ。また変なリーフ人だったらフェルが傷付くし。
「大丈夫だよ、フェル。多分別の意味でビックリするだろうけど」
「え?」
三人でタラップから降りると、そこには予想通りのリーフ人が居た。
肩口で切り揃えられたリーフ人らしい銀髪とフェルと同じ若草色のワンピース。背中には一対の羽根。
これだけなら典型的なリーフ人なんだけど、まず頭に乗せた大きなゴーグル、腰には革製ベルトをしていて工具やら端末を吊り下げてる。両手には厚手のグローブと言う明らかにリーフ人らしくない格好をしてる。リーフ人はあんまり科学の産物を使わないし。
背が高いリーフ人の中では小柄で私より少し背が低い。まあ、歳下ってこともあるけどさ。そして何よりも特徴的なのは、その目の下にくっきりと浮かぶクマと眠そうな目。この娘こそ。
「お帰り~、ティナ姉ぇ」
宇宙開発局ただ一人のリーフ人であり私の後輩、フィーレだよ。