「先輩!」
日帝は乱暴に扉を開けた。顔には焦りの色が滲んでいた。
「何があったんだ?落ち着いて話してくれ。とりあえずは、無事でよかった。」
「は、はい…すみません。冷静さを損なっていたようです。」
「いや、いいんだ。私も少し確かめたいことがある。話を聞かせてもらおうか」
ナチスは意味ありげに目を細めた。考え事をする時の癖だ。
「信じてくださいね。犯人と思われる人物を見つけて、フードをとったんですが、先輩の姿だったんです。」
日帝はたどたどしく答えた。
しかしナチスは満足そうに頷いた。
「やはりな、」
「え?…」
時間が止まった気がした。
「な、どういうことですか?」
「大体は見当がついていた 」
「何故、」
「イタ王が話してくれた。アイツは自分自身を見たんだ。」
思考が追いつかなくて、反応するのが遅れた。
「イタ王は無事なんですか!?」
「ああ、喜ばしいことだ」
イタ王の無事を知って、日帝の表情が柔らかいものになる。わかりやすい奴だ。
すると、タイミング良く扉が開いた。
「あ!日帝!戻ってたんね!」
「イタ王!」
「おかえり、話は済んだか?」
「うん、まったく、国際連合は話が長いよ 」
イタ王は肩を竦めて、椅子に腰掛けた。
「はやく犯人を倒さなくては」
「待て日帝、先走りがちなのは悪い癖だぞ。まずは情報を整理する」
日帝は少しムッとするも、図星をつかれたようだった。
「わかりました、じゃあ、コレを」
日帝は懐から封筒を取り出した。『大日本帝国宛て』と書かれている。
「中身はどうなってるんね?」
「まだ確認していない」
封筒を開けると、中には写真。
「日帝が3人いるんね?」
「いや、よく見ろ。違うぞ」
写真には3人が写っていた。皆そっくりだったが、1人は日帝で、他の2人は誰かは分からなかった。
「…少し1人で考える。何かが思い出せるかもしれない」
「了解だ。気負いすぎるなよ」
「はい」
ガチャリと、音を立てて扉が閉められる。
ナチスはイタ王の方に振り返った。その顔は、先程と打って変わって、弱々しいものだった。
「なあ、イタ王。」
「なに?怖いことでもあったんね?」
「…これを見てくれ」
「うん?」
ナチスは封筒を取り出し、イタ王へ渡した。
案の定、封筒には『ナチス・ドイツ宛て』と書かれていた。
封筒から中身を取り出すと、写真には汚れた茶色の服と帽子を身につけた少年が眠っている姿が写っていた。
「私の姿をした奴が、これを」
「ナチ、何か思い出せそうなんね?」
「思い出した…けど、言いたくない。すまない、我儘で」
「いいよ、日帝には伝えないんよ?」
「伝えるつもりではいる。だけど、少し時間をくれないか?」
「ナチがそうしたいならそうすればいい。イオはナチの味方なんね」
ナチスは強がりだから、弱みを見せない。ただ1人の前を除いて。
「統帥《ドゥーチェ》、少しの間だけそばに居てくれ 」
「好きなだけ、時間の許す限り」
ナチスは俯いて、イタ王の手をぎゅっと握った。イタ王は懐かしい呼び名で呼ばれたことで表情を緩めた。
「イタ王、少し話がある」
「どうしたんね?ナチ」
森の木の影に隠れながら、少し声量を抑えて会話をしているのは、フードを被った2人組。
「本当に、何も感じていないように、覚えていないように見えたのか?」
「うん、あの表情は、ただ驚いているだけだったんね」
「そうか。あと、心配してたことだが、あちらのイタ王は生きてたどころかピンピンしてたぞ?よかったな」
そろそろ警戒が外れる頃だ、行くぞ。
と付け加えて、ナチスは立ち上がった。そのまま振り返ることなく歩いていく。
イタ王はその背中を急いで追いかけた。ガサガサと木の間を進む。
「ちょっ!置いてかないでほしいんね!傷が開くんよ?流石に応急処置はしてもらってたとは言え、能力で完治させるほど敵も間抜けじゃなかったでしょ!?」
「休む権利など私にはない。それくらいは弁えているさ。早く”私達”を解放しなくては」
「その言い方かなりややこしいんね、じゃあなくて!」
「私達は結局はもう居ない者、この体をどうしようと勝手なことだ。」
「ああ、もう!日帝もそんな感じだし!2人共なんにもわかってない!」
「言いたいことがあるなら、その日帝とさっさと合流するぞ」
「まずいまずいまずいぃっ!聞いてよイギリス!」
通りかかったイギリスは、フランスに通行止めをくらってしまった。
「なんなんですか。騒がしい」
「そんなこと言ってる場合じゃないんだよ!」
フランスは深刻そうな顔をイギリスに向けた。イギリスの眉が僅かにピクリと動いた。
「何が起こったんですか?」
「隔離・拘束しておいた犯人が消えてたんだよ!逃げられたんだ!」
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さいっっこう...✨️ 次回も楽しみッッ