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そんなやり場のない気もちを抱えたまま、あたしはステージのリハーサルをくり返す。
バックダンサーとダンスのレッスンを重ね、バンドメンバーと歌い合わせを積み重ねるうちに、刻一刻とツアーは近づいてくる。
今回のツアーは、新しいアルバムのタイトルがついた、アルバムお披露目のためのもの。
アルバムから、新曲をピックアップして歌わないといけない。
バックの人たちには、せめて迷惑をかけないようにしなきゃとは思うけれど、
歌い慣れてない歌は、どうしたって歌いにくくて。
全然歌詞が頭に入ってこなくて、ちっとも覚えられない。
そんなの、だけどあたり前だよね。
だって、当の本人が歌いたくないって、思ってるんだもの。
本当に、歌いたい歌が、歌いたいよ。
ねぇ、お願い
1曲でいいから、あたしの歌を、歌わせてくれない?
いくら追いつめられても、せめてプロ根性ぐらいは見せなきゃと、歌えない歌を必死に歌い込んだあたしは、
声の調子があまりよくないからと、リハを少しだけ早めに切り上げた。
そうして、意を決して、コンサートのプロデューサーへ、
「今回のツアーで、1曲だけ、あたしが作った歌を歌わせてくれませんか?」
と、お願いをしてみた。
たとえムリでも、そうかけ合うことくらいはしないと、あたしもそろそろ精神的に限界ギリギリだったし。
だからもしたった1曲でも歌えたら、少しは満足できるかもしれないとも思えたから。
固唾を呑んで、返ってくる答えを待つあたしに、
「じゃあ、ツアーの最終日に、一度だけならいいよ」
と、プロデューサーはこともなげに言った。
「え、いいんですか?」と、言った自分の方が驚く。
「うん、ツアーの最終日って、確か君の誕生日だったよね。誕生日のサプライズとして、歌うのもいいんじゃない?」
そっか、そういう企画としてってことなんだ。やっぱり抜かりはないんだ。
けど誕生日……だったなんて、そんなの、全然忘れてたし。
「リオちゃん、18歳に、なるんだっけ?」
あたしが年齢をごまかしてることは、事務所のごく一部の人間しか知らない。
『違う、もう21歳になるんだよ』
あたしは、その言葉を胸の奥底に呑み下して、「そうですね」と、プロデューサーへにっこりと笑って見せた。