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17 - 第17話 森下茜(チーフ)と結城宏哉の出会い⑴

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2024年12月22日

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◻︎結城宏哉という男




ここは結城宏哉が住むマンション。


仕事帰りに寄った本屋で買い込んだ、数冊の本を読んでいた。


【絶対成功!素敵なプロポーズ】

【Noと言われない会話術】

【二人で決めるブライダルプラン】


「まずは、Noと言われないようにしないとなぁ。それからサプライズ的な何かプロポーズして喜ばせて、結婚へGO!!ひゅーひゅー♪」


チーフとのことは、想像だけで、テンションが上がる。

冷たい缶ビールをグイッと飲む。森下茜チーフのことを考えるだけで、胸から上が熱くなって喉が渇く。


思い出せば、チーフに一目惚れして早、3年、いやもっとか…。

大学院を卒業して就職して、すぐだから。


_____俺、意外と一途なんだな


昔からいつも女には不自由しなかった。どちらかと言うと、うるさいくらいに集まることもあった。

でも、森下チーフに出会ってから、そんな女たちは全て近寄らせなかった。




3年前の入社式の日。

乗っていた電車が、人身事故で40分も遅れた。遅刻しないように余裕を持って出てきたが、このままでは遅れるかも?と思った俺は、駅から猛然とダッシュした。


朝からきっちりキメた髪型が崩れるのは気になったが、そんなものは着いてから整えればいい。とにかく、スマートな社会人生活を送る計画が、初日から遅刻では台無しだ。


懸命に走って、なんとか15分前には到着しそうだった。


オフィスビルが見えてきて、歩道を駆け足するスピードも上がる。あと100メートル、その交差点を渡って角を曲がれば…。


「うわぁっ!!」


曲がってすぐ、オフィスビルの入り口5メートル手前で、道路工事の現場に突っ込んだ。

おりしも、昨夜までの大雨で水溜りができていてそこに、派手にダイブして尻餅をついた。

ガッシャーンとか、バキッとかジャブンとか色んな音がして、何が起こったか最初は分からなかったけど。


通りを歩く人たちは少し離れて、こちらを見てはクスクス笑っている。驚いた顔の人もいるけど、憐れむような悲しげな顔の人もいて、なんともいたたまれない。まずは顔を隠さなければ、今の時代、誰のアカウントから俺のこの姿がアップされるとも限らない。


_____早く立ち上がって、行かなければ!


とはいえ、せっかくの紺色のスーツが泥水で茶色くなってしまった。着替えなんか持ってないし、とりあえずは、遅れることを連絡しないと。


なのに焦れば焦るほど、うまく動けない。この歳になっても、こんな状況だと泣きたくなってしまう。


「大丈夫?」


不意に、後ろから女性の声がした。


「え、あ、あの大丈夫、だけど大丈夫じゃないですっ!」


「これで顔を拭いて。それから…と。ちょっと、ここの責任者は誰?」


渡されたのは薄い花柄のタオルハンカチだった。それから近くにいた工事現場の人に、責任者を出すように言っていた。




「とにかく!角を曲がってすぐにこんなふうに危険な場所があるなんてどういうこと?もしもこれが、小さな子どもとか、お年を召したここらの企業の偉い人だったりしたらどうするの?」


工事現場の責任者らしい人は、女性に向かってぺこぺこと頭を下げている。


「わかっていただけたなら、再発防止につとめてくださいね!」


そこまで話してクルリとこちらを向いた。


「あなたもね、落ち着いて前を見て歩いていたらここまで酷いことにはならなかったと思うけどね」


「はぁ、すみません」


「ところで、どこへ行くの?」


問われて思いだした、入社式!だけどこれでは行けそうもない。ぽたぽたと裾から落ちる泥水の水滴が涙のようだ。


「泣くな!質問に答えて」


_____え?俺、泣いてた?


「あ、あの、そこのオフィスでの入社式に参加する予定…」


「ん、あーーーっ!!」


そこまで話した時、腕時計を見て女性が叫んだ。


「入社式よ、入社式!遅刻するわ、ほら、行くわよ!」


そう言うと俺の腕をむんずと掴んで、早足でビルの入り口へと向かった。


自動ドアを抜けて、身分証をピッ!まではよかったけど、俺の凄まじい格好を見て警備員が走って来た。


「あの、それではちょっと。本日は入社式ですから…」


「わかってる、ちょっとこっちの非常口から行きましょう」


俺はわけがわからず、ただひたすらについて歩くだけ。非常口からどこへ行くのだろう?俺が歩いた後には、雫が所々に落ちている。


_____綺麗なオフィスなのに汚しちゃったよ


4階まで上がって、フロアに入った。


「こっちよ、来て!」


連れて行かれたのは男子トイレ。


「そこで汚れたものを脱いで、泥を落としておきなさい」


「あ、は、はい」


俺は言われるまま、泥水だらけのスーツとシャツを脱いだ。顔を洗って髪についた汚れも落とす。


コツコツコツとヒールの音がして、さっきの女性が入ってきた。


「や、きゃー」


パンツだけになっていたので、うかつにもおかしな悲鳴をあげてしまった。


「女じゃあるまいし!ほら、これ、着なさい」


差し出されたのは黒いスーツと靴下と靴、それから白いシャツ。


「え?あの…これって」


「さっさと着る!遅れるわよ。あ、ネクタイだけは自分のをつけてね。葬式用しかないから」


言われるままに、着替えた。


「よし、入社式は6階だから、早く!」


「はい、ありがとうございます」



6階に上がり受付で身分証を出す。なんとか間に合った。

入社式には、あの女性は見当たらなかった。


入社式も終わり、一通りの初日の手続きも終えて、さっきの4階まで降りてきた。


_____お礼を言わなくちゃ



あまりの急展開で、名前を聞くどころかお礼さえも言っていなかったと思い出した。




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