テラーノベル
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「夢月! ちゃんと帰ってるな!?」
「ほわぁぁっ!?」
家に帰って来たその後、何だか物凄い勢いで兄が部屋に駆けこんで来た。
帰宅した時は姿が見えなかったので、お兄ちゃんも出掛けてたのか~程度だったのだが。
玄関の扉が開いた音が聞こえたかと思えば、ドタドタと足音を鳴らしながら特攻してきたという。
「き、着替え中なので!」
「ごめんね!? 本当にスマン!」
と言う事で、ズバンッ! と扉は閉められたが。
どうやら兄は扉の向こうに居るみたいなので。
早い所いつもの恰好に戻って、おかえりを言わないと。
などと思いつつも、手早く普段着に袖を通してから扉を開いてみると。
「だ、大丈夫だったか……」
「えぇと、何が?」
はて? と首を傾げてみると、兄は非常に深いため息というか……安堵した様な息を盛大に零していた。
う、うん?
今日の予定はちゃんと伝えたし、朝も駅まで送って貰った。
帰る時間も大体ではあるものの、伝えてあったはずなのだが。
「いや、えぇと、な? 男と言うのは、ふとした瞬間に狼になる生物でだな?」
「比喩表現だって事だけは分かってるけど……平気だよ? お兄ちゃんも黒沢君に会った事あるし、説明もしたよね?」
そんな訳で、ジトーっとした眼差しを向けてみると。
相手は乾いた笑い声を浮かべながら動き始め。
「重大イベントが起こり過ぎて意識の外側に押しやってたけど……俺からも、お土産があるんだ。忘れてた、今取ってくるから」
「お土産?」
なにやら脱力した様子の兄が、フラフラと自分の部屋へと戻って行ったかと思えば。
今度は小包を持って帰って来た。
何やら様子がおかしい兄に再び首を傾げながらも、ソレを開いてみると。
「……ぇと、あの、コレ」
「お前の銃だ。いや、“お前の為だけの銃”だ」
箱の中から出て来たのは、何も描かれていないパッケージ。
まさに試作品という感じで、その蓋を開けてみると。
その中からは、ゲーム内で6keyが使っているハンドガンが出て来たのだ。
待って、待って待って?
何処からどう見てもVR内と一緒だし、リアルで見ると何倍も格好良く見えてしまう。
以前兄から貰ったモデルをベースに、本当に細かい所までカスタムが行き届いた銃。
掴んでみればしっくりくるし、純正品とは比べ物にならない程手に馴染む感じがする。
元々だって良い銃だったのに、コレはもはや別格。
もっと言うのなら、コレを“特別”だと知らしめるような目を引くカスタムパーツ各種。
それ等が完全に現実で再現されたソレが、今私の手の中にあるのだ。
「凄い! 凄いよコレ! 本当に記憶のまんま! え、え!? こんなに凄いの!?」
もはや語彙力を失い、その場でカチャカチャと弄り回してしまった。
完全に新しいオモチャを貰った子供みたいになっちゃったけど、それでも感動が隠しきれない。
あのハンドガンだ! 私が最近使ってる専用武器だ!
なんかもう自分でも良く分からなくなりながら、ずっと銃を弄り回していると。
「……よし、勝った」
「うん?」
「いや、こっちの話だ」
何やら妙に満足そうな表情を浮かべている兄が、満面の笑みを此方に向けながら頷いているのであった。
何か……勝負でもしていたのだろうか?
◆
その後は非常に上機嫌というか、とてもニコニコしながら夕飯を食べる兄を眺めつつ。
此方としても、早く部屋に戻ってさっきの銃が弄りたい! みたいな。
完全に子供思考に陥っていたのだが。
「う、げっ」
片付けをしている時に、兄の方からやけに苦い声が聞えて来た。
「お兄ちゃん、どうしたの?」
洗い物を片付け、エプロンを外しながらリビングへと顔を出してみると。
兄は、非常に深いため息を零しつつ。
「すまん、夢月。本当にちょっとだけで良いんだけど……6keyでログインしてもらって良いか?」
「え、と……? それは全然構わないんだけど……何かあったの?」
これまた首を傾げてしまう様な事態ではあるものの、どうやらお仕事の話らしく。
事情は後で聞く事にして、私達はそれぞれの部屋へ。
そしていつも通り、ガンサバへのログインを済ませてみると。
『悪い、なんか妙に急かされちゃって……前に言ってた新規NPCとの戦闘記録、さっさと報告を上げろって怒られちった……』
あぁ、なるほど。
前に“私自身”とも言える存在と戦った“アレ”か。
賞金首達の行動を記憶して、それを自動化する~みたいな。
そういう一風変わったNPCを製作する企画というか、ガンサバにおいての新しいハードルとなる存在。
前にも確か、他のキャラクターとも戦ってくれ……みたいな事は聞いた記憶があるのだが。
アレから暫く経ってもお声が掛からないので、別に私はテストに参加しなくて良いのかな? なんて思っていたのだが。
どうやら、お兄ちゃんの方で止めてしまっていたらしい。
そんな訳で、私の目の前に……というか、6keyの視界の前に表示される敵情報の数々。
どうやら今夜は、これ等の相手と戦うデータが必要みたいだ。
「私は平気だよ、とりあえずやってみるね? これに関しては、別に録画してPVに使うって訳じゃないんでしょ?」
『あぁ、その通りだ。他の担当にも見せるから、録画はするけど。本当に気楽に、いつも通り……と言うか昔のソロプレイだと思ってやってみてくれ。何人か頼まれてるんだが、今日は一人だけにしておくか?』
「あまりにも苦戦するようだったら、ね? とりあえず端からやってみるよ」
などと言葉にしつつ、表示された情報を確認していくのだが。
誰が誰の情報を元に作られたNPCなのかは、非常に分かりやすい。
けど……けども、ですね。
「顔が皆……見覚えがあると言うか」
『サポーターの面々だな。皆サングラスとかしてるけど、ほぼ悪乗りでスキャンした。特徴とか、雰囲気は結構変えてあるだろ?』
良いんでしょうか、ソレは。
此方としては、非常に見知った顔が並んでいるんですが。
6keyのコピーNPCとか、明らかにお兄ちゃんだし。
他の人を見ても、ちょっとだけ雰囲気が違ったり、別の国の人って感じに変わっていたりするものの。
サングラスを掛けている、髪色が違う程度の変化はありつつも……パッと見、サポーターの皆様だってすぐに分かる。
わ、わぁ。
この人達全員、謝恩会で見た記憶があるぅ……。
「えぇと、それで。私はどの人と戦えば良いの? 本当に全員?」
『いや、戦い方が似通ってるとか、逆にお前が有利になりそうな相手との対戦を優先する様に言われてる。運営側から強い希望が届いてるのは、4と7……あと一応、8本人からも要望は来てるけど。あっちは“お友達にも見て欲しい”って雰囲気が強いみたいだ』
「お友達……えへへ」
『良かったな、仲良い人がいっぱい出来て』
相手からそう言ってもらえた事に対して、思わず変な笑い声が漏れてしまったが。
今はお仕事なんだ、シャキッとしないと。
などと気持ちを引き締めてから、今指定された三人のデータを表示させていく。
能力は本人達のコピー品という状態なのは変わらないだろうが、見た目はやはりサポーターの皆様。
当然ながら、我等がリーダー早乙女さんも居る。
なんか凄い。
まんま早乙女さんの姿なのに、sevenみたいに動き回るのかな。
それはちょっと見てみたいぞ……?
とかなんとか、ちょっと関係ない方向でワクワクし始めていると。
『それからもう一人、こっちは会った事無い人だとは思うが……賞金首10番目のプレイヤー、“timelimit:10”からも要望が届いてるな』
「何と言うか、これまた凄い名前の人だね……」
『一応意味があると言うか、メッセージ要素が強いみたいだぞ? 無関係な人間には分からんさ』
だそうです。
とりあえずリストの10番目のデータを引っ張り出すと。
NPCの見た目は謝恩会で会った記憶のあるサポーターさん、けど……装備が。
「……刀?」
『そう、10に関してはお前以上に超近接戦を好むプレイヤーなんだよ。むしろ刃物の方が得意って勢いでな? しかし射撃の腕も馬鹿に出来ない。て言うのも狩猟免許を持っていて、実際に“ハンター”としても活動している人みたいだ。使うのは猟銃に近い様な武器を選ぶが、中距離射撃の腕は相当なモノだぞ?』
いや、あの。
それって完全に私の上位互換じゃないですか?
私は全然当たらないから近付いているだけだし、格闘術だってガンサバのVR訓練と4cardに教えてもらっているだけの素人。
なのに相手は、リアルの状態でも近接戦が“得意”な訳でして。
更には現実で、しかもこの日本でも銃を扱っている人という事だ。
中距離射撃が得意って……つまり私が得意とする戦闘範囲は、完全に相手の独擅場となる可能性がある。
一旦逃亡を試みた所で、平然と撃ち抜いて来る腕さえ持ち合わせている。
うん、えぇとですね。
私じゃ、勝てないよ? ソレ。
くろぬか
2,704
柘榴とAI

441
柘榴とAI

391
「囧」
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コメント
1件
おお、第125話読み終わったよ!兄貴の慌てっぷりから始まって、夢月専用のハンドガンがリアルで届くシーン、めちゃくちゃ熱かったね。あの「勝った」って兄貴の満足げな顔、なんか微笑ましいし対抗心みたいなの感じたわ。で、最後に出てきたタイムリミット・テンのNPC描写、刀使いでハンター経験者って完全に夢月の上位互換じゃん…「勝てないよ」って呟くシーンでゾクッとした。これは次回が楽しみすぎる🔥