「もみじたん。どこ行くの?」
結仁を連れ出した――
双葉が用事で出かけるからって、朱里に結仁の面倒を見させてた。相変わらず子育てを放棄する女だ。
私は、スーパーに買い物に来て、一瞬、お菓子売り場で1人になったところに近寄った。
「朱里ちゃんは帰って、ママが来てるよ」って言ったら結仁は簡単に着いてきた。
手を繋いで店を出たけど、特にゆくあてはない。
「結仁。お腹空いてない?」
「ねえ、ママは? ママはどこ? 結仁、ママとご飯食べるから」
「……今日はね、もみじちゃんと食べようね。レストランでハンバーグがいいかな?」
「嫌だ! ママと食べる」
私の手を振り解こうとする結仁に、思わずカッとした。
「言うこと聞かないわがままな子。あなたは悪い子ね」
私の言い方が怖かったのか、結仁が泣き出した。そのせいで周りがチラチラと私を見た。でも、きっとみんな思ってる。駄々をこねる子どもと、困ってる母親だろうって。
「とりあえず、ここでご飯を食べよう。いい子にしてたらママが来るから」
「ほんと?」
「ほんとだよ。もみじちゃんは嘘つかないからね。さあ、もう泣きやんで」
私は、穏やかな声で言った。
「うん、わかった」
結仁に罪はない。
赤ちゃんの頃からずっと見てきたからか、正直、この子は……可愛い。
もし私にも子どもがいたら、こんな風に一緒にご飯を食べたり、いっぱい色んな話をしたり、母親として楽しい時間を過ごせるんだろう。でも……
ダメダメ!
バカげた夢を想像してもお金にはならない。私が欲しいのは、小説のネタになるようなアイデア。
「ママ、まだかなぁ? ご飯食べないのかなぁ」
「きっと、もうすぐ来ると思うよ。たぶんね」
小さな結仁を見ていたら、色んな思いが溢れてくる。この子は、理仁さんの子どもなんだ。この子がいたら双葉は幸せになるんだって……
このまま、どうしようか……
2人を苦しめたいと願いながら、それでも目の前にいる可愛い結仁の姿に心が揺れた。
気づいたら、私は、笑顔で結仁の頭を優しく撫でていた。
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