結仁がいなくなった――
どうしても今日中に済ませなければならない用事があって、朱里に結仁をお願いした。
スーパーで目を離した隙に結仁がいなくなったって、朱里は泣きながら電話をくれた。
一瞬、遠くのドアのところでもみじちゃんの姿を見たけど、追いかけても間に合わなかったらしい。
朱里の話を聞いて、心臓が止まりそうになる程驚き、動揺が隠せなかった。でも、もちろん、何度も謝る朱里を責めることなどできなかった。
ママさんにも事情を話し、とにかくみんなで必死に結仁を探し回った。
車に乗らないもみじちゃんだから、そんなに遠くへは行けないはず。
しばらく行きそうなところを手分けして探したけど、いっこうに見つからず、ただ無情にも時間だけが過ぎていった。
「ママさん、朱里。もう大丈夫だから『灯り』に戻って。そろそろ開店準備しなきゃ」
「でも……このままじゃ心配だよ」
「ねえ、双葉ちゃん。やっぱり警察に届けた方がいいんじゃない?」
「うん。双葉、そうしようよ」
ママさんも朱里も、不安な表情を浮かべていた。
「ママさん、ありがとう。でも、もう少し探してみる。結仁は、ものすごくもみじちゃんに懐いてるし、もみじちゃんだって、結仁に何かしたりしないと思うから」
「双葉、優し過ぎない?」
「……私のことは嫌いでも、もみじちゃんが結仁のことを可愛がってくれてたのは本当なの。だから、信じたい。警察沙汰になったら、もみじちゃんの人生が……。今は、ただ私を困らせたいだけだと思うし。私、もう一度、公園に行ってみる。もう少し探していなかったら……警察に連絡するから」
「わかったわ。じゃあ、私達の代わりに理仁君に来てもらうわね」
「ダメ! 理仁さんには迷惑かけられない」
「双葉、いい加減に意地張るのやめなよ。理仁さんは結仁の父親だよ。素直に甘えればいいんだよ」
「……でも……」
「理仁君は必ず来てくれる。ね、双葉ちゃん。これは結仁のためよ」
私は、すぐにうなづけなかった。
でも、ママさんは、そんな私の肩をポンッと叩き、理仁さんのお父さん、常磐社長に電話してくれた。
理仁さんが来てくれるかどうかはわからない。
とにかく今は結仁を探すことに神経を集中させなければ……
私は、広い公園の中を小走りで名前を呼びながら探した。
できることなら理仁さんに迷惑をかけたくない。
結仁は無事だって……そう言いたい。
「双葉!」
突然聞こえた大声にドキッとして振り向くと、そこには理仁さんの姿があった。
来てくれたんだ――
呼吸が乱れているのがわかる。忙しい仕事を置いてでも、我が子のために急いで駆けつけてくれたんだ。そう思った瞬間、思わず泣きそうになった。
理仁さんが近くにいてくれるだけで、どうしてこんなに心強く思えるんだろう。
「双葉、大丈夫か? 結仁は?」
結仁を心配している理仁さんの顔は、いつも以上に凛々しくて、たくましく、父親としての力強さみたいなものを秘めていた。
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