コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
あれからしばらくして理仁さんは海外へと飛び立った。連絡は何度かあったけど、見て見ぬふりをしてしまった。
『遠くから理仁さんの幸せをずっと祈っています。お体に気をつけてお仕事頑張って下さい』
最後の最後、ただそれだけメッセージにして送信した。
呆気なく終わった私と理仁さんの時間。
確かに私は……理仁さんを好きになっていた。
好きな人に抱かれ、幸せだった。
別れを選んだのは、あまりにも生きてきた境遇が違うから。私といたら理仁さんが幸せになれない気がして、どうしても自分の気持ちに素直になれなかった。
そして、何より傷つくのが怖かった。
寂しい。
自分で選んだ結果なのに、理仁さんとの出会いからあの夜のことを思い返しては、涙が溢れた。
それでも頑張って前を向かないと……
私には、借金を返して夢を叶えるっていう希望があるんだから。
「ねえ、双葉ちゃん。最近何だか元気ないよ? 詐欺にあった時みたいに沈んでない?」
もみじちゃんがノックもせずに部屋に入ってきた。
「そ、そうかな? 別にいつもと同じだよ。もみじちゃんこそ執筆どう?」
「うん、何とかね。でもなかなか良いアイデアが浮かばないのよね~」
「そっか……作家さんって大変だよね。私には絶対無理だよ。もみじちゃんはすごいよ。自分の夢に向かってちゃんと進んでる」
「双葉ちゃんも頑張ってるよ~。詐欺にあってもめげずに借金返してて。恋愛もせずに偉いよ」
もみじちゃんも彼氏いない……よね。
「そうだね。彼氏も欲しいよね」
「双葉ちゃんなら頑張れば彼氏できるし、恋愛系のアプリとか登録してみたら?」
「私はいいかな。自然の出会いを期待してみる。もみじちゃんこそ、可愛いんだからやってみたら? きっとモテモテだよ」
「ほんと~? やってみようかなぁ」
化粧はあまりしないもみじちゃんだけど、肌は綺麗だ。眼力があるし、可愛い雰囲気だから、きっとたくさん反応があるだろう。
それからしばらくもみじちゃんは部屋に居座った。
友達ではない、家族でもない、同じ家に暮らしている、いとこ同士という私達の関係は複雑だ。
夜になってベッドに横になり、天井を見つめながら思った。
詐欺のことがあって、もう恋愛はしないと決めた。
だけど、理仁さんへの想いを引きずったまま生きるより、新しい恋をして、私なりに前を向いて進んだ方がいいのかな?
確かに、借金返済からは逃れられないけど、仕事だけの人生もつまらない。もし身分にあった恋愛ができたら……
私も、少しは幸せになっていいのかな?
それは双葉の強がりだ――
理仁さんを忘れられるわけがない!
突然、心の声が聞こえた。
慌てて振り払う。
そうだ。
理仁さんはもういないけど、またプールに通ってリフレッシュしよう。健康のため、あと、見た目も少しは綺麗になれるように。
松雪 双葉、26歳。
これからは、新しい人生を切り開いて前を向く。
過去は消せないけど、縛られたくない。
いつまでもグジグジしてちゃいけないんだ。
こんな風に気持ちを切り替えることができたのは、きっともみじちゃんのおかげ……だね。