瞬く間に数日が経過した。
この間に師匠であるバストロは帰ってくる気配も無く、少年レイブは日を経る毎(ごと)に強まる不安の思いを打ち消すかの様に訓練にのめりこんで行くのであった。
レイブと同じく気に掛かっていただろうに、ペトラとギレスラも師匠たちの帰還が遅れている事には言及せずに、黙々と訓練を重ね続ける、それだけの日々だったのである。
「ぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐる………………」
『グルグルグルグルグルグルグルグル、グガァ……』
『グルグルグルグル、はぁ~、グルグルグルグルぅ』
反復練習は鍛錬の基本中の基本。
とは言え、揃って幼いスリーマンセルには、訂正、立派な大人だったとしても刺激不足、退屈に感じてしまう事ではなかろうか?
四日目の朝食後、血も滴らんばかりのモンスターのほぼ生肉を満腹まで食べ終えたレイブは嬉々とした声で叫ぶ。
「おお! 来た来た来たあぁー! 全身の末端から石化が来たぞぉっ! やばいっ、コレ、ガチでヤバイよ? すぐ死んじゃいそうじゃーん! それっ! グルグルグルグルグルグルーッ! ははははっ!」
『グガッ! ウロコガ、ウロコガァ! グルグルグルゥ! アレレ? ナオッタサキカラマタブアツクゥ! グルグルグルゥ~! ワハハハ、ワハハァ!』
『あはは、アタシプクプクゥ~、からのぉ? グルグルグルでぇ~、げっそり! あははは、何か痛快だわね? ほら又来ちゃったわよぉ~、プクプクからのおぉ~? げっそり♪ コレ楽しいわよねぇ? あははは、あはは――――』
「確かにねぇ…… あっ、そうだっ!」
そうだ? 子供だし、そうそう名案は思い付かないだろう事は想像に易いのだが……
まあ、何かを思いついてしまった子供は大声で自分の仲間、スリーマンセルに宣言したのである。
「これさっ、楽しいじゃない? だから、起きてる間中コレ続けてみようよ? だめぇ?」
頭の可笑しい発言だが、子供なのだ…… 仕方ない、のか?
紅の竜が即答だ。
『ウン、ヤロウヤロウ! コレ、オモシロイヨォッ!』
面白いとか…… ふざけ過ぎじゃね?
漆黒の幼猪(ようちょ)も異論は無いらしい、困った物だ……
『アタシも良いよっ♪ でもあんまり一杯食べられないしぃ~、少ししか付き合えないかもだけどぉ~、悔しみぃ~……』
なるほどね、小さな体では一日中食べ続けていなけりゃならない様な鍛錬には付き合いきれないと…… そりゃそうだろうねぇ~。
あのね、令和の時代のWEB小説じゃあるまいしね、急激なインフラとか有り得ない、そう言う事なんだよ、少年たちよ……
ご都合主義とかつまらないじゃないかぁ~!
そんな私、観察者の予測は容易(たやす)く覆されてしまったのである、続くレイブの声によって、である。
「じゃあやってみようよっ! 僕等ってモンスターの肉に含まれている生命力、所謂(いわゆる)『魔力』を減らすために日に干したり、 塩で固めたりしているじゃない? だったらさっ! 生の肉を握って絞って出て来たエキスだけを飲んだりしたらぁ? 今よりもっともっとぉ、凄いスリルを味わえるんじゃないのかなぁ~? どう? 明日からやってみよっかぁ? えへへぇ~」
うん、馬鹿の提案だよね…… そんな事許すわけ無いじゃんっ! 大人ならねぇ…… しかし、残念ながらこの場に大人は居なかったのである。
子供の竜とお子様な猪は満面の笑顔で言う。
『オオ、イイジャン、アシタ、ヤッテミヨォ! タノシミィータノシミィー!』
『そうだわね…… 確かに、今までどの魔術師もやった事が無い新たなチャレンジ、そんなムードが匂い捲っている提案じゃないのぉ~…… うーん…… 判ったわ! アタシも否は無いわ! やってみましょうよっ! お兄ちゃん達ぃ! アタシ達三人で限界突破、してみましょーっ!』
「やたっ! 明日から限界突破だぜっ! えへへへ」
子供達だけで勝手に決めてしまった翌日以降の鍛錬は思いも寄らぬ結果を産み出したのである。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!