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カレッツァ帝都城下より北へ35㌔地点の平坦な内陸砂丘地帯へと一台の輸送機《アルヴァルウィンド》が砂を巻き上げ降り立ったのは、それから約20分程の事だった。
薄闇の空に光源が伸びる。前後左右に不規則に薄闇を反射し伸縮するその様子は、何かしらの前照灯である事を示していた。
タタンッタンタンタンと今にも止まりそうな原動機の悲痛な叫びを知ってか知らでか、フラフラと砂丘を越え、一台のホバーサイクルが砂埃を引き連れ近付いてきた。
≪マスター服を着てください≫
「んあ~⁉ 嫌だッ――― 」
≪多分メッセンジャー《お客様》だと思われます≫
「ふぅ~んッ、何ソレ? 」
≪きっとこのキャラバン《商人街》を仕切っている人物からの招待かと≫
「使者って事? マジめんどくさ、あたし今、めっちゃ機嫌悪くてぇ。。。何でか分る? 」
≪伺います――― ≫
「此処に連れてこられた意味も分かんないし、目的も聞いてないッ」
≪確かにそうでしたね…… 多分マスターは…… いえ、バルザ様は此処が追っ手から逃れるのに丁度良かった惑星である事と、情報を求めて降り立ったものと考えます≫
「情報って? 遺物《レガシー》関係? それとも研究所関連? 」
≪それは…… 申し訳御座いません分かり兼ねます≫
「はぁ、面倒だけど仕方ないわね。天井裏《バックヤード》ぅ―――」
ヤル気の無い声に次元ボックス《無限収納》が反応し、舞い降りるホログラムが次々とボトボトとお気に入り達のその姿を成す。
フロントジップの一部薄い合金加工を施したレザーベアトップに、同じく革製のダブルショルダーガンホルスターをぐだぐだ背負う。
ウエスト部にレースが有る透け感の高い深紅のガーターベルトは、フリルの付いた大きな網目の挑発的なストッキングと連結され、足先からの艶めかしい全容は、黒い厚底のニーハイブーツによって飲み込まれる。
仕上げには臀部《でんぶ》に大きな紅色のリボンが付いたレザー調のフレアなミニスカートが、リボンの帯を延々と伸ばし、その独特なスタイルの統一感を一手に纏《まと》め上げていた。
≪マスターあのっパンツは履かないのですか? ≫
「うるせぇ~んだよッ、てめぇ~いちいちよぉ、人のキン○マの心配してんじゃね~ぞッ、電源抜いちまうぞ? こっちは棒の取り扱いにいつも悩んでんだっつうの‼ 」
≪よっ余計な一言でした…… ≫
決め技にシルクハットを深く被り、片眼鏡から延びるチェーンを尖った耳に掛ける。持ち手の先端に蝙蝠《こうもり》の彫り物がされた禍々しいステッキを持つと、光学迷彩機能を備えた立ち襟の漆黒のマントを羽織りニヤリと牙を光らせた。
―――なんちゃってヴァンパイアの完成である―――
「これがご先祖様スタイルなんでしょ? ちゃんと塔《研究所》に居る時に地球《グローブ》の歴史は勉強したんだからッ、凄いでしょ? ご先祖って木から生まれたのよね? 」
≪ええと竹…… あのぉマスターが学んだ塔の育成AIのオープンネームとシリアルNo,は覚えておられますか? ≫
「知らんよそんなのッ――― 」
≪ですよね…… ≫
「あたしは月《ルナ》と地球《グローブ》以外の事は全く知らないからッ、頼んだわよバザー」
≪マザーです――― ≫
そんなやり取りもつかの間。ホバーサイクルが近くに停車した事を確認すると、マザーは機体下部のセンター寄りに有るオープンハッチを開き、タラップを下げた。
「ゲコッゲゲゲッコゲゲコゲ~コ」
拡声器らしき物を持ち、蛍光色のレインコート着た顔の側面に大きな目玉がハミ出た生物が、チカチカと光を送り船に向って何かを語り掛けている―――
「何アレ。ウケるんですけどッ若《も》しかしてウチ等《ら》に話しかけてるのかしらッ…… 気持悪ぃでっけぇカエルじゃん。めっちゃ生意気なんだけど」
≪マスター言語ツールをダウンロードしますか? ≫
「嫌よ! だってまた頭に何かブッ刺す必要が有るんでしょ? そんなの無理だから。しかも何でアタシが彼奴《あいつ》らの言語理解の為に方言《なまり》を習得しなきゃならないのよ、共通言語《標準語》でしゃべれない奴等《やつら》が悪い」
≪確かに現在ではイヤー型の小型言語翻訳機が出回っておりますし、貴重な脳内メモリを消費する事を考えますと…… ≫
「ほらッでしょ? でもあのカエルって耳あんのかな? 」
≪お答え致しかねます…… ≫
「まぁいいや。ちょっと聞いて来る。脳内リンクだけお願いねバザー」
≪マザーですっ≫
両の脇の下のホルダーに愛銃を忍ばせる。ベルーガ・ベレッタ社製、M92SOB-F。通称F92オーラバトラー《魔力拳銃》オーラブローバック重粒子エンジンシステムを採用した半自動魔力《オーラ》ハンドレーザー銃。全長217㎜/970g。レーザー射出口径2.69㎜。レーザーライフリングは6条右回りトルネードとなる。自身の魔力《オーラ》量により無限発射が可能であり威力も魔力によって変化する。
タラップを一段踏み出した所で上目遣いの毛玉《モフモフ》を発見すると、ムンズと捕まえ引き摺り出した。ぱちくりする円《つぶ》らな瞳を他所に抱き抱えると、天井裏《バックヤード》から自身が使っていた革ベルトを取り出し首を絞めあげる。
「ぐみゃぁ~ 」
操舵室に転がったままのバルザの剣《ブレード》の鞘にジャラジャラついている装飾品の鎖を引きちぎると革ベルトと連結させた―――
「完璧じゃんッ、さて名前は何にしようかしら」