二人は息をひそめ、夏の夜の冷たい空気に身を震わせた。
廃教会の奥、瓦礫の間から微かに光が揺れる。誰かが、近づいてくる気配。
「……なんか来てるな」
ルイズが小声で言う。耳を澄ますと、靴音でもない、不規則な足音が響いていた。
ロディは目を細め、呼吸を整えた。
彼の視線は、影の奥にある何かに固定されている。
その顔には、普段の穏やかさはなく――静かな覚悟だけが漂っていた。
「ルイズ、動くなや」
ロディの声は低く、鋭かった。
その一言に、ルイズは体が凍ったように動けなくなる。
影がひとつ、ゆらりと現れる。
黒い外套に包まれた人物――監視役だろうか、いや、ただの敵ではない。
「……お前ら、任務中か?」
低く響く声。廃教会の壁に反射して、不気味に広がる。
「……そうや。無駄な動きはせんとけ」
ロディはゆっくりと立ち上がり、ルイズの前に立ちはだかる。
目線は影の人物から外さない。
ルイズは心臓を押さえ、息を整える。
何かが起ころうとしている――それだけは分かる。
廃教会の空気が一瞬にして重くなった。
瓦礫の間に沈む影と、月光に浮かぶ二人の姿。
時間が止まったように、空気が張りつめる。
そして――影が動いた。
ロディは素早く一歩前に出る。
ルイズも咄嗟に身を低くし、準備を整える。
夏の夜に、静かに戦いの幕が上がろうとしていた。
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