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長め。
影が一歩、二歩と近づくたび、床の砂利がわずかに軋む。 ロディの指先は微かに震えながらも、ルイズとの間に立ちはだかり、体全体で防御の構えを取る。
「――誰や、そこにおるの」
ルイズが息を殺して尋ねる。声は小さいが、震えと怒りが混ざり、影に届くほど鋭かった。
影は一瞬立ち止まり、黒い外套のフードの奥から冷たい光が漏れる目が二人を捉える。
その視線は、計算され尽くした獲物のように冷酷で、逃げ場のない緊張を生む。
「……監視役や、任務の確認に来ただけや」
ロディは静かに言った。声は落ち着いていたが、内心の緊張は隠せない。
ルイズはその言葉を信じるしかなかった。
それでも――この影には、何か不穏な気配があった。
影はゆっくりと手を上げ、指先を示す。
月明かりに照らされるその手には、淡く黒い紋様が走っている。
まるで、何かを“封じる”ための印のように見えた。
「――目的は何だ」
ルイズは思わず問いかけた。恐怖よりも好奇心が先に立つ。
だが答えはない。影はゆっくりと一歩、また一歩と前進するだけだった。
ロディはルイズの前に立ち、体を小さく揺らす。
その瞳には決意が宿っていた。
――絶対に、ルイズを守る。
それは、言葉を交わすよりも深く、確かな意志として伝わってくる。
二人は再び息をひそめ、互いの存在を感じながら夏の夜の冷たい空気に身を震わせた。
影はさらに近づき、瓦礫の向こうで月光を反射させる。
――その瞬間、二人の間に、静かに、しかし確実に戦いの火種が灯った。
ロディの手に、黒い紋様がゆらりと浮かぶ。
ルイズはその光を見て、背筋が凍る。
――これが、ロディの能力。洗脳。束縛の力。
そして、二人の運命を揺さぶる夜の幕開けだった。
影が一歩踏み出す。
ロディは咄嗟に間合いを詰め、ルイズの体を盾にして立ちはだかる。
「――ルイズ、何が目的や !」
ロディが叫ぶ。
影は無言で飛びかかる。鋭い刃が光を裂き、二人に迫る。
ルイズも身を翻し、素早く足を蹴り出す。
跳ねる砂利、飛び散る瓦礫、そして交錯する光と影。
問いかける声と、刃を避ける音が教会の中に反響する。
「お前……誰の命令で来たんや!」
「理由を言え!嘘やないんやろ!」
問いかけながらも、二人は動きを止めない。
ロディの紋様が影に触れ、黒い光が一瞬走る。
影はよろめくが、すぐに回避し、再び攻撃を仕掛ける。
戦いは長引き、息も乱れ、衣服も破れ、肌には擦り傷や打撲が増えていった。
ルイズの髪は汗で額に張り付き、ロディの胸元には血の染みが広がる。
だが、互いの動きは途切れず、問いかけと攻撃を繰り返す。
「……な、なんで俺たち,こんな目に遭わなきゃいけないんだよ!」
ルイズは荒い呼吸の中、苦笑混じりに叫ぶ。
「……お前は、僕を信じとるんか?」
ロディも顔を歪ませながら、影を押し返す。
最後の攻撃が交錯し、瓦礫と埃が舞う中で、影は倒れた。
二人もまたボロボロになり、膝をつきながら呼吸を整える。
しばらく沈黙が続いた。
そして、ルイズがはっと息をつき、笑った。
「……ははっ、なかなかええ運動やったな」
ロディも笑い返す。
互いの衣服は破れ、傷だらけだが、心の奥には妙な清涼感と達成感があった。
二人は互いに手を取り合いながら、夏の夜の教会へゆっくりと戻っていった。
月明かりに照らされる廃教会は静かで、だがどこか優しい空気をたたえていた。
――この夜の出来事は、夢でも嘘でも忘れない。