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逃げ場のない白銀の箱庭。
どこまで走っても行き止まりへ突き当たり、振り向けば冷酷な刃が容赦なく襲い来る。
ズサッ! ガシィン!
「あッ……っ!? ん、んぅッ……! くそっ、またこの変な感触が……ッ!」
金色の剣先が掠めるたび、1x1x1x1の肉体を襲うのは凄惨な激痛ではなく、頭の芯が痺れるような甘美(センシティブ)な快感だった。
SWAPSAKENの反転効果によって精神を揺さぶられ、黒い肌を真っ赤に染めながら膝を折る1x1x1x1。
肉体的な屈辱もさることながら、彼を最も痛めつけていたのは、テラモンのあの目だった。
白いフードの暗闇の陰から見下ろしてくる、色も温度も存在しない無機質な瞳。
自分をかつての半身としても、不倶戴天の敵としてすら見ず、ただの「排除すべき障害物」として処理しようとするロボットのような冷酷さ。
何度も記憶を揺さぶり、ライムの香りを漂わせ、毒リンゴを食わせ、必死にアピールしてきた。
それなのに、目の前の男は相変わらず機械的に剣を上段へと構え直している。
「……ターゲットの行動不能状態を確認。……頭部の切断による最終処置を開始する」
淡々と告げられる無感情な音声。
その瞬間、1x1x1x1の胸の中で、恐怖や情けなさを遥かに超えた「限界突破の怒り」が爆ぜた。
「――いい加減にしろよ、このわからずやのボケナスがぁぁぁッ!!!!」
1x1x1x1は金色の刀身が振り下ろされるコンマ一秒前、サバイバー以下の運動神経を全開にして地を蹴った。
避けるためではない。己を殺そうとする刀身の懐へ、正面から突っ込むためだ。
「なっ……!?」
「殺したいなら勝手に殺せよ!! 斬り刻むなり首を跳ねるなり好きにしろ!!」
1x1x1x1は叫びながら、テラモンの重厚な白黒の鎧の腰元へと、なりふり構わず全力で飛びついた。
ガシャンッと激しい金属音が響き、黒地に緑のローブがテラモンの身体を力任せに抱き抱える。
「……対象の不規則動作を検知。即座に離脱を――」
「離れるかよ!! 黙って聞けッ!!」
1x1x1x1はテラモンの腰に必死にしがみつき、鎧の隙間に顔を埋めながら、泣き出しそうな声で叫び散らした。
「忘れたとは言わせねぇぞ!! 俺はお前の一部だったんだ! お前という完璧な神から切り離された、邪悪で、不完全で、お前の一番泥臭い部分そのものなんだよ!!」
しがみつく指先に力がこもる。
1x1x1x1の体から発せられる、生きている者特有の灼熱のような体温。
お茶会で全身に浴びた、爽やかで甘酸っぱいライムの濃密な香り。
そして、泥臭く泥泥に塗れながらも、決して半身を諦めようとしない男の魂の叫び。
それらすべてが、ゼロ距離でテラモンの身体を通じて、胸の奥深くへとダイレクトに叩き込まれた。
「お前が俺を忘れて捨てるっていうならな……俺は死んでも化けて出て、お前が死ぬまで一生付きまとってやる!! どこへ行こうが、どんな世界へ堕ちようが、俺はお前の半身だ!! 認めろこの分からずやーーーッ!!」
ガァァァァァン……………ッ!!!!!
その叫びが響き渡った瞬間。
テラモンの脳内回路に、致命的なまでの巨大な「バグ」が発生した。
1x1x1x1の熱い体温が、冷え切っていた鎧を伝わってテラモンの皮膚を灼く。
鼻腔を突くライムの香りが、かつて二人で下界を見下ろしていた神殿の記憶を鮮明に呼び覚ます。
そして何より、自分にしがみついて狂おしいほどの執着をぶつけてくるこの愚かな半身の存在が――テラモンの魂に打ち付けられていたSWAPSAKENの「無感情の反転の呪い」を、内側から粉々に砕き割った。
「……ッ、グ……ぁ……ッ!?」
テラモンは金色の剣を取り落とした。
カシャンと乾いた音を立てて剣が白銀の床へ転がる。
白いフードの陰、深く沈んでいた暗闇の中、瞳に光が灯った。
幾重にも絡みついていた機械的な思考ノイズが弾け飛び、冷酷だった表情が一変して人間らしい「不快感」と「困惑」へと書き換えられていく。
「……く……っ、う……」
テラモンは胸を押さえ、荒い息を吐きながら、己の腰に不格好にしがみついている黒い頭を見下ろした。
その瞳には、すでに機械の冷たさは欠片も存在しなかった。
代わりに宿っていたのは――あまりにも馴染み深い、かつての「呆れ」と「深い溜息」だった。
「……1x……?」
「……え?」
聞き慣れた、低く澄んだ、だが確かに「感情」の乗った声。
1x1x1x1が恐る恐る顔を上げると、白いフードがかすかに捲れ、茶色い巻き毛の隙間から、元の説教くさい眼光で自分を見つめ返してくるテラモンの素顔があった。
テラモンは眉根を盛大に寄せると、心底嫌そうな顔をして言葉を吐き捨てた。
「……なんだ、その汚くて見苦しい抱きつき方は。離れろ、暑苦しい」
「て、テラモン……!? お前……お前、俺がわかるのか!?」
「当り前だ、この愚か者が。お前の鬱陶しい声と目の醒めるような柑橘の香りのせいで、正気が戻らざるを得なかったのだ……まったく、どこへ行っても騒がしい奴だな」
「テラモぉぉぉん!! 元に戻ったぁぁぁぁッ!!」
1x1x1x1は歓喜の悲鳴を上げ、さらに力任せにテラモンの腰へしがみついた。
テラモンは「鬱陶しいと言っているだろう!」と嫌そうに1x1x1x1の額を拳で力任せに押し戻そうとする。
しかしその手つきには、先ほどまでの殺意など微塵も残されてはいなかった。
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