テラーノベル
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私はトボトボと廊下を歩いていた。自習室に戻る気にはなれない。戻ったところで出口はない。戻れないなら進むしかない。
廊下は長く、しんとしている。何度か大声で叫んでみたが、なんの反応も返ってこなかった。本当に誰もいないようだ。どうして? みんなどこに行っちゃったんだろう……。
廊下の右側には、窓が続いている。ここ4階の窓からは、前庭と街並みが見下ろせる。外の風景も夕日を開けて赤く染まっていた。外にも人はいない。車も自転車も通らない。なんの音もしない。いったい、どうしちゃったっていうの?
左側には教室が規則正しく並んでいる。クラスナンバーを記されているはずのプレートには、何も書かれていない。それはとても馴染んだ風景なのに、どことなくよそよそしかった。どうしよう……誰か。誰かいないの?
私は祈るような気持ちで、ひとつずつ教室の中を確かめながら歩く。
いくつ目かの教室のドアを開けた時、私は足を止めた。教室の真ん中でぽつりと佇む後ろ姿を見つける。よかった、人がいたんだ!
「あの……!」
駆け寄ろうとした足が、すくんで止まった。なに……あれ。
青いワイシャツとスラックス姿のその人は、ちょと見はサラリーマンに見える。けれど、普通のサラリーマンには決して無いものがあった。ううん、サラリーマンじゃなくったって普通の人には無いもの。頭から天に向かって伸びる、二本の白い耳。ウサギの……着ぐるみ? だけど、それにしてもよく出来すぎているような……。
おまけに、ウサギの向こうの風景がうっすらと見えていた。透けてる……?
「あ、あのう……」
私はそっと正面へと回る。
「!?」
私は息を飲んだ。ふかふかの白い毛に覆われた顔と手。前に突き出たピンクの鼻。……着ぐるみなんかじゃない。だけどそれよりも、私を驚かせたのはその手だった。ウサギの右手はベットリと、血で赤く染まっている。なんで……なんの血なの……!? ウサギの血? それとも……他の誰かの血……?
赤く濡れた白兎の胸には人形が抱かれている。赤ちゃんほどの大きさの人形だ。だけどその人形には、腕も足も頭もない。幼い子供のようにぷっくりとしたお腹の胴体だけを、ウサギは大事そうに抱えていた。
あやすような歌声が聞こえてくる。
「ウデ ウデ ウデ♪ ウデはどこだろ♪ ウデがなくちゃ♪ 僕に触れてもらえない♪」
ウサギの手から伝わった血の雫が、人形の腹を滑り床にぽたりと落ちた。新鮮な血。まるでついさっき誰かを殺してきたみたいに……。
「足りないなあ」
ウサギの声に、私はビクッと身を震わせた。彼は人形に目を落としたままだ。私の存在は無視されている。いや、気づいてすらいないのかもしれない。
「だめだめ、足りない……急がなきゃ……」
そう言って白いウサギは、ふらりと前の扉へ歩き出した。透けた体は、するすると机をすり抜けていく。閉められたまめのドアを通り抜ける直前、彼の呟きご微かに耳に届いた。
「アリス……」
やがてウサギは教室のドアを通り抜け、その姿を消した。……なんだったの今の。
私は呆然とそこに立ち尽くしていた。ウサギの幽霊? それとも幻覚? 不思議なことが多すぎて、どこにどう反応していいかわからない。夢……じゃないよね?
白い誰かが立っていた場所。そこには小さな小さな赤い血の池が残る。幻でない証拠の赤。血溜まりからぽつりぽつりと落ちた血は、前の扉へと続く。
扉を引き開けると、その血の跡は廊下の奥へと続いていた。廊下の奥を見やる。相変わらず果ては見えない。私は血の跡に誘われるよう、廊下の奥へと歩みを進めた。
もうどのくらい歩いたんだろう。いい加減変わり映えのしない長い廊下に飽きて、恐怖心よりも疲れが上回り始めたところ、ようやく廊下の端が見えてきた。あっ……ええ? ほっとしてから、すぐにがっかりする。近づけば近づくほど、ただの壁に見えた。行き止まり……こんなにたくさん歩いてきたのに……。あれ?
落胆しながら近寄った私は、その壁に小さな扉を見つけた。うわ、ちっちゃい扉。高さが20センチくらいしかない。それなのに、ドアノブなど細部までしっかり作られている。可愛い。ミニチュアのドアね。でもなんだかなところに、こんなものが?
指先でノブをつまんで捻ると、ドアはカチャリと開いた。床に頭をくっつけるようにして向こうを覗くと、向こうにも同じような廊下が続いている。けれど、決定的に違うものが目に入った。
「階段!」
このドアの向こうへ行けば、下に降りられる。そうしたら外に出られるかもしれない。このドアの向こうへ。嬉しい気持ちは急速に萎んだ。どうやって行けばいいの、こんな小さなドアの向こうへ。
制服の汚れを払いながら立ち上がる。
「困ったなあ……」
もうカーテンを使ってベランダから降りるしかないかな。高いところは怖くないけど、運動神経は悪いからなあ……。4階から落ちたら……死ぬかな?
そんなことを考えながら、私は一番近くのドアを開けた。
紅葉@物語作成中
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柘榴とAI

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コメント
1件
うわ、すごく不気味でありながら、どこか童話のような美しさのあるお話ですね……。赤い血に染まった白いウサギが「アリス」って呼ぶところ、あれは『不思議の国のアリス』を意識されてるんでしょうか。それとも別の意味があるのかな。小さな扉の発見からの「どうやって行けばいいの」っていう焦り、すごく伝わってきました。続きが気になります!