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MOMO🩲
ひな
104
けだま15号🍓🐾໊
6,356
夕鳴
128
夜は長く。
誰も眠れない。
川は静かに流れる。
昼間の荒れ方が嘘のように。
何事もなかったかのように。
ただ流れている。
旅僧は焚き火を見つめていた。
炎が揺れ薪が爆ぜる。
その音だけが妙に大きく聞こえた。
向かいでは。
佐衛門が起きている。
刀の手入れもしていない。
珍しく。
ただ座っていた。
何かを考えている。
その顔を見て。
旅僧は声を掛けなかった。
今は。
何を言っても届かない気がした。
その時だった。
渡守が立ち上がる。
「来なさい」
静かな声。
全員が顔を上げる。
「何処へだ」
お師さんが聞く。
渡守は川を見る。
遥か彼方。
霧の向こうを。
「見せるものがある」
風が吹く。
「本当なら」
小さく笑う。
「見せてはいけないもの」
嫌な予感しかしない。
だが。
今さら引き返す者もいなかった。
そして。
一行は舟へ乗り込んだ。
旅僧は一瞬、固まった。
札には。
『舟に乗るな』
そう書かれていた。
渡守が振り返る。
「安心して」
静かな声。
「私が漕ぐ舟は違う」
風が吹く。
「まだ、こちら側だから」
意味は分からない。
だが。
嘘ではない気がした。
旅僧は舟へ乗る。
佐衛門も。
お師さんも。
鐘撞きも。
墓守も。
そして。
舟は動き出した。
水音もなく。
静かに。
川の中央へ。
霧の中へ。
進んでいく。
時間の感覚が狂う。
一刻か。
一日か。
それとも。
一瞬だったのか。
誰にも分からない。
やがて。
霧が晴れる。
旅僧は息を呑んだ。
岸だ。
向こう岸。
だが。
そこには。
無数の人影が立っていた。
老人。
子供。
女。
男。
数え切れない。
皆。
川を見ている。
ただ静かに。
待っている。
「ここは……」
旅僧が呟く。
渡守は答えた。
「忘れられた岸」
静寂。
「帰れなくなった人達が」
風が吹く。
「最後に辿り着く場所」
旅僧は何も言えなかった。
その時。
佐衛門が立ち上がる。
岸を見ている。
長く。
じっと。
そして。
一歩。
舟の縁へ足を掛けた。
「葛城殿!」
旅僧が慌てて呼ぶ。
だが。
佐衛門は聞いていない。
視線の先。
一人の少女が立っていた。
黒髪。
着物姿。
小柄な身体。
昼間。
霧の向こうに現れた影。
少女は笑っている。
泣きそうな顔で。
それでも。
笑っている。
『遅い』
静かな声。
風が吹く。
『ずっと待ってた』
佐衛門の呼吸が止まる。
胸が痛い。
苦しい。
懐かしい。
何故だ。
誰なんだ。
少女は一歩前へ出る。
川へ。
水面へ。
沈まない。
そのまま。
水の上に立っている。
『忘れたの?』
静寂。
『本当に?』
その瞬間。
佐衛門の頭へ。
記憶が流れ込む。
春。
夏。
秋。
冬。
笑う少女。
怒る少女。
泣く少女。
隣にいる少女。
いつも。
いつも。
そこにいた。
だが。
顔だけが見えない。
どうしても。
思い出せない。
その時だった。
川が震える。
轟音。
岸に立つ人影たちが。
一斉に空を見上げた。
旅僧も顔を上げる。
そして。
凍り付いた。
月が見える。
あり得ない。
ここから見えるはずがない。
それなのに。
月だけが。
空の全てを埋め尽くしていた。
巨大な瞳。
完全に開いている。
そして。
その視線が。
真っ直ぐ。
佐衛門へ向いた。
『見つけた』
静寂。
渡守の顔色が変わる。
鐘撞きが身構える。
墓守が立ち上がる。
お師さんが歯を食いしばる。
佐衛門は。
動かなかった。
ただ。
月を見ていた。
その瞳の奥に。
一瞬。
少女の姿が映った。
そして。
佐衛門の口から。
誰にも届かないほど小さな声が漏れた。
「……菫」
コメント
1件
「忘れられた岸」、めっちゃ重い空気と静かな緊張感がずっと続いてて、一気に引き込まれたわ。特に渡守の「見せてはいけないもの」ってセリフと、それでも舟に乗らざるを得ない一行の状況がもう…嫌な予感しかしないのに目が離せなかった。 何より佐衛門が少女を見つけて「菫」って呟くラスト、ここまでの伏線が一気に炸裂した感じで震えた。月の巨大な瞳が「見つけた」って言うところも含めて、まだ謎だらけだけど次を読まずにはいられない。この世界観と静かな筆致、すごく好みだわ🔥