テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
上野文
10,374
#悲しい
シジミン
107
kirisu
551
畝澄ヒナ
119
私は心の中で絶叫する。
いや、彼はそういう人だ。
別に小鳥遊さんに好意なんてなかっただろうし、困っている人がいたら自然と手を差し伸べる人だ。
だから部下からも信頼されていたし、綾子さんたちみたいに強く憧れる人もいた。
朱里だってそんな篠宮さんが好きなんだろう。
でも時として、顔が整って社会的地位もある人が優しい振る舞いをすると、勘違いする人が生まれてしまう。
「はぁ……」
急に疲れを覚えた私が溜め息をつくと、小鳥遊さんはムッとした顔をする。
「別にこれで『私に気がある』と思うほどおめでたくありません。……でも、想うだけ自由じゃないですか」
小鳥遊さんにそれなりの理由があると知った私は、髪を掻き上げて言う。
「想うのは自由だよ? それは肯定する。……でも、なんで朱里を巻き込んだ?」
話を元に戻すと、彼女は視線を泳がせ、ボソボソと言う。
「……上村さんなら美人だし、引く手あまたじゃないですか。何も副社長じゃなくたって、彼女ぐらいのスペックなら、他にも幸せにしてくれる人はいます。……でも私には副社長しかいないんです。……だから……」
「ハァ? だから『仲よくなったあとに、さり気なく適当な男を紹介して離れさせようとした』? それでフリーになった副社長に、『私がいます』って寄り添うつもりだった?」
図星だったのか、小鳥遊さんはあれだけベラベラ喋っていたのに、今度は何も言い返さなかった。
「今の小鳥遊さんが、どういう立ち位置か教えてあげようか? 心の底から想い合って、結婚秒読みの二人を前に、『私のほうが彼を幸せにしてあげられる!』って、友達のフリをして近づいて、華麗に裏切って別れさせようとしてる、クイーン・フレネミーだよ」
「だからどうして、そんな酷い言い方するんですか!」
「そうでもないと、あんたみたいな勘違い女が暴走したまま止まらないからだろ! いい加減自覚しろよ、この害悪が!」
「中村さんのほうこそ、口が悪いし害悪じゃないですか!」
「あー、はいはい。悪役上等。私は友達のためなら何だってできる。それに、こんな事ぐらいで呆れられる友達、恋人もいないの。ごめんね」
サラッと言うと、小鳥遊さんは顔を真っ赤にし、大きな声を上げた。
「でも、もう終わりです! 〝私〟が盗聴器をしかけたって副社長にバレてしまったんですから! 傘をもらった時、副社長は私の名前なんて知らなかっただろうし、顔だってその時限りで覚えていなかったと思います! でも今はもう……!」
彼女はクシャリと表情を歪めると、両手で顔を覆い「ああああああ……!」と声を上げた泣き始めた。
(……やりすぎたか)
後悔した時――。
「それでさ~」
トイレに女性が数人入ってきて、彼女たちは私と泣いている小鳥遊さんを見て、目を丸くする。
「小鳥遊、どうしたの?」
「鏑木先輩……っ」
その会話、名前だけですぐ状況を理解した。
「この人、他部署の人なんですけど、急に言いがかりをつけてきて……っ、酷いんです!」
一瞬同情したけど、やっぱり「こいつ駄目だ」と感じた。
失恋してそれで諦めるなら、これ以上言及する必要はないと思った。
でも小鳥遊さんの根性は変わっていない。
現れた仲間を盾にして「泣かされた私、可哀想」ムーブをするなら、これ以上同情する必要はないと判断した。
〝先輩〟として頼られた鏑木が、私を睨んで何か言う前に先制攻撃をした。
「私はただ、小鳥遊さんが私の友達に盗聴器を仕込んだから、事情を聞いていただけです」
臆さずに言うと、逆に鏑木たちはギョッとした表情で小鳥遊さんを見た。
「ひ……っ、酷い! 誹謗中傷ですよ!」
真っ赤な顔をして怒鳴った小鳥遊さんを、私は半眼になって睨む。
「先に犯罪まがいの事をした人は誰? 『友達になりたい』って嘘をついてまで近づいて、盗聴器をしかけて、憧れの副社長の私生活を覗きたかったんでしょ。困っていた時に傘を買ってもらって恋に落ちて、一途に想っていたんだもんね? もしかして、秘書課の皆さんも、小鳥遊さんの恋を応援してました?」
我ながら意地の悪い事を言うと、鏑木が目を剥いて小鳥遊さんを睨んだ。
はいはい、鏑木も篠宮さん狙いね。
しかし今の私、余裕でヴィラン役をやれそうだ。勿論、プリンセスは朱里で。
そしてヴィランとプリンセスの二人で、幸せに暮らしていくのだ。
プリンス二人が追いかけてきそうだけど……。
そんな事を考えている間、明らかに小鳥遊さんと鏑木たちの間に、ギスッとした空気が生まれたのを感じた。よし。
コメント
1件
今回の中村さんの啖呵、本当に気持ち良かったです!小鳥遊さんの「想うだけ自由」という言葉にも一理あるけど、それを盗聴器という行動で形にしちゃうのは違いますよね。中村さんが「ヴィラン役」を自覚しながらも、朱里さんをプリンセスに見立てて守ろうとする姿勢に胸が熱くなりました。最後の鏑木のギョッとした表情で一気に空気が変わるところも、人間関係のリアルさが出ていて好きです。