「……なんで来てくれたの?」
ボソボソと小さな声が聞こえて、再び結子さんの方へ行く。結子さんはダルそうに横向きで寝て、目を閉じていた。寝ているのかと思ったけれど、ふと薄目が開いて視線が交わる。
「結子さんがインフルエンザになったって矢田さんが大騒ぎして、様子見てきてって」
「そっか……」
「……俺も、心配だったから」
「そっかぁ……」
結子さんは再び目を閉じる。顔が赤いしうっすらと汗もかいているように見える。つらそうだ。早く薬が効くと良いけど。
「とにかくよく寝てください。何かしてほしいことあります?」
結子さんに好きな人がいようが俺が失恋しようがどうだっていい。今ここには俺しかいないのだから、全力で結子さんのサポートをするのみだ。掃除でも洗濯でも買い出しでもなんでもやってやる。
そう思ったのに――。
「そばにいてほしい」
力なく伸びてきた手が、俺の服の袖をつかんだ。
えっっっ!!!!????
人は動揺すると言葉が出てこないものなんだということをこのとき初めて知った。
ドッキンと心臓が跳ねる。
いやいやいや、きっと他意はないのだろう。高熱でダルくてしんどいから誰かにサポートしてもらいたいとかいう、そういう感じなのだと思う。
思うのだけど……。
そんなことを言われて浮足立たないわけがない。結子さんの好きな人が俺じゃなくても、今は俺を頼ってくれることがとても嬉しい。嬉しくて調子に乗りそうだ。
息の荒い結子さんに手を伸ばす。額に触れば手のひらにダイレクトに熱さが伝わってきた。
「冷たくて気持ちいい」
結子さんが僅かに微笑んだ。
俺の冷え性、ここにきていい仕事をしている。手が冷たいこと、ケーキ作る以外にも役に立つときがあるんだな。できるだけ熱を取ってあげたい。
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