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「二人には退屈だったかな」
「!?」
いつの間にかおじいちゃんが隣に座ってた。
またビックリさせられたよ! なんなの!? やっぱり脅かすのが趣味なの!?
「想像と違う。もっと激しいものだと思った。そう感じたのでは?」
「……はい」
ズバリその通りだよ。というか、普通そう思うよね。
だって、無言で動かないんだもん。
「少し、体験してみるかね?」
「いえ、いいです」
「ほっほっほっ、素直な子だ」
無言で動かないなんて耐えられそうにない。
たぶん、1分持たないと思う。
「アリアちゃん、また失礼だよ。私が体験してみたいです、いいですか?」
「構わんよ。二人とも入門予定だ。さ、こちらへ」
「はい」
……大丈夫? さっちゃんに耐えられるのかな?
ユリ姉さんとの模擬戦ではいっぱい動いてたし、さっちゃんはスピード重視のいけいけ戦法だよね? 動かない修行に意味があるのかな?
「好きな木刀を持ちなさい。打ち合いはしないが、自分に合った物を選ぶといい」
「はい」
さっちゃんはあの時と同じ、短い木刀の二刀流だ。
持ち方はさっちゃん曰く、逆手の二刀流らしい。スピード重視の自分にあってると言っていた。
「構えなさい。見ていた通り、動きはしないが気をしっかり持つように」
「はい」
わたしから少し離れたところで二人が向かい合った。
……え、おじいちゃんが相手するの? 動かないとはいえ、なるべく安静にしてた方がいいんじゃない? わたし達が原因で倒れても責任取れないよ?
「では、はじめるぞ。準備はいいかね?」
「どうぞ」
カラン……
さっちゃんが右手の木刀を落としたよ? 腕もだらんとしてる……。
「さっちゃん大丈夫? 調子が悪いなら無理しない方がいいよ」
「……大丈夫だよ。ビックリして落としちゃっただけだから」
……ビックリした? 何に? さっちゃんが右手の動きを確認してる。
ホントに大丈夫なのかな?
「……もう一度、お願いします」
「うむ。いくぞ」
さっちゃんが気合を入れて構えた。
おじいちゃんは死にそうな動きでゆっくり構える。
カラン……
今度は左手の木刀が落ちて左腕がだらんとしてる……。
さっちゃんが呆然としてる。
「お主の今日の体験はここまでじゃな。根の詰めすぎはよくない」
「……ありがとうございました」
……今のが体験? さっちゃんが木刀を落としただけだよね?
よく分からないけど、さっちゃんがショックを受けてるのだけは分かる。
「大丈夫? 座って休もう」
「……うん、ありがとう。……アリアちゃんも体験しといたほうがいいと思う。今後、ここで修行するんだから今のうちに内容を知っておいてほうがいいよ」
「さっちゃんがそう言うなら……」
さっちゃんはいつもわたしの事を思ってくれていて、わたしの為になることを言ってくれる。……だったら、無言でも何でも受けておいた方がいいよね。それがわたしの為になるんだから。
「あの、わたしも体験受けたいです」
「よかろう。木刀を持って構えなさい」
「はい」
わたしは一番多い普通の木刀を選んだ。
木刀は持ったことがないから構えは適当だ。おじいちゃんと同じように構える。
……あとは無言に耐えるだけ。
「では、いくぞ。動かないが、気をしっかり持ちなさい」
「……はい」
んん? おじいちゃんの構えが少し変わった?
大きくは変わってないけど、最初のイメージと雰囲気が変わった。
ぐにゃぐにゃの粘土人形がビシッと整った感じで、今はすごく元気なおじいちゃんに見える。倒れそうとか死にそうとか思ってごめんなさい。
……そう思ったのがいけなかったのかな。わたし、考えが顔に出るらしいし。
怒ったおじいちゃんが木刀を振り下ろしてきた。
「ヒャ!?」
思わず目を閉じて木刀を持ち上げた状態で座り込んでしまった。
不意打ちなんて卑怯だよ! 動かないって言ったのに!
「……あれ?」
目を開けておじいちゃんを見ると元に戻ってた。
死にそうなおじいちゃんで全く動いてない。
……どういうこと?
「アリアちゃん大丈夫?」
「あ、うん……」
今のなんだろう? おじいちゃんは動いてないの?
……わたしの思い込み……じゃないよね?
「さっちゃん、おじいちゃんって木刀を振り下ろしたよね?」
「おじいさんは全く動いてないよ」
え? ホントに意味が分からない。
あんなにハッキリと木刀を振り下ろしてきたのに、実際には全く動いてない?
……ホントにわたしの思い込み?
「大丈夫、アリアちゃんの思い込みじゃないよ。私も同じことをやられたから。私の場合は肘を叩かれたと錯覚したけど」
肘を叩かれた? ……あ、だから木刀を落としたんだ。肘を叩かれたら痛いし痺れるもんね。
あれ? でもおじいちゃんは動いてなかったよね?
……さっちゃん、錯覚って言った?
叩かれたと錯覚して木刀を落とす……そんなこと、ありえるの?
「これって殺気の一種だと思うよ。強い殺気は相手を委縮させたり、動きを錯覚させたりできるって聞いたことがるから」
「ほえー、なんか凄いね……」
「さっき」って殺す気配の事だよね。それだけであんなにハッキリと錯覚するんだ。ただの死にそうなおじいちゃんじゃなかったんだね……。
「どうだね、体験してみた感想は」
「動いてないのに殺気だけで錯覚させるなんてすごいと思います」
「うむ、殺気のことを学んでくれたようでよかった。ここにいる皆、動いてないようにみえるが、その実、殺気をぶつけあっておる」
そういえばさっちゃんが言ってたね。殺気がすごいから何か意味があると思うって。今みたいな錯覚をお互いにかけあって修行してるんだね。
……ん? わたしにこれって出来るの? 無理だよね?
ここに入門して修行するってことは、みんなと同じことをするってことだ。殺気のことなんて今知ったばかりだし、自分の殺気はもちろん、相手の殺気だってどうこう出来るとは思えない。
「あの……わたしって入門してもいいんですか? 殺気のことは知ったばかりなんですけど……」
「構わんよ。シズカ達が認めた者達だ、喜んで受けいれる。修行内容はこれだけではない、一から鍛えることもできる」
「そうですか……」
一から鍛える修行ってなんだろう? ちょっと不安だ。
……やっぱり素振りとかかな?
「次の日曜にシズカ達がここに来るらしい。会いたいのであれば、その時にまた来なさい」
「次の日曜ですね、分かりました」
「シズカ達はお主達をすぐに入門させるだろう。それまでは見学を続けるもよし、入門して修行してもよし、自由ににするといい」
「……はい」
見学かすぐに入門か……どうしようかな……。
見学じゃお小遣いが貰えないよね?
でも、どうせ修行するならシズカさん……は怖いからいいけど、ユリ姉さんがいた方が多少は安心できるよね。うーん、悩む……。
「さっちゃんはどうする? 真剣に見てたし、すぐに入門しちゃう?」
「急いで決めなくてもいいじゃないかな。今日は見学の予定だったんだし、このまま少し見学して、また明日考えればいいと思うよ」
「そっか」
うん、今日は見学だけして終わり、それでいいよね。
「あの、今日は見学だけさせてもらいます。いいですか?」
「もちろん、ゆっくり見ていくといい」
「ありがとうございます」
殺気ってどういうものか少しは分かったし、今度は無言合戦に見えないはず。
……さっちゃんと一緒に真剣に見よう。
「さっちゃん、頑張って見学しようね!」
「うん」
修行してる人たちを見る。
……駄目だね。無言合戦にしか見えない。殺気? 微塵も感じないよ。
さっちゃんは体験前より真剣に見てるけど、わたしは変わらない。
1時間、頑張って見てたけど何もわからない。正直いって退屈だ。
「……帰ろうかな」
「頑張ろう、アリアちゃん」
「……うん」
さっちゃんが頑張ってるなら、わたしももう少し頑張ってみよう。
入門するなら殺気の習得は必須だもんね。
……それから1時間、頑張って観察したけどやっぱり無駄だった。
「さっちゃん、今日は遅いしもう帰ろう」
「あ、もうこんな時間なんだね。アリアちゃんも疲れたと思うし、帰ろうか」
「うん、疲れたよ」
退屈過ぎて……なんて、真剣だったさっちゃんには言えないね。
……ゴメンねさっちゃん。わたしが殺気を覚えるには100年くらいかかりそうだよ。