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アウシュヴィッツに向かう列車がゆっくり蒸気を吐いて。

名前なんてない。番号で呼ばれて。

父は外に居た。ドイツ兵に見つかって必死に見逃してくれって言ってくれた。

でも、現実は残酷でこうして連れてかれる、でもパパはナチスの関係者だから連れてかれない。

何人もの人をかき分けて、ここまで来てくれた。

最後に私はパパの顔を見た。

泣いていた。あのパパが声も出さずに泣いた。

だから私は笑った

「…泣かないで、パパ、」

声が震えていたが笑いながら言った。

「泣くとパパ不細工なんだからさ…」

涙でぐちゃぐちゃになった顔のまま私を見ていた。

「…思い出すならさ、ちゃんと可愛い顔の時にしてよね、」

「ほら、赤いリボン付けてて、ニコニコ笑ってケーキ食べてる時のさ、」

「ママが紅茶をこぼして、パパが焦った時、面白かった。」

私は今までよりも泣いた。

袖で拭いて言った。

「ねぇ、パパ、あの時の嫌い、嘘だよ。」

「ずっと大好き、この世で1番愛してる」


列車の笛がなった

最後に、手を振った。

泣きながら、それでも笑って

父は何も言ず、いや、列車の音でかき消されたのかもしれないけど、その場に立ち尽くしてた。

手を胸に当てて、その場に崩れ落ちるように座り込んだ

私はドイツ兵の怒鳴り声で列車に乗り込んだ

戸が閉まり、パパの姿がみえなくなった。

でも胸の中にはあの言葉だけがランプの光のように輝いてる。

「大好きだよ。愛してる」

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