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今日執り行われた挙式は二人の笑顔が幸せに満ち溢れていた。
同僚の結婚式、新婦さんは彼の5歳下の可愛らしい人だった。2次会までの空き時間、会場周辺のカフェで一息ついて時間をつぶすことになった。同僚でかたまり、感想を言いあう。
「綺麗だったね、奥さん」
「ほんと。私の時は節約でお色直ししなかったからさ、カラードレス素敵だった。私も着ればよかったなぁ」
「私も。30代で結婚したから、ピンクとかはお姑さんにいい顔されなくて……」
「プロポーズは奥さんからしたらしいよ。中西くんが煮え切らなくて奥さんがしびれをきらしたんだろうね」
「28かぁ。そりゃさっさとしてってなるのもわかる。男側はのんびりしてるから」
自分の結婚式や、その年だった頃を思い出してそれぞれが余韻に浸っていた。私はさっきまでの華やかさを羨ましく思い、ここでわずかな居心地の悪さを感じていた。――独身である、そのことに。
そっか、私の年になると結婚式も着るドレスも落ち着きを求められる。最近は簡素な式が主流になりつつあるのは知っている。でも、自分の意思以外で選択肢を奪われるのは複雑だ。
「よお、久しぶり。……何だよ、暗いな」
「橘さん……。おかえりなさい。久しぶりですね、ご活躍の様子、お聞き及びしております」
茶化して言うと橘さんは片眉を上げた。私が新卒の頃に教育係をしてくれた5つ上の先輩だ。当時の私が――憧れて止まなかった人。相変わらずかっこいいなぁ。渋みも出て、ますます素敵になった。未だ私を気にかけてくれることが嬉しくて顔が緩んだ。
好きだって気づいたころ、異動しちゃったんだよね。彼の左手にはキラリ指輪が光っていた。異動してしばらくして結婚したと聞いた。当時は異動もショックだったし、結婚もショックだったな。過去を思い出しわずかに胸が痛んだ。
「あーっ、橘くん! 東谷さんとの並び懐かしい」
橘さんと同期の須田さんが私たちが並んでいるのを見つけて目を細めた。
「そうだな。あれからもう10年……か」
「はっやいよねぇ。年取るわけだ」
そこから、私はまた誰かと誰かの会話に入るわけでもなく、かといって話を振られた時には適度に返事が出来るよう輪に入っていた。
「橘くん、こっち戻ってこないの? 」
「うーん、多分? 」
「そうね。子供が出来た時のことを考えたら奥さんのご実家が近い方が何かとね」
ふうん、と聞いていた。そういうもんなんだって。橘さんへの淡い気持ちが久しぶりに思い返された。胸が痛むほどじゃないけど結婚式の後となると虚しさに拍車をかける。私はまだ相手もいないことに。橘さんにもまだ子供がいないことに微かに安心したりして。結婚している人は私より一歩進んでいて、子供がいる人は二歩進まれた気がするから。もしそうなっても、男の人だし、とかいろいろ言い訳するんだけどさ。いつの間にか心の中で進んでいく人と比べては自分は遅れている気がして焦っては落ち込んでしまう。
頭ではこんなの、人それぞれだってわかっているのに――。私、いつからこんなに結婚したかったんだろう。
「……でもさ、橘くんて東谷さんとデキてるのかと思った時あったよ」
ぼーっとしてしまっていて、不意に自分の名前を呼ばれたことで意識が戻った。
「はは、いや、もう時効だから言うけど、可愛いなって思ってる時期あったよ。でもさすがに距離近すぎだろってセーブしたわ。教育係が何してんだって思われてもなぁ」
橘さんはほろ酔いなのかそう口にした。
え、と彼を凝視した。……あのころ、私が橘さんに抱いた感情を橘さんも持ってくれてたってこと?
「やっぱり!? 何となくそんな気がしたのよ。私の勘、よく当たるんだから」
「んだよ、バレてたのかよ。ちょっと久しぶりに東谷に会ってあん時のこと思い出したわ」
「え……」
私、感情を押さえなくても良かったってこと?ドクンと心臓が鳴った。
「それにしても、いい式だったな。うちも、カラードレスはあんな感じの淡い色着てて……顔立ち大人っぽいからどうかなって本人言ってたんだけど、たった一度の特別な日には着たいドレス着るのが正解だわな……」
橘さんの瞳はぼんやりとかつての奥さんを見つめていた。私との思い出話など一瞬思い出しただけで、今日の挙式に感化されて胸を震わせるのは愛する奥さんとのその日の思い出。
危ない、引きずられるとこだった。私だって過去の恋愛の結末にたらればの想いを馳せただけ。
「やだ、あてられちゃうな」
「はは。悪い、つい。いや、惚気たわけじゃないけど……。えっと、東谷は今……。ああ、東谷も色が白いからピンクとか似合いそうだな」
恋人は?か、結婚は?か聞こうとして気を使われた感じだ。ピンクは無理じゃないかな、もう似合う年じゃなくなって。はぁ、ダメだ。卑屈になってしまう。きゅっと口角をあげて笑顔を作った。
「そうですかね。でも、私はピンクは着ないかな」
着れない、じゃなくて着ない。橘さんが似合いそうって言ったから。訳の分からない意地を張った。
「お、久しぶりですね。このコンビ」
私の同期三宅くんが私と橘さんを交互に見ながら合流した。
「おお、三宅。名古屋に異動決まったらしいじゃん」
「そうなんすよ。もうすぐ俺らもお別れ。ね? 」
そう言って私の隣に座る。
「あ、ついに実現する感じ? 」
須田さんがからかう。この私と三宅くんがからかわれる内容はもう定番になっているものだ。
コメント
1件
うわ、この第1話、めちゃくちゃ刺さった…。30代独身女性の結婚式後の複雑な心情、リアルすぎて胸がギュッとなるわ。特に橘先輩が「可愛いなと思ってた時期があった」って告白した瞬間、こっちまでドキッとした。でも彼の視線はもう奥さんに向いてて、「私は着ない」って意地張るところとか、大人の女性の強がりと切なさが滲んでてグッときた。続き読みたい🔥