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いやー、この「今は」の回収の仕方、切なかったです…!東谷さんが口にしちゃった「いいな」にグッときました。三宅くんには悪いけど、過去の告白タイミングの話とか、もしもを考えちゃいますね。仕事一筋に見えてた東谷さんの結婚願望が意外で、そこがまた人間らしくて良かったです。仲良し同期の空気感が丁寧で、すごく沁みました。
同期で切磋琢磨する私たちはいつもあーだこーだ言い合っていて、仲がいいなって言われてた。お互い恋人がいないタイミングが重なって『いいんじゃない』なんて周りにからかわれた時に三宅くんが言った一言がきっかけだった。
「いや、絶対ないっすわ。今は」
そこで総突っ込みされたのだ。
「何よ、『今は』って!? 」
「や、だって今は仕事。俺そんな器用じゃないんで。そういうんじゃなくて、同志だと思ってる。でもほら東谷っていい女じゃないですか仕事熱心で芯が強くて。男女である限り何があるかわかんない気持ちはもちつつ線は引いてますよ、俺は」
仲いいけど、同志で女としては見ていない、そう言ってもいいのに私のことも傷つけないように否定してくれた。が、私たちの関係が相変わらずだったため時々話のネタにからかわれるようになった。そのうち三宅くんが『あれっすよ、あれ。今はまだその時じゃない』なんて悪乗りするから、いつしかそれは『お互い30になってフリーなら結婚するんだよね』っていうネタが定番になっていた。……もう、30はとっくに過ぎたけど。
私たちはもう中堅。32歳になっていた。今年になって三宅くんの異動が決まった。場所は、名古屋支社だった。話を聞いて寂しくはなったけど、名古屋なら近いなって思ってしまった。
――――――……
「ははは。そのイジリも久々っすわ」
「名古屋に住む家見つかった? 仕事しながらってなかなか大変よね」
「ああ、それなんですけどね、俺地元名古屋なんですよ。だからいったん実家帰って、土地勘あるしゆっくり探そうかなって。不便してないっす」
「そうなんだ。それは良かったね。そっか、異動だけどホームへ帰るようなものか」
「そうっす、そうっす」
三宅くんは機嫌よく頷いていた。そっか、三宅くん地元が名古屋だったんだ。そんなことも知らなかった。私たちは仕事の話ばっかりしていたもんなぁ、と三宅くんとの過ごした日々を思い出していた。
「向こうに土地勘もあるし、友達も多いなら安心だね」
「いや、ほんと。入社した頃の俺なんてはじめは会社の人しか知り合いいなくなってキツかったもんな」
橘さんが当時を思い出すように目を瞑った。
「いや、ほんとそれですよ。さっそく地元の奴らに報告したら喜んでくれて、さっと人集めで飲みにつれてってくれましたよ。俺、もうずっとあっちで生活するんじゃないかな」
「ああ、そっか。じゃあ、東谷との並びも見納めかぁ。寂しくなるね、東谷」
須田さんに話を振られて「そうですねぇ」と無難に応えた。また私たちのネタになるのかなと笑って準備をしていた。
「多分、俺も結婚すると思うんですよ」
唐突に三宅くんが言った。……三宅くん、彼女いなかったはず。驚いて顔を上げて彼が続きを話すのを待った。同じく須田さんも驚いたようで三宅くんを急かした。
「え、そうなの。聞きたい、聞きたい」
「地元戻ったタイミングで、学生時代の元カノに再会しまして……。一気に気持ちがぶり返したというか……。ただ懐かしいだけじゃなくお互い大人になってて、相手を尊重出来るようにもなってて。すぐ結婚を意識しましたね。この年まで向こうが独身でいたこともラッキーだし」
「ああ、元々気心知れてる相手なら進展も早いよね。どうりで異動決まっても機嫌いいわけじゃん」
「いやいや。仕事ももちろん頑張っての異動ですって」
「ははは」
再会してすぐに結婚か……。私が欲しいものをパッと手に入れたんだ。
「……いいな」
気がつけば気持ちが口から出ていて、三宅くんが目をも開く。須藤さんが私の顔を見て、橘さんまでも手を止めるから、ハッとして口を両手で覆った。
三宅くんはパチパチ瞬きをしたうえで口開いた。
「東谷、結婚したいんだ」
意外そうな三宅くんに私も意外に思い、返した。
「そりゃあ、そうでしょ」
意外に思ったのは三宅くんだけじゃなかったらしい。
「東谷、結婚したいんだ」
と同じセリフを橘さんも意外そうに口にした。須田さんも頷く。
「したいですよ」
「いつからしたいの? 」
「いつって……。わりと早い段階で結婚願望はありましたけど。それこそ、彼氏が出来たらいつも未来は考えてましたし。30手前で恋人と別れた時は人生詰んだくらい落ち込みましたね」
「んだよー。俺さあ、昔、東谷が彼氏と別れたっつータイミングで告ろっかなって思ったことあったんだよ。結婚はおろか、恋愛もあんまり興味ない感じ出されて、これって柔らかな拒否だよなーって諦めたけど」
「……え、そうなの」
驚きで動揺してしまう。もし……もし、あの時三宅くんから告白されていたら、私は……。私は、付き合っていたと思うな。
「あー。わかるわかる。東谷、そんな感じだよな。なんだかんだ言って、俺ももし東谷がこっちに微好意でも向けてくれたら告白してたと思うな」
「ですよね。あれ、結構心折れますもん」
「そんな態度に出さなくてもって落ち込んだもんだ。まぁ、あれは教育係として正しい判断をさせてくれたけど」
「ああ、まあそう。東谷が正しい」
「ええ、でも私……! 」
「お、そろそろ移動するか」
「あ、そっすね。さぁ、2次会楽しみーっと。俺もこれから何準備していいかわかんないから参考になるわぁ。橘さんの時どうでした? 」
「俺ぇ? だいぶ前だぜ。最近は2次会とかしない方が多いんじゃないの。あと友達が――……」
立ち上あがって歩き出す二人に続く。須田さんはいつの間にか他の人に合流していた。