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リビングに残る食事の匂いと、洗い物をせずに置かれた皿の音。 母のヒールがカツカツと床を叩き、父の咳払いが部屋に響く。
そんな中で、なつとみことは自室に閉じこもっていた。
音楽もテレビもつけずに、ベッドの上で並んで座っていた。
🎼🍍「……今日も、らん、遅いな」
🎼👑「うん。でも、たぶん塾にいる。……いるまくんが、いてくれてると思う」
スマホの通知は来ていない。
でも、みことにはなんとなく分かる。
兄は、誰にも言えない何かを、やっと少し吐き出せる場所を見つけたのだと。
🎼🍍「……俺たちさ、兄ちゃんに“兄”って呼んでないよな」
🎼👑「うん。“らん”って、名前でしか呼んだことないかも」
それは、ずっと自然なことだと思っていた。
でも――らんが“兄”であり続けることを、自分たちが無意識に強いてきたのかもしれない。
🎼🍍「兄ちゃん、ずっとさ、俺ら守ってくれてたよな」
🎼👑「うん……たぶん、今も」
思い出すのは、昔のこと。
母のヒステリーが始まったあの日、割れた花瓶の破片から足をかばってくれたこと。
父が物を投げた夜、自分たちを押しのけてかばってくれた背中。
でも、それを「ありがとう」と言った記憶が――なかった。
🎼🍍「俺、なんも知らなかった。兄ちゃんが、あんな顔してたのに」
涙をこらえる声だった。
なつは、ぐっと唇を噛んで、拳を握った。
🎼👑「……なつ」
🎼🍍「兄ちゃんが、“兄じゃなきゃ”って思ってるなら……もう、そんなのやめてほしい」
🎼👑「俺たちが、“弟だから”って守られてるなら……俺たち、もう守られたくない」
子どもだから、何もできない。
そんなの、もう言い訳にはしたくなかった。
自分たちだって、らんの力になれるはずだ。
そう信じたかった。
そのとき、部屋の窓の外で、自転車のブレーキ音が聞こえた。
🎼🍍「……兄ちゃん、帰ってきた」
二人は顔を見合わせて、同時に立ち上がった。
今度は――「おかえり」を言う番だ。
何も知らないふりをするのは、もう終わりにする。