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この世界には大量の転移魔法陣がある。
それはそれは数え切れぬほどの数。
そのうちの一つ。砂漠にある転移遺跡の前で青い髪の少女が座っていた。
奇跡を信じて座っていた。
そう、奇跡。出会えることなんて不可能に近い所業。
当然、普通ならば出会えない。
転移魔法陣を使っているとはいえ『最強』龍神 オルステッドには出会えない。
しかし、彼女は普通ではない。
世界にとって彼女は普通ではない。
「私が、ルディを助けます」
呟きと同時、何かが動き始める。
動き始めたのは歯車。その名前は『運命』
強い運命と未来。奇跡と呼べる未来が、二人を引き合わせる。
─────────────────────────
─オルステッド視点─
「……着いたか」
俺の移動手段である魔法陣。
今来たのはベガリット大陸の砂漠。
ここに来た明確な『理由』は特にない。
しかし、来る『必要』はあった。
このループは何かがおかしい。
転移事件を始めとした異変の数々。
このループでその原因を知るため、各国を回る必要があると俺は思っている。
「ラプラスの復活までには突き止める必要があるな」
俺はクローゼットを開き、服を着替えた。
冬服から夏服へ。
当然のように着替えていたが、ここで異変が起きた。
「クローゼットの扉に埃が被っていない。誰かが開けたか?」
服の袖に腕を通し考える。
また初めてのことだ。
開けた痕跡が残るクローゼット、それも最近。
入れないはずの遺跡に痕跡がある。小さな異変だが、これも調べる必要があるな。
そして、改めて思い知る。この言葉。
このループは何かがおかしい。そんな言葉。
俺は思考を回しながら、遺跡の階段を登る。
一つ、二つ。俺だけの足音が辺りに響き渡る。
そんな音に耳を揺らしながら、俺は遺跡の外に出た。
その瞬間、聞こえてくるのは声。
俺が一人だからこそ目立つ、たった一つの声。
その正体は、例えるなら鳥のような、雛のような震えた声だった。
「あ、あぁ、さ、さいきょう……」
そこに居たのは青い髪の女。
砂漠の暑さと俺の呪いの影響で、多量の汗を掻く一人の女が居た。
「ロキシー・ミグルディアか」
奴は俺の眼前で、髪の色よりも青い顔で目をグルグルと回す。
口を震わせて、へたりと座り込む。
奴がここに居た理由は正直分からん。
しかし、あの怯え様。会話は出来ないだろう。
ヒトガミの使徒と確定していない以上、殺すわけにもいかん。偶然と思うしかないだろうな。
そして、一番大切なのはそこじゃない。
本当に大切なのは魔法陣を見られたこと。
しかし、それもどうでもいい。
どうせ、あの怯え様。俺が離れたころには今見ている物など忘れている。
どうせ、すぐに気絶する。
砂漠の上で座り込むロキシー・ミグルディア。
俺は無言で、その脇を通ろうとする。
歩く俺。瞬間、俺は目を見開いた。
驚いた理由は単純。
俺の眼前で『異変』が起きたのだ。
「お、王級治癒魔術を、私に教えてくだひゃい」
「……」
奴の言葉に、俺は動きを止めた。
俺は、奴の言葉に驚いていた。
奴の、ロキシー・ミグルディアの行動は、それほど異質だったのだ。
強い気持ちがあれば確かに俺の呪いは克服出来る。
ルイジェルド・スペルディアやエリス・ボレアス・グレイラットが俺に剣を向けたように。
しかし、それは一部だ。
ロキシー・ミグルディアは違う。
奴が俺の呪いを克服することはありえない。
数あるループでも、そんなことはあり得なかった。
大きくなる疑問。俺は、それを解決するため、小さく口を開く。
「俺に対する最初の言葉がそれか。まぁ、いい。教えろ。何故貴様は治癒魔術を知りたい」
俺は言葉を放ち、考える。
呪いを克服した理由、俺は確信していた。
その理由とは、強い『気持ち』が奴に芽生えたということ。
それでしか説明はつけられん。
ロキシー・ミグルディアが強い気持ちを持っている。それも大きな異変だ。
しかし、それだけじゃない。
治癒魔術を会得しようとする理由。俺は、それを解決する必要がある。
俺の言葉。そんな言葉の返しとして、奴はゆっくりと口を開く。
家族が怪我でもしたか?いや、ロキシー・ミグルディアは家族との仲は悪い。それはない。
となれば、何か。王級治癒魔術を会得する理由は何か。
俺の疑問。続くのは奴の言葉。
その言葉は、俺の意表を完全に突いてくる。
「る、るでぃを、たしゅけたい。私が、たしゅける」
「ルディ。それは誰だ?」
俺は思わず聞き返した。
座り込む青い髪に向かって。
初めて聞く『ルディ』という言葉。
その正体、俺は知る必要がある。直感的に、そう感じた。
しかし、会話は続かない。
奴の言葉は終わることになる。
「ルディ、私がたしゅける。たしゅける……」
理由は単純。
ロキシー・ミグルディアは、この言葉を残して気絶したから。
俺との会話。
謎は深まったまま、俺と奴との会話は終わりを告げることになった。
─────────────────────────
気絶したロキシー・ミグルディア。
俺は倒れる青い髪を抱えて、砂漠を歩いていた。
オアシスは人が居る。そのため、砂漠に強い木が生えている小さな木陰に青い髪を座らせた。
気絶中も苦悶の表情をするロキシー・ミグルディア。
やはり、会話は厳しいか。
強い意志があっても会話は厳しい。俺は呪いを再確認する。
大切なのは会話ではなく推測。
『ルディ』とは誰なのか。そこから考える必要がある。
「ルディ、誰かの略称と考えるのが自然か」
ルディ、誰かの略称。
回す推測。俺はゆっくりと仮説を立てる。
この世界に居る、ルディという略称。
誰だ、誰だ?
今までの人物を思い出す。
ゆっくりと思い出す。
瞬間、俺の思考には一人の人物が浮かんだ。
本当に咄嗟に出てきた人物、略称としては合っている人物。
しかし、あり得ない人物。
「ルイジェルド・スペルディア。略称でルディ、か」
俺の一つの仮説。
しかし、この仮説には大きな問題がある。
それは、ロキシー・ミグルディアとルイジェルド・スペルディアの仲だ。
スペルド族を嫌うロキシー・ミグルディア。
奴がスペルド族であるルイジェルド・スペルディアを助けるのかという問題。
しかし、今回のループではこの理論は破綻する。
このループは異変だらけ。
それこそ、人の仲など容易に変化する。
エリス・ボレアス・グレイラットが、ルイジェルド・スペルディアと行動していたように。
このループは俺の物差しでは測れない。
それこそ、俺が知っているのは一つだけだ。
俺が確実に知っているのは人物の『名前』
それだけだ。
ならば、名前から推測出来るルイジェルド・スペルディアが一番確率が高いだろう。
ロキシー・ミグルディアがスペルド族を助ける。
普通であればありえない。
しかし、推測としては十分。認めるしかあるまい。
スペルド族を助けるロキシー・ミグルディア。
また、異変か。
王級治癒魔術が必要ならば、ルイジェルド・スペルディアは欠損レベルの怪我をしている可能性がある。
それは俺にも都合が悪い。
奴を助ける。この事実は俺にも有益だ。
このループで、俺はルイジェルド・スペルディアを攻撃した。
そのせいで、奴は俺を警戒している可能性がある。
俺の治癒魔術を受けない可能性がある。
奴に警戒されるのは俺にも都合が悪い。
ならば、ここで恩を売るのも一つか。
「ルディ、私が助けますから」
俺の視界の端に映る、苦しそうに気絶している青い髪の言葉。
俺は、それを見つめていた。
同情はしない。ただ、利用するだけだ。
俺は手刀に力を込め、地に文字を書いていく。
その内容は王級治癒魔術の詠唱文字と教え方。
俺の知っているコツを書き込んでいく。
「ロキシー・ミグルディアが使える治癒魔術は中級までか。それを王級。少し苦戦する可能性はある」
いつまで掛かるか、それは分からない。
しかし、奴の強い気持ち。俺の呪いを砕くほどの気持ちがあれば、恐らく習得出来るだろう。
さらに、治癒魔術は混合魔術ではない。
基本的に他の属性の聖級以上の魔術は、何かと何かの属性を混合させる必要があるが、治癒魔術にはそれがない。
詠唱とコツさえ掴めば必ず習得出来る。
このループを有意義な物へ、次に繋がるようにする。
俺は、その目標のために計画を立て、その場を後にする。
そして一つ、言葉を残していく。
「ロキシー・ミグルディア。貴様が王級治癒魔術を会得するまで付き合ってやる」
遠く離れて青い髪を見つめる。
奴が習得するまで、待つ。
目覚めるロキシー。
最強に教わる魔術師。
勘違いから始まる物語。
彼女が王級治癒魔術を習得する。
そんな奇跡は、今から一年後の出来事であった。