小川さんだと思い、勢い良く開けた先には‥
祐希さんがいた‥‥‥。
「あっ‥‥‥‥」
突然の事に言葉が詰まる‥‥。
来るはずもない来訪者に‥ただただ、驚き呆然と見つめてしまう‥。
「‥‥藍?ごめん、急に‥」
そう話しかけられて、やっと声を振り絞る‥
「あっ、すいません‥小川さんかと思って‥どうしたんですか?何かあったとか?」
恐る恐る声をかけると‥
「ん‥‥‥ちょっと‥‥中に入ってもいい?」
遠慮がちな祐希さんの声。らしくない声に‥何かあったんじゃないかと慌てて部屋に招き入れる。
椅子に祐希さんが座り‥その対面になるベッドの端に腰掛けて、ドキドキしながら祐希さんを見つめた‥。
風呂上がりなのだろうか‥少し髪が濡れていて‥普段きっちりと乾かしている祐希さんからは想像がつかない、無造作にタオルで拭いた後のようなそんな感じがする‥。
「‥‥藍?」
「あっ、はい‥‥‥」
「‥二人っきりで話すのは久しぶりだね‥あれからどうしてた?」
「‥いつも通りっすよ。練習して仕事して‥」
「‥‥そっか‥‥あのさ‥‥‥いま‥‥‥‥付き合ってる人とかいるの?」
まさかの言葉だった。
俺を振った貴方がそれを聞くのか‥‥。
訳もなく身体が震えそうになる‥。
「‥‥‥‥‥‥‥‥残念ながらまだいないっす‥」
‥予想していた言葉だったのだろうか‥それともまさかの言葉だったのか‥
俺の返事にそっか‥と呟いただけで、沈黙が続く‥。
その沈黙の後に‥
「‥結婚式は来てくれてありがと」
ボソリと祐希さんが呟く‥。
「いえ、呼んでくれて嬉しかったっす。綺麗な人でしたね‥」
何でもないと思ってもらいたくて、無理しながらもニコッと笑い祐希さんを見る。
そんな俺を‥ただ真顔でじーっと祐希さんが見つめる‥
まるで自分の心を見透かされそうで‥慌てて目を逸らした‥。
‥見ないで欲しい。
‥俺の本当の気持に‥祐希さんにだけは気付いて欲しくないから‥。
‥それからは、少し今後のバレーについての話をした。
正直あまり覚えていない‥。
祐希さんからの質問に答えるのが精一杯だった。
‥それが終わるとまた沈黙‥‥。
‥携帯を見ると21 時になっていた。その時‥携帯の着信が鳴る。
祐希さんの携帯だ‥
それなのに、自分の携帯をチラリと見ただけで、出る気配がない‥。
出ないんやろか‥‥‥?
あっ、もしかして‥‥‥‥
「奥さんやないですか?俺は気にせんでいいですよ」
そう声を掛けるが、それでも電話に出ようとしない‥。
その内‥着信音が鳴り止んだ‥。
祐希さんは携帯を見ることなく、ただじっと俺の顔を見つめている‥。
‥数分経っただろうか‥椅子に座っていた祐希さんが急に立ち上がり‥俺が腰掛けていたベッドの端に移動してくる‥
そして‥‥‥
おもむろに俺の頰を触る。
「最初会った時に思った‥痩せた?」
思わずその手から逃げるように顔を逸らす。
「‥そうっすか?自分ではわかんないかも‥」
‥なんで触ってきたんやろ?‥急な行為に顔を背けるので精一杯だった。
「‥‥藍?こっち見て‥」
‥名前を呼ばれ‥背けていた顔を‥
恐る恐るゆっくりと祐希さんの方へ向ける‥‥‥。
戸惑いながらみつめた祐希さんの瞳は‥‥
前と何一つ変わっていない気がした。
その時、見つめていた祐希さんの輪郭がボヤける‥。捉えることが出来ないぐらい近づいてきた祐希さんの‥‥‥‥‥‥‥
唇が俺の唇に重なった‥‥。
あまりにも突然過ぎて、考えが追いつかない。
頭が真っ白になり、ただ目の前にいる祐希さんの顔を凝視するしかなかった。
でも‥‥‥‥
祐希さんの舌が俺の唇を割って入ろうとした時に、ハッと我に返り、両手で押しのける。
少しよろけただけで、相変わらず祐希さんはただじっと見つめてくるだけだった‥。
その唇が少し濡れている‥。
キスしたからや‥。そう思うと、たまらなく悲しくなった‥。
「な‥‥なん‥‥で?」
そう聞くのが精一杯だった。
「‥キスしたいと思ったから‥」
「‥はっ?」
祐希さんが発した言葉とは思えなかった‥
「‥そんなん‥したらアカンでしょ!祐希さんは‥もう‥ 」
既婚者だ‥。そう言おうとした俺の口を祐希さんの手が押さえ込む‥‥‥
「藍‥が嫌だったら俺は何もしないよ、このまま帰る‥」
‥俺の耳元で残酷な言葉を発する。
「‥無理強いはしない、藍が決めて構わないから」
‥俺が決める?
何を?
この先を??
何故‥‥。
捨てた俺を‥またもて遊ぶ気なんだろうか‥
‥‥‥‥。
言ってやればいい。
既婚者とこんな事をするほど、俺は馬鹿じゃないと‥。
笑えばいい。
まだ好きだと思っているのかって。
この手を払いのければいい。
それで済む‥。
それで終わるはずなのに‥‥‥。
目の前にいる祐希さんを‥
俺は拒絶出来なかった‥。
ただ黙って、見つめる事しか‥。
「らん‥‥‥」
祐希さんの俺を呼ぶ声色が変わった気がした。口を塞いでいた手を俺の腰にまわし‥
唇をまた重ねる‥。今度は遠慮なく舌を差し入れられ、口腔内をまさぐられる。
「んっ///」
思わず顔を背けようとしたが、祐希さんは‥無理強いはしないと言った通り、いつもなら顎を押さえ込む手を‥腰に回したままにしている。
これは‥‥いつだってやめても構わないと思っているってことなのだろうか。
俺の態度次第で‥。
そう思うと、身体が固まり身動きが取れなくなる。
拒絶も出来ずただされるがままになる俺の唇を思う存分貪ると‥祐希さんの唇が離れた。
変わらない執拗さに息が上がる俺の唇を指でゆっくりと撫で‥
「‥嫌じゃないってことだよね‥」
らん‥‥‥。
そうつぶやき、俺の身体をまさぐる‥‥
祐希さんの手は冷たく感じ‥
振りほどけなかった‥‥。
静かに目を閉じると‥訳もなく涙が溢れる。
これは
懺悔の涙なのだろうか‥
コメント
6件
同じでしょうか‥それだと嬉しいです。もうあの続きはどうなったのだろうとその時は‥毎日朝から晩まで考えて過ごしていました‥ 私の文章力では、あの物語の続きを作れるわけもなく‥でも不器用なりに完結したお二人がみたくて‥書いてみようかと‥。 まだ完結出来るかもわからないんですが、頑張ってみます! ありがとうございます♡
コメント失礼します☺️ 今回もお話がとても良くて続きが楽しみです😊 これからも小説作り頑張ってください!応援しています☺️
あの物語(たぶん同じかなと思っています)が途中で終わってしまったことが、私もずっと頭に残ったままになっています。いつか続きが見えるのではないかとテラーに留まっていました。ゆうらんさんの作品、どれも大好きです。応援しています!