「それにしてもギリギリセーフだったな…危うくキャンセルしてしまうところだったぜ」
お酒を飲んでしまったので俺は留守番だが、聖奈はリムジンで仕事をする為に出て行った。
「俺も一緒に行けばいいんだけど、行けば仕事の邪魔にしかならないから…行けない…」
まぁ人にはそれぞれ役割があるからなっ!!
俺の役割はマンションを守ることだ!!
冗談はさておいて、俺は俺のやらなくてはならないことに向き合おう。
「何何〜?……観光地が多すぎて絞れないんだが?」
なんだよパリ…お前見所多すぎやしないか?
セーヌ川も行きたいし凱旋門も見てみたい…ノー◯ルダム大聖堂や俺でも知っているモ◯リザがあるルー◯ル美術館も捨てがたい……
これをパリだけじゃなくフランス全土に当てはめると、5年くらいは観光に掛かりそうだ。
「でも任されたからなぁ…」
俺が聖奈に荷運び以外で任されたことが今までにあったか?
いや、ないなっ!
「何だか悲しくなってきたが、今はその時ではない。期待に応えなくては…」
タイムリミットは後五日。
観光大使に任命された俺は、ギリギリまで悩むことになった。
side聖奈
「まさか聖くんがプロポーズのやり直しを考えてくれていたなんてね…嬉しくてマリンの前で泣きそうになっちゃったよ…」
「副社長。なにか言いましたか?」
しまった…少ししか飲んでなかったけど、酔っちゃったのかな?
私は普段しない凡ミスを誤魔化す為に、すぐに言い訳を口にする。
「少し仕事のことで考えを纏めていました。気にしないで下さい」
「はあ…もう少しで着きますので暫しお待ちください」
運転手はそう言うと、バックミラーから視線を戻して信号が青になった交差点へと車を進めた。
浮かれすぎかな?
でもこんなことは初めてなんだから、仕方ないよね?
旅行に…デートに誘ってくれたのもとびきり嬉しかったけど、まさかあの聖くんがプロポーズのやり直しをしてくれるなんて……
明日隕石が降ってこないよね?
どちらにしてもプロポーズの事は知らないことになっているから、頑張って表に出さないようにしなきゃね。
パリかぁ…聖くんはアジアの方が好きなのに、私に合わせてくれたんだよね?
以前と全く関係が変わらなかったから、両想いになった実感は全然なかったけど、私愛されてるじゃんっ!!
きゃーーっ!!!
「副社長……副社長っ!!着きましたよ!!」
私のお花畑な思考を、運転手さんが現実に戻してくれた。
どうやらずいぶん前に着いていたみたい……
「は、はい!!ごめんなさいっ!!」
ダメだこりゃ……
今日は仕事にならないかも……
side聖
あれから四日。
ここはマンションの寝室で、俺は寝ようとしている。
「明日だねっ!」
満面の笑み、期待の眼差し…=プレッシャーです。
ありがとうございます。
「そうだな。俺も楽しみで今日は寝れるか不安だよ」
「そんなにっ!?楽しみだなぁ…あ。明日は何時から向こうに行くの?」
「時差が8時間あるから17時頃に転移しようと思っている。いいか?」
流石に旅のしおりは作らなかった。
五日間ずっと考えていたんだ。
そんなものがなくてもしっかり記憶している。
「うん!早く明日にならないかなぁ…」
守りたいこの笑顔(聖奈妹キャラverのみ)
さて…向こうでもこっちでもやらなきゃいけないことは終えたし、明日に備えて寝るとしますか。
緊張で寝れないかもしれないけど……
「おはよう。よく寝てたね」
目覚めて時計を見ると時間は15時過ぎ、寝過ぎたけど時差ボケ対策はバッチリだな。
「聖奈は眠れなかったのか?」
「実は私も昼過ぎまで寝てたから、時差ボケ対策はバッチリだよ!…って、どうしたの?」
同じ事を考えていたと思うと、恥ずかしくなりそっぽを向いてしまった。
熟年夫婦かよ…//
「いや、なんでもない。腹は空いたけど、どうせなら向こうで朝食を食べたいから、予定より早目に向かわないか?」
「うん!実は私も食べたくて、起きてから何も食べてないんだ。私はもう準備を済ませたから、聖くんのシャワー待ちだね!」
しまった…こんな日に待たせるなんて…普通男女逆だろ……
いや、偏見か?
シャワーを浴びた後、聖奈が選んだ服に着替えて準備を終えた俺は、聖奈に声を掛けてパリへと転移した。
「えっ…きゃーーーーーっ!?」
転移した先で聖奈が叫んだ為、口を押さえた。
側から見たらどう見ても犯行現場だよな……
でも、違うんですっ!信じてください!!
「大丈夫だ。下を見ずに俺を見るんだ」
聖奈にそう指示を出し、従ったのを確認して口から手を離した。
「ここは・・どこなの?…ううん。パリなのはそうなんだろうけど…何で屋上…?」
「急遽用意したパリの転移ポイントなんだが…人に見つからないところが中々なくてな…」
ラスベガスも含めて殆どの国の転移ポイントは下水道などの地下設備内だ。
流石の俺でも彼女(異世界では嫁だが)を連れてのデートで、下水道スタートは憚られた。
そこで他人から唯一見つかりそうになかった場所が、屋根の上だったわけで……
「飛び降りるけど、大声出すなよ?」
「と、飛び降りる!?ここ、明らかに学校の屋上より高いよ!?」
そんな低い場所だと、さらに高い建物の上の階の人に見つかるだろ?
ここは周りでは一番高い建物なんだ。
「大丈夫だ。三日前に50キロのバーベルを持って飛び降りたが、問題なしだ。…聖奈って、50キロないよな?」
「聖くん。その答えを聞く代わりに聖くんの寿命が短くなってもいいの?」
ブルッ…じにだぐないっ!!
「…。よっと」
「きゃっ」
最早会話は俺の首を絞めるだけだ。
俺は聖奈を所謂お姫様抱っこして、下を確認した。
流石に下に人がいたら見つかるからな……
見つかった時は手品だと誤魔化そう……
「わ、わかったよ。信じるよ。死ぬ時は一緒だね!」
「…口は閉じててくれ。舌を噛むからな」
冗談が言えるのなら大丈夫だろう。
俺は下に人がいないことを再度確認し、建物と建物の間へと飛び降りた。
「〜〜〜〜っ!!!」
聖奈は言われた通り悲鳴を我慢して口を閉じていた。
声にならない悲鳴を出しているのは、これだけくっついていればわかる。
飛び降り慣れた俺は、意外に長い対空時間を持て余しながらその時を待った。
トンッ
十階建くらいの、恐らくエレベーターのない古い建物と古い建物の間の路地に、屋根から飛び降りたとは思えない程静かに着地した。
「もう目を開けても大丈夫だぞ。というか、目は閉じていなくても大丈夫だったけど」
「えっ!?私生きてるの!?」
うん。俺の話は全く聞いていないな。
「大丈夫。生きているぞ。そろそろ降りるか?」
「///おります…」
聖奈は恐怖からずっと抱きついていたからな。
現実に戻ると急に恥ずかしくなったようで、いつものお転婆は鳴りを潜め、お淑やか聖奈にジョブチェンジした。
ちなみに、身体強化を全開で使ったから、聖奈の体重はわからなかった。
50キロのバーベルよりは軽かったと明言しておこう。
命が惜しいからなっ!!
「すごーい!聖くんも見て見てっ!!あそこにティスビーが飛び込んだのかな?」
俺達はセーヌ川を訪れていた。
妹キャラはどストライクだけど、言っていることに夢はない。
「それは本当かどうかわかんない話だったろ?だが、景色は最高だな」
この絵画を切り取ったような景色は、俺の語彙力では伝えられそうもない。
強いて言うならテレビで観たまんまだな。
「そうだね!まだお昼にもなってないのに何だかロマンチックだね。
以前なら『恋人同士で行くところだねっ!』って揶揄ってたところだよ」
「…そうだな。それを言う時点で聖奈は変わってないってことだ。安心したよ」
「…聖くんははぐらかすのが上手くなったよね。お姉さん寂しいよ」
俺はアンタの玩具を卒業したからな。
…エリーだけは卒業出来そうにないけど。
結局本題の前に凱旋門と高級ブランド店が並んでいるストリートとセーヌ川を観て回ることにした。
俺は上手く笑えているだろうか?
ま。聖奈が楽しそうだからいいか。
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