益々悩みこんで黙ってしまったモラクスに代わり、最初にわけワカメ発言をしたアスタロトが偉そうに言った。
「そんなに難しい話じゃない、リヅパの場合は単純に炭素14に鉛(Pb)の同位体であるPb202を少しづつ反応させて『命』の欠損を無くしただけだ、まあ、平たく言ってみれば生まれ変わりのような物だが、この時代、何代目かは分からないがトシ子が宿してくれて、我は本当に嬉しくて仕方が無いのだ。 元々鉛に耐性を持った『命』だからな、サパを飲んでも悪影響は受けないと確信していたのだよ」
「ねえ、サウル様、あの、アタシは、えっと…… リヅパ? トシ子? あの、どちらでしょうか?」
トシ子婆ちゃん、いや、見た目の変化から言えばリヅパの方だろうか?
おずおずと質問したのだが、アスタロトは堂々と答えるのである。
「うむ、そなたは紛(ま)ごう事無くトシ子である、リヅパの記憶を持っているだけの今、現在を生きるコユキの祖母、トシ子だ! 因み(ちなみ)に我も仮初(かりそめ)の姿であったサウルではなく、オリジナルの大魔王アスタロトであるぞ♪ これからはアスタと呼んでくれれば良い! 分かったか? トシ子よ?」
「うん、アタイは今までどおりトシ子で良いのね、分かったよダーリン、アスタ様♪」
どうやらトシ子で統一することで双方納得したようだ、ではコユキと善悪も何となく分かった事にするしかない、化学とか物理とか理系じゃない、それどころか文系も怪しい、オタク系の二人には土台無理な話なのであるのだから。
だからこそであろう、オタク界隈代表の善悪が声を大にして聞いたのであった。
「んじゃぁ、トシ子さんはトシ子さんで良いとして、結局何の話だったのでござる? 脱線しすぎて分からなくなっちゃったのでござるぅ! とっ! 取り合えずっ!」
叫んだ後、ふぅふぅ荒い息を吐きながら善悪は、本当に本当に聞きたかった出来事に初めて言及するのであった。
「フーフー、ま、それはそれとして、ゴホン、あー、今日って、その、お見合いだったのでござるか? 聞いて無いでござるよ、コユキちゃん! そ、それで相手の男、どんな感じだったのでござるっ? んっ! んんっ! おいっ! 早く教えろよっ! で、ござる!」
いつに無く押しが強すぎる様だった、善悪個人にとって随分大事な話しだったようである、良くここまで我慢できたよね、偉いと思うよ。
「えっ? お見合い相手って丹波(タンバ)晃(アキラ)君のことぉ? 何で善悪が気にすんのぉ?」
鈍い婆(ババア)だっ! いい加減分かれよっ!
「いやぁ、何となく…… でござるけど…… も、もう君呼びなの、か……」
こいつもこいつでオドオドしっぱなしで、イライラする事この上ないなっ!
はっきり言えば良いのに、全くやれやれだぜ、やれやれ全くっ…… ふぅ……
いつもここから進まないんだからな、そんな風に思ってしまった私、観察者の予想は裏切られた。
トシ子婆ちゃんがここでぶっこんで来たのであった!
「アタイらと一緒にアンタも結婚したら良いじゃん! コユキ! そうしなさいよっ!」
自分が禁忌を犯した途端にこの掌返し、大したものである。
馬鹿っぽいアスタも意を併せて言うのであった。
「おっ! それ良いじゃないか? そうしようぜっ! コユキ、善悪! それで良いんじゃないかぁっ! 最高だなっ!」
顔を真っ赤に染めながらコユキが答えた。
「ばっ、馬鹿言ってんじゃないわよっ! 無責任な発言は禁止、禁止ぃぃなのよっ! だっ、第一善悪に迷惑掛けるでしょうがぁぁぁ!」
阿舎利(あじゃり)善悪は小さく呟くのであった。
「えっ、僕チンは、その、えっと、良いけどね……」
残念ながらその小声の呟きはコユキには届いていなかった、残念至極、くぅぅ!
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