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ヒマワリ

29 - 第29話:’’お兄ちゃん’’じゃない僕の時間

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2025年07月16日

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日曜日の午後。

丈一郎は、真理亜に連れられて近くの公園をゆっくりと歩いていた。

丈一郎:「ほんま、ずっと寝てるだけやと身体鈍るわ〜」

真理亜:「でもまだ油断しちゃだめ。先生にも“無理せず”って言われたでしょ?」

丈一郎:「はいはい、真理亜先生」

そう言って笑いながらも、丈一郎の顔は以前より柔らかくなっていた。

丈一郎:(こんなふうに“何もしない日”を、自分に許せるようになるなんて思わんかったな)

真理亜:「ねえ、丈一郎くん」

ベンチに座ると、真理亜がふと切り出した。

真理亜:「みんなには言ってない“好きなこと”とかって、ある?」

丈一郎:「え?」

真理亜:「あなたって、いつも“誰かのために動いてる”けど、自分が心から楽しめるものって、ちゃんと持ってる?」

その言葉に、丈一郎は一瞬迷い――そして、苦笑い。

丈一郎:「……実は俺、“舞台”とか“ミュージカル”好きなんよ」

真理亜:「えっ、そうなん?」

丈一郎:「うん。小さい頃、施設の先生が連れて行ってくれてな。あのとき見た『アニー』って舞台、今でも覚えてる。音楽と演技が合わさって、何かが“動く”感じが、たまらんかった」

真理亜:「じゃあ、やってみたら?」

丈一郎:「えっ、俺が?」

真理亜:「観るだけじゃなくて、“やる”側になってみたら?」

丈一郎は一瞬ぽかんとし、それから噴き出した。

丈一郎:「俺がミュージカルって、さすがに似合わへんやろ……?」

真理亜:「……それ、いつもの“丈一郎くん”に戻ってるよ」

真理亜の言葉に、丈一郎ははっとした。

“みんなの支えにならなきゃ”

“恥ずかしいことは見せちゃいけない”

そうやって、本当の気持ちを何度も塗りつぶしてきた。

でも――

丈一郎:「……ほんまは、歌とかダンスとか、やってみたかってん。誰かの目、気にせず、思いっきり楽しんでみたいって……ずっと思ってた」

真理亜:「じゃあやってみようよ。“自分らしさ”を、ひとつずつ取り戻していこう」

真理亜のその言葉は、あたたかく、静かに沁みた。

その夜。

シェアハウスのリビングで、丈一郎はスピーカーにスマホを繋ぎ、音楽を流し始めた。

♪〜「Tomorrow, tomorrow, I love ya, tomorrow〜」

明るくて、前向きで、だけど少し寂しさの残る舞台の名曲。

丈一郎:「……俺、好きな曲あんねん。みんな、ちょっと聞いてくれる?」

突然の提案に、みんなが驚いた顔を見せる。

謙杜:「なになに!? 丈くんがDJタイム!?」

和也:「マジで珍しいな!ええやんええやん!」

丈一郎は、少し照れながら言った。

丈一郎:「……これ、“俺”の好きなもんのひとつ。今日は、それをちょっとだけ話したかった」

すると、恭平がふっと笑って言った。

恭平:「丈くん、ずるいわ。“しんどい顔”見せへんくせに、こんなことされたらグッとくるやん」

流星がポンと背中を叩く。

流星:「丈くんが好きなもん、俺らも大事にするで」

丈一郎は、じんわりと胸が熱くなるのを感じた。

“支える側”だけじゃない、“好きを語る側”の自分。

そんな自分も、この家なら受け入れてくれる。

そう思えた日曜日だった。

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