日曜日の午後。
丈一郎は、真理亜に連れられて近くの公園をゆっくりと歩いていた。
丈一郎:「ほんま、ずっと寝てるだけやと身体鈍るわ〜」
真理亜:「でもまだ油断しちゃだめ。先生にも“無理せず”って言われたでしょ?」
丈一郎:「はいはい、真理亜先生」
そう言って笑いながらも、丈一郎の顔は以前より柔らかくなっていた。
丈一郎:(こんなふうに“何もしない日”を、自分に許せるようになるなんて思わんかったな)
真理亜:「ねえ、丈一郎くん」
ベンチに座ると、真理亜がふと切り出した。
真理亜:「みんなには言ってない“好きなこと”とかって、ある?」
丈一郎:「え?」
真理亜:「あなたって、いつも“誰かのために動いてる”けど、自分が心から楽しめるものって、ちゃんと持ってる?」
その言葉に、丈一郎は一瞬迷い――そして、苦笑い。
丈一郎:「……実は俺、“舞台”とか“ミュージカル”好きなんよ」
真理亜:「えっ、そうなん?」
丈一郎:「うん。小さい頃、施設の先生が連れて行ってくれてな。あのとき見た『アニー』って舞台、今でも覚えてる。音楽と演技が合わさって、何かが“動く”感じが、たまらんかった」
真理亜:「じゃあ、やってみたら?」
丈一郎:「えっ、俺が?」
真理亜:「観るだけじゃなくて、“やる”側になってみたら?」
丈一郎は一瞬ぽかんとし、それから噴き出した。
丈一郎:「俺がミュージカルって、さすがに似合わへんやろ……?」
真理亜:「……それ、いつもの“丈一郎くん”に戻ってるよ」
真理亜の言葉に、丈一郎ははっとした。
“みんなの支えにならなきゃ”
“恥ずかしいことは見せちゃいけない”
そうやって、本当の気持ちを何度も塗りつぶしてきた。
でも――
丈一郎:「……ほんまは、歌とかダンスとか、やってみたかってん。誰かの目、気にせず、思いっきり楽しんでみたいって……ずっと思ってた」
真理亜:「じゃあやってみようよ。“自分らしさ”を、ひとつずつ取り戻していこう」
真理亜のその言葉は、あたたかく、静かに沁みた。
その夜。
シェアハウスのリビングで、丈一郎はスピーカーにスマホを繋ぎ、音楽を流し始めた。
♪〜「Tomorrow, tomorrow, I love ya, tomorrow〜」
明るくて、前向きで、だけど少し寂しさの残る舞台の名曲。
丈一郎:「……俺、好きな曲あんねん。みんな、ちょっと聞いてくれる?」
突然の提案に、みんなが驚いた顔を見せる。
謙杜:「なになに!? 丈くんがDJタイム!?」
和也:「マジで珍しいな!ええやんええやん!」
丈一郎は、少し照れながら言った。
丈一郎:「……これ、“俺”の好きなもんのひとつ。今日は、それをちょっとだけ話したかった」
すると、恭平がふっと笑って言った。
恭平:「丈くん、ずるいわ。“しんどい顔”見せへんくせに、こんなことされたらグッとくるやん」
流星がポンと背中を叩く。
流星:「丈くんが好きなもん、俺らも大事にするで」
丈一郎は、じんわりと胸が熱くなるのを感じた。
“支える側”だけじゃない、“好きを語る側”の自分。
そんな自分も、この家なら受け入れてくれる。
そう思えた日曜日だった。