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土曜日の昼下がり。
丈一郎は、学校の講堂に併設された演劇・ミュージカルサークルの見学に来ていた。
丈一郎:「ど、ど緊張やわ……」
胸の中でずっとしまっていた“やってみたい”という気持ち。
それを初めて行動に移す日が、とうとう来た。
講堂では、先輩たちが発声練習をしていた。
先輩:「さぁ、“好き”を声に出すとこから始めよう!」
先輩:「失敗してもええ! 感情は、声にのせたら伝わる!」
丈一郎は、その言葉に心が震えた。
丈一郎:(ここ、“本音”を出してええ場所なんや)
ふと横を見ると、観客席には――
真理亜、和也、謙杜、流星、駿佑、恭平、真理亜、大吾。
シェアハウスのみんなが、こっそり応援に来ていた。
丈一郎:(なんでお前らおるねん……)
目が合った恭平がニッと笑う。
恭平:「丈くんが“本気の顔”する瞬間、見逃すわけないやろ」
そう言って手を振る彼らに、丈一郎は少し照れながらも、そっと手を上げ返した。
ワークショップの最後。
指導者:「ひとりずつ、簡単なセリフを感情を込めて言ってみましょう」と指導者。
丈一郎の番が来た。
手渡されたのは、ミュージカル『レ・ミゼラブル』のジャン・バルジャンの台詞。
ジャン・パルジャン:「私は…生まれ変わったのです。誰かの愛によって。」
深呼吸をして、一歩前に出る。
丈一郎:「……私は、生まれ変わったのです。誰かの――愛によって。」
シンプルなセリフに、丈一郎の“全部”が込められた。
会場が、静まり返る。
そのあと、講師がポンと拍手をした。
講師:「すごくよかった。君の声、届いてきたよ」
その言葉に、丈一郎の胸が熱くなる。
丈一郎:(俺……やってもええんや。“誰かのため”じゃなく、“自分のため”に好きなことやっても――ええんや)
サークル見学が終わった後、講堂の外でみんなが集まっていた。
謙杜:「丈くん、ガチで鳥肌たったわ!」
大吾:「演技してんのに、丈くんのまんまの言葉に聞こえた」
駿佑:「ちょっと泣きそうやったんやけど、俺だけ?」
みんなの言葉に、丈一郎ははにかんだ。
丈一郎:「ありがとな。俺、“誰かの支え”になるのも好きやけど……これからは、自分の“好き”も、大事にしていきたい」
真理亜:「それでええんやで」
真理亜が優しく言った。
真理亜:「“優しさ”って、他人のためだけじゃなくて、自分にも向けられるべきやから」
丈一郎は、青空を見上げながら、大きく息を吸った。
誰かのために生きる日々も、
本音を隠してきた過去も、
全部含めて、“今の自分”がいる。
――そしてこれからは、
“自分の夢”にも、ちゃんと手を伸ばしていい。
丈一郎:「俺、次の公演……オーディション受けてみようかな」
その言葉に、拍手と歓声があがった。
丈一郎の物語は、
“誰かのため”から、“自分の未来”へと静かに、力強く動き出した。
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