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「はひぃ~……ア、アック様……まだですかぁ~?」
「もうすぐだ」
「はひはひ……こ、こんな急な斜面は、ドワーフでもキツいんですよぉぉ……」
「力があるのに体力が無いとか、最近鍛えて無かっただろ?」
「ふぇぇ」
Sランクの魔術師は強化者《ブースター》との取引で逃がした。取引は別として、結局おれは獣化から完全に戻ることが出来なかった。
「イスティさま何だか反則っぽいなの。どうしてそこだけ戻っていないなの?」
「ん~……敵を倒してないからかな」
全身や顔に関しては元通りだ。しかし両腕だけが獣の腕のままで、肉球もそのままになっている。これだけ若干気になるが岩が掴みやすいのでおれは獣のままでもさほど嫌でもない。
「ウニャ~、シーニャは嬉しいのだ! アックとさらに近くなった気がするのだ」
「それはおれもだぞ」
「ウニャッ!」
シーニャだけはおれが獣の腕のままだということに機嫌を良くしていて、微笑ましい。彼女は行動不能から回復したが、少し気が抜けていた。氷でダメージを受けていたとはいえ無効化のおかげでダメージが消えていたらしい。
そこからの回復は自然治癒によるものだ。おれたちはシーニャの回復を待ってから歩き出した。南に向けて歩き出すと、次第に村への道しるべが見えてくる。その道はルティが音を上げるほど険しいものだった。
「ええぇぇ!? こんな細くて狭くて厳しい所を登るんですか?」
「ルティなら平気だろ? 火山渓谷にいたわけだし」
「違いますよぉぉ! 住んでいたからって火山には登らないんです~」
「とにかく頂上が村のようだし、行くしか無いだろ」
「はひぃぃ……」
息を切らせながらも、切り立った岩山が眼前に見えてくる。遠目からでもひと目で分かるが、どうやら岩山の上に村があるようだ。
道しるべには宮殿の村とも書かれていた。恐らく頂上に行けば宮殿があるのだろう。宮殿に興味を示したのはフィーサだ。宝剣という存在だからなのだろうが、いつも以上に駄々をこねられた。
「行きたい、行きたいなの!! イスティさまもきっといい思いをするに決まっているなの!」
「そ、そこまで言うなら……」
「シーニャもピカピカな所に行きたいのだ!」
フィーサとシーニャは行く気満々だ。ぴょんぴょんと飛びまくっているのが何よりの証。しかしルティだけ珍しく難色を示していた。その理由はまさかの体力不足と高所恐怖症。まさに今、その限界に近付いているらしい。
「ひっ! ひぃえぇぇ~!? アック様、橋が揺れて怖すぎます~!!」
「落ち着け。とにかくゆっくり静かに歩くんだ。下を見ては駄目だぞ」
「……下を――をををっ!? こ、こんなに登って来たんですか!?」
「ばっ――見るなって言っただろ……」
「あぅぅぅ」
ルティは地上では最強の力を有している。それがこんなにも高所に弱かったとは驚きだ。おれは倉庫の仕事をしていたので高所は気にはならないし、シーニャは自然の森や山で生活をしていただけあって恐怖は無いようだ。
怯えまくるルティを後目に、シーニャは嬉しそうにおれに話しかけてくる。
「アック、アック! まだ着きそうにないのだ〜?」
「高いところの上に村があるからまだじゃないかな」
「ウニャッ! 何があるのか楽しみなのだ!」
「そうだな」
フィーサはずっと黙ったままだが、もしかしてルティと同じように高所が苦手なのか?
「ひゃぅぅ……」