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その日の帰りのホームルームの時間のときだった。
ポケットに入れていた私のスマホが振動した。担任の先生に気づかれないように机の下でそっとディスプレイを覗くと、【新着メッセージ 一件】の文字。
開いてみると、昨日交換したばかりの相手だった。
【放課後、家庭科室の前に来てほしい。
日下部歩】
九條くんに呼び出された日に全員と連絡先を交換しておいてほしいと言われたので交換したけれど、まだ名前と顔が一致しない。
日下部くんって……どんな人だったっけ。わかるのは潤と、金髪の柏木くん。あとは黒髪の武蔵先輩。
となると他のふたりだ。ゆるいパーマがかかったような栗色の髪の男子か、可愛らしい外見の薄茶色の髪の男子。
呼び出された以上は、とりあえず行ってみるしかない。
突然のことに不安を感じながらも、私はスマホをブレザーのポケットに仕舞った。
ホームルームが終わり、家庭科室の前まで行くと、まだ誰もいなかった。
壁に背を預けて、ぼんやりと辺りを見渡す。
ここらへんは授業で使う部屋と空き部屋しかないのでひと気は少ない。
人の足音が近づいてきたことに気づき、視線を向けるとそこには小柄な男子が立っていた。薄茶色の髪をくしゃっと無造作にセットしていて、女の子のように可愛らしい外見。
この人が日下部くんなんだ。
「……よう」
「日下部くん、だよね?」
「歩でいい」
素っ気ないけれど、何故だか私の顔色をうかがってくる。
「ええっと……呼び出したのはどうして?」
歩くんは黙り込んでしまい、しばらくの間沈黙が流れる。
そして眉間に皺を寄せ、ぶっきらぼうに「やる」と言って差し出されたのは透明な袋に入った輪切りのオレンジがのったカップケーキだった。
「わぁ! すっごい美味しそう!」
「……なら、よかった」
恥ずかしそうに顔を逸らし、口を尖らせる歩くんは可愛かった。でもきっと言ったら、カップケーキ取り上げられそう。
「で、だ」
「……でだ?」
歩くんは真剣な眼差しを私に向けてくる。この感じには覚えがある。
「俺を選んでほしい」
潤と同じ。歩くんまでも昨日とは違い王子の役を獲ようとしている。
……というか、お菓子でつろうとしてるのかな。
「なにがあったのか知らないけど……急にそんなこと言われても選べないよ」
「ほーんと、こんな色気のないアプローチじゃ落ちるものも落ちないよねぇ」
背後から聞こえてきた歩くんとは違う声に驚いたと同時に、誰かに腕を引かれた。
「っお前!」
「本当ちびでかわいい歩ちゃんはダメだな〜」
私の腕を掴んでいるのは、緩いパーマのかかった栗色の髪の男子だった。
「ちびってお前の方が年下だろ! 実里」
実里と呼ばれた男子はにやりと微笑みながら、歩くんに詰め寄っていく。
「身長は俺の方が高いし」
「う……!」
「見た目も歩より大人っぽいし」
「ぐ……っ」
「色気だって俺の方があるよ」
「い、いろ!?……そんな、もん……いらねぇっ!」
こうして見ると確かに実里くんの方が歩くんよりも外見が大人っぽく感じる。うすピンク色のカーディガンの長い袖で歩くんの頭をぽんぽんと撫でる。
「て、ことで黙って見てなよ」
「ふざけんな! 実里!」
歩くんが実里くんの腕を振り払う。実里くんは気に留めることなく、歩くんに背を向けてこちらに近づいてきた。
「あんなガキじゃなくてさ、俺を選んでよ。ましろせんぱい」
「ちょ……!」
壁に押し付けられ、ぐっと顔が近づいた。吐息が頬にかかる。熱く注がれる視線から逃げるように私は目を逸らす。
「俺なら完璧な王子を演じるよ」
私の髪の毛を実里くんの手が掻きわける。温かくて大きな手が私の頭を固定して、まるで逃がさないようにしているみたいだった。
「ましろせんぱい。こっち向いて」
「ちょっと、あのっ」
更に近づいてくる実里くんの顔。押し退けようと実里くんの胸を押すが、びくともしない。
だ、だめ……! このままじゃ……!






