私
の名前は佐藤真樹子。
今から五年前の話になるが、私はこの国の総理大臣を務めていた。といっても、選挙に当選した訳ではなく、とある政治家に頼まれて臨時的に政治を行っていただけだ。その政治家の名は田中正治と言い、彼は当時政界に彗星の如く現れた新人だった。彼の登場により、日本の政治情勢は大きく変わったと言ってもいいだろう。何故なら、それまで日本を支配してきた旧体制の政治家達が次々と失脚していき、代わりに新しい風が吹き込んできたからだ。
しかし、そんな状況の中、私の政権も長くは続かなかった。理由は簡単。「日本国民」というものは、自分の国の政府に対してとても冷たい。それはもう、「冷たい」という言葉では言い表せぬほどに。その冷たい視線に耐えかねた私は、ついに「脱官僚」「中央集権」を目指した改革を行った。この国のために働く政治家を減らし、優秀な人材をどんどん中央省庁に配置しようとした。また同時に地方分権を進め、地方の自立を促した。これらの政策により、私は見事「日本国民」の支持を取り戻したのだが……。
私の任期が終わる前に、日本は滅びてしまった。
私は「日本国民の支持を取り戻すために」努力していたはずなのに、どうしてこんな結果になってしまったのか? 答えは単純明快。「日本国民」というのは、やはりとても冷酷だったからだ。
私がいくら頑張ったところで、日本は救えなかった。
私は結局、何もできなかったのだ。
今さら何をしても遅い。
遅すぎたのだ――。
◆ ◆ ◆
『えーっと、それでですね』
「はい」
『あなたにはこれから異世界へ行ってもらうんですけど、まず最初にやってもらいたいことがあります』
「なんでしょうか?」
『死んでください』
「はぁ!?」
死んだら行く意味ないじゃん! と思いつつ、僕は口を開く。
「あの、死んでほしいと言われましても……困るというか……」
「ああごめんなさい。でもね、もう決めたんです」
「いえだからですね……」
「大丈夫ですよ。痛くないですから」
「そうじゃなくて……ちょ! ちょっと待った!」
「お別れの言葉は?」
「さよならー」
「いやぁあぁぁ―――ッ!!」
***
「はぁっ!? ふざけんなよ!! 誰だよそいつ! 今すぐぶっ殺してきてやる!!」
「落ち着け馬鹿野郎! お前が行ってどうにかなる問題じゃないんだぞ!」
「だって、死ねとか言われたんだぜ!? しかも俺以外のヤツが、勝手に殺してもいいなんて決めてるんだよ!?」
「仕方がないでしょう。その人が決めることですから……」
「うん。でもさあ、なんか変じゃない?」
「そうですか? 私はいつもこんな感じですよ」
「そっかー」
「はい」
「じゃあさ、今度一緒にどこか遊びに行かない? 友達になろうよ!」
「えっと……どうしてですか?」
「だってキミのこと気に入ったんだもん! それにもっと仲良くなりたいなって思ったんだよ~」
「はぁ……そうなんですね……」
(やっぱりこの人ちょっと苦手かも)
「だからさ、連絡先教えてくれるよね? 大丈夫だよ、ボクこう見えてもけっこう強いし」
「あの、本当にそういうの困るんで勘弁して下さい。あと別に私あなたのことが嫌いとかじゃなくてですね……」「俺様がせっかく忠告してやってんだから素直に聞けよ。お前みたいな弱っちぃ奴がこの先生きていけると本気で思ってんのか?」
「うーん……そう言われましても……」
少女は困惑していた。目の前にいる男は彼女の知り合いではなく、全くの初対面だったからだ。そもそもこんなガラの悪い人間と知り合いになった覚えもない。
「えっと、どうして私が弱いって分かるんですか?自分で言うのもあれですけど、私結構強いですよ?」
「そりゃあ分かるさ。だって君からは強者のオーラが出てないからね!」
(うわぁー、なんかこの人苦手かも)
「それに僕はこう見えて鑑定スキルを持っていてね!相手の強さが数値化して見えるんだよ!例えばそこのお嬢さんを見てみると……」
そう言って男はアイナを見る。
「おおっ!?凄いな彼女は!レベル98もあるよ!しかも種族は人間族なのに筋力値が3万を超えているじゃないか!!素晴らしい!!」
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