遊園地の目玉アトラクション——“本気系お化け屋敷”。入口の前で、黒尾鉄朗はいつもみたいに余裕たっぷりの笑みを浮かべていた。
「なぁ🌸、こんなん一瞬で攻略できるって。俺に任せときな?」
挑発混じりの声に、彼女はくすっと笑う。
いつも通りの、ふざけて余裕ぶっこいてる“てつくん”——のはずだった。
けれど。
中に入った瞬間、
耳元で突然聞こえたうめき声に、黒尾はビクッと肩を跳ねさせた。
「……今の、聞こえた? いや、別に怖がってねぇけど?」
強がりながらも、さっきより歩幅が明らかに狭い。
さらには、後ろから手首をそっと掴む。
(あれ、もしかして……私より怖がってる?)
🌸が気づいた頃には、黒尾は無意識に彼女の後ろへ移動していた。
暗闇の奥から何かが急に飛び出してきた瞬間——
「っ……! ちょ、待って待って、心の準備が……!」
余裕系彼氏の面影は消え、黒尾は半歩後ろに下がりながら小声で訴える。
でも、彼女の手だけは離さない。むしろ握る力が強くなる。
「てつくん、こっちだよ」
🌸が笑いながら手を引くと、
「……お前、なんでそんな平気なの? 俺が守る予定だったのに……」
と、顔を逸らしながら小さくぼやく。
その姿が可愛くて、つい肩を震わせて笑ってしまうと、
「笑うなって……怖いもんは怖いんだよ……でも、お前は絶対離さないけど」
いつもの調子でからかえないくらいには、本気でビビっている黒尾。
けれど出口が見えてくると、ようやく余裕の笑みが戻ってきた。
「……よし。クリア。
ま、俺が先頭だと🌸がビビり倒すと思って、あえて後ろ歩いてただけだし?」
「さっき叫んでたよ?」
「聞こえてた? ……忘れて」
照れくさそうに笑いながら、黒尾は彼女の頭をぽんと撫でる。
「外はもう安全だし、ちゃんとエスコートするわ。ほら、おいで、お嬢さん」
最後だけはいつもの“余裕でからかってくるてつくん”に戻り、
彼女の手を引いて明るい外へ歩き出した。
コメント
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よっしゃ早く見れた! 怖がってる黒尾も大好き💕