大倉由宇子31才 税理士
大倉将康33才 大手企業勤務
前職では公認会計士資格を取得していた
美誠 娘 3才
智宏 息子 10ヶ月
優人と美貴 この時はまだ産まれていない
大倉将康の会社同僚女子社員
馬場真莉愛 はっちゃけ将康Love女子 24才
水谷あかね 既婚冷静女子 38才
樽本絢 密かに将康を想っていた女子 33才
由宇子のいとこ㊚ 北嶋薫 28才
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◇単身赴任
「ねぇ、今度こそ会社から打診されている仕事を受けようかと思ってるんだ」
「打診って……それって強制じゃなかったよね、確か。
別に今まで通り本社での仕事続けていてもいいんでしょ?
単身赴任しないといけないなんて……私は応援できないわ」
以前にも夫から、一度昇進する為にも単身赴任の仕事を受けてみたいと
聞かされたことがあった。
本当なら子供もまだ未就学なのだから、思い切って子供を連れて
帯同すればいいのかもしれない。
しかし私たち夫婦には現在そして夫婦の結婚前からの将来設計などを
鑑みても、夫にくっ付いて行くということは選択肢になく、夫が
どうしてもその新しい仕事に取り組みたいとなれば、単身赴任は必至だった。
その夫の単身先の仕事というのは家族にとってものすごく厄介だった。
あちらに居る期間が全く決められていないのだ。
子供を持つ既婚者がするような仕事じゃないわよ全く。
会社も会社よね。
どうして出先に出ないと出世出来ないような仕組みにするのか?
社長に文句言ってやりたいくらい。
こんな仕事内容なので勿論出世を捨てて安定した家族との生活を
選んでいる社員も少なくはない、とも夫からは聞いている。
就職してからすぐに頭角をめきめき現し会社に将来を嘱望される
ようになった夫は、もうすでに私と結婚した時には激務をこよなく
愛するモーレツ仕事人間になっていた。
それでも恋愛中、そして新婚時代、第一子妊娠中、娘が3才になるか
ならないか頃まで……まぁ第二子出産辺りまではそれでも土・日は家に
居られるような生活だった。
娘のことも可愛がってくれたし家族に目が向いてたように思う。
そんな私たちの結婚生活は6年が過ぎようとしていた。
子供たちだってこれから親を親として認識していく年齢だというのに。
1年や2年で帰って来れたとしても夫の顔を覚えているかどうか
怪しいものだ。
私は自分の父親が所長をしている税理士事務所で働いていて、転勤先に
帯同すること難しい。
仕事がすごく好きで仕事第一人間の夫だって月に一度でさえ、こちらに
帰って来るかどうか怪しいものだ。
もし任期が5年……ううん10年選手もいると聞くし7年8年となったら
考えるだけでも恐ろしい。
単身赴任が原因で実際離婚した人も少なくないと聞く。
そして私が思いつく限りの心配事は夫も理解できるはずなのに
それでも幼子2人と仕事を持っている妻を残して、仕事を優先させたいと
そう私に告げているのだ。
仕事と私、どちらが大事?
などと恋人同士のような甘ったるいことを問い詰めたりしたいわけじゃ
ないけれど、だけどこんな状況で問い詰めない妻が一体何人いるだろうか。
家族と仕事、どちらが大事なの? と、聞くまでもないようだ。
残念なことに。
夫はすでに答えを出しているのだから。
思いっきり仕事がしたいのだ。
単身で勤めたら、それこそ独身と同じだから一心不乱に
だぁ~い好きな仕事がお腹いっぱいできてあなたは幸せなのよね。
大好きな夫の為に……
愛する夫の為に……
ここは応援して送り出してあげないと、いけないのよねぇ~って……。
ぇっ? そうなの?
私は一度もOKしてないというのに……
『反対だー』と怒ったり、キツイ口調で『止めて欲しい』とも
言わなかったから、
夫はもう行く気でいるらしい。
浮かれている。
その様子を横目に、息子を抱いたまま私はそっと『……』と呟き、
やるせないため息を吐いた。
◇不埒な虫
娘の美誠が3才、息子が生後8か月の頃、会社のイベントで
バーベキューに参加した。
毎回参加しているわけではなくて、この時は3回めの参加だった。
子連れなので多少何度か話したことのある水谷あかねという女子社員
が子供を見てくれたり、料理の準備など私のサポートをしてくれた。
彼女は既婚者で子供のいないDinksのキャリアウーマンだそうで
このことは、以前参加した時に本人から直に聞いている。
彼女は私より年上で、常識を持ち合わせた安心感のある人だ。
話をしているとわかる。
今回たまたま夫が娘を抱いて離れた場所へ行ったことで、この彼女と
ふたりきりになる時間があった。
息子は上手い具合にバギーの中で寝ていた。
私たちは野菜を次々に切って行く為にふたりで手分けして
野菜を洗った。
その時彼女から次のような言葉を掛けられた。
「由宇子さんも綺麗だからモテるでしょうけれど……」
えーっ、お世辞合戦なの?
お世辞合戦はきらい。
思ってなくても相手のことをいろいろ持ち上げないといけなくなるから。
はっきりいって既婚者で子持ちになってまで、そういうのは
勘弁だなぁ~なんて、思った。
だけどそうじゃなかった……そうじゃなかったのだ。
話は私が想像だにしてなかったことだった。
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