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《秋霧の乱》
第八話 風の中の再会
選挙は終わった。
泉が総裁に選ばれたのは、ある意味“必然”だった。
「自民党をぶっ壊す」と言った瞬間、
私たちの党の屋根が、ゆっくりと壊れ始めたのを感じた。
だがそれでも、私たちはその男を担いだ。
変化に乗り遅れたくなかったからだ。
◆ 総裁選翌日の夜・赤坂の料亭
風が静まった夜。
古本は、店の個室で加山と再会した。
昔から好きだった、鰻屋の二階の座敷。
選挙の夜にも使ったことがある。
政変の裏でも、葬儀の後でも、ここで酒を酌み交わした。
「よく来たね、古本くん。」
加山は穏やかに笑った。
怒りも恨みも、そこにはなかった。
それが逆に、つらかった。
「俺が正しかったのかもしれない。
でも、あんたの方がまっとうだった。」
そう言うと、加山はふっと煙草に火をつけた。
「君は勝ったんだよ。
泉の船に乗って、“未来”に行った。」
「俺は岸に残って、手を振った。」
私は何も言えなかった。
加山の言葉には、皮肉も自嘲もなかった。
ただ――静かに、彼は納得していた。
◆ 回想:派閥会議の夜(数日前)
「加山を切れ。古本、決断しろ。」
誰かがそう言った。
あのとき、私は“判断”した。
それが党のためであり、自分のためであり、たぶん加藤のためでもあった。
でもあれは――“友情の処刑”だった。
◆ 再び料亭
「泉君は変えるかもしれない。壊すことで。」
加山が言った。
「でもね、壊すってのは、誰にでもできるんだよ。」
彼は杯を置いた。
「直すことは、すごく難しい。」
私は、その言葉を胸に飲み込んだ。
そして、黙って酒を注いだ。
外では、選挙の余韻を引きずった風がまだ吹いていた。
勝者と敗者は、ほんの一歩違うだけ。
その差を埋めるものがあるとすれば――それは、何を守るために戦ったかということだろう。
古本その夜、家に帰ってから一人、机に向かった。
そして、手紙を書いた。
「あなたが守ろうとしたものを、忘れません。
それが壊された時、俺がもう一度、盾になります。」
――古本誠