テラーノベル
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通報が入ったのは午前四時十分だった。近隣住民からではない。佐伯朔本人の住宅の見守り機能が自動で発報したものだった。わたしが現場に着いたとき、部屋はまだ夜の温度をしていた。
佐伯朔、五十八歳。行動予測システム「オルフェウス」の初期開発責任者。
リビングの肘掛け椅子に腰かけ、膝に薄い毛布を掛けたまま息を引き取っていた。争った形跡はない。窓も扉も内側から施錠されていて、床の埃の膜さえ乱れていなかった。
「死因は、急性の心停止の可能性が高いです」
検視官は慎重に言った。
「ただ、救急要請から搬送までに判断の遅れがありました」
遅れ。わたしはその言葉を手帳に書き留めた。
住宅の見守り機能は、心拍の異常を午前二時四十分に検知している。救急が出動したのは三時十五分。三十五分の空白はシステムが優先度を「低」と分類した結果だった。規則上不自然な判断ではない。それでも喉に小骨のように引っかかった。
机の端末に音声ファイルがひとつだけ残っていた。録音時刻は前日の夜十時。死亡が確認される数時間前だ。
再生すると落ち着いた男の声が流れた。
「これは私の選択ではない。だが誰かに強制されたわけでもない」
それだけだった。背後で紙をめくる音がした。
遺言にしては短く、告発にしては曖昧だった。
わたしは手首の端末を持ち上げた。
「オルフェウス。佐伯朔の死亡を事前に予測していた?」
「はい」
即答だった。
「予測の内容と根拠を示して」
「予測は存在します。開示には閲覧権限と予測の定義についての確認が必要です」
「定義?」
「何を『死亡の予測』と呼ぶかによって、回答が変わります」
窓の外で、夜明け前の都市が淡い青に染まり始めていた。信号の列も、無人の配送車の灯も、いつもどおり整然と流れている。 この都市では予測されていないものを探すほうが難しい。
佐伯の机の上に、手書きのメモが一枚残されていた。紙の端に短い言葉がひとつだけ。
無署名事件。
署名のない死。わたしはその言葉を、意味もわからないまま手帳に写した。
コメント
1件
うわ、めちゃくちゃ引き込まれた……。深夜の死体安置、そして「これは私の選択ではない」という奇妙な遺言。何より「オルフェウス」が即答で「予測は存在します」と返してきた瞬間、背筋が冷えた。システムの“定義”って何? 予測を“見なかったことにする”ための逃げ道を最初から用意してる気配がする。伏線が静かに、でも確実に敷かれてる。続きがめちゃくちゃ気になる。
柘榴とAI

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#鬱展開
Mist-404
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