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するとまた後ろから伸びて来る手と、その手で今度は思いきり抱き締められながら更に肩越しに樹の顔まで近づいて、更に距離が縮まる。
「もう無理・・」
「えっ?何が?」
すぐ近くでそっと囁く樹に聞き返す。
「もう透子のすべてが愛しくてたまんない」
抱き締められながらいきなりそんな言葉を言われて、更にドキドキがすごくなる。
「樹・・?」
私はもういっぱいいっぱいで、さっきから何度も樹の名前を繰り返すことしか出来なくて。
この触れているすべてから、私の尋常じゃないくらい早まっているこのドキドキが樹に伝わらないかと心配になる。
だけど、なんとなく。
背中越しに伝わって来る私と同じくらい早まっている心臓の音。
自分と樹の心臓の音が重なって、もうどっちがどっちかわからなくなるほどに身体だけじゃなく心臓まで一つになる。
自分だけじゃなく同じようにドキドキしてくれてるのが嬉しくて、更にそのドキドキが早くなる。
「ようやく透子に触れられた」
「うん・・・」
今はそれが私も素直に嬉しくて、もっと樹に自分も触れたくて、後ろから回している樹の腕に、両手でそっと触れてその感触を確かめる。
「しばらくこのままでいてもいい?」
「いいよ」
耳元で静かに囁いた樹に答える。
ただ黙って二人でこうしているだけで心も身体も満たされていく。
気持ちがすれ違ってしまうと、こんな簡単なことも簡単ではなくて。
言葉もいらない満たされる幸せをこの時初めて知った。
今はただもっと樹と心も身体も近づきたい。
「ねぇ、樹。これ・・」
さっき樹につけてもらったネックレスに触れながら樹に声をかける。
「あぁ。つけたところ、ちゃんと見せて」
樹が抱き締めていた手をはずして、今度は私の両肩を持って樹の方へと振り向かせる。
「どう・・かな・・?」
向かい合わせになって樹の真ん前に立つ。
この近い距離で改まってこんな風にしてるのが少し恥ずかしくて、こっそり樹の方を見上げる。
すると、そんな私を見て優しく微笑んでる樹。
「うん。すごく似合ってる」
そう言われて嬉しくて私も微笑む。
「さっきのネックレスもよかったけど、これはオレが透子を想って選んだネックレスだから、もっとこっちのが似合ってる」
「うん。ありがとう」
樹が自分のことを考えてプレゼントしてくれたネックレスってだけで私には何より特別なネックレスだ。
「透子」
「ん?」
「誕生日おめでとう」
樹からまさかその言葉を言われると思ってなくて、驚きと嬉しさで言葉を失う。
「知・・ってたの?」
最近樹と出会ったばっかりで、正直お互いのこと何にも知らなくて。
だから当然自分の誕生日のことも言いそびれてた。
誕生日が来る前に距離を置くことになって、正直樹はそのことを知らずに一日過ぎていくのだと思ってた。
「もちろん」
「なん・・で? 私言ってないよね?」
「秘密」
「秘密・・って」
樹はこんな時でもやっぱり隠したがる。
一瞬一瞬、私の知らない樹がいる気がして、秘密主義の樹を感じてその瞬間はちょっと不安になる。
「ずるいよ・・」
そんな樹に寂しくなって、つい愚痴るように呟く。
「何が?」
「樹はなんでも秘密にしたがる。だから、私はそんな樹の気持ちがわからなくて不安になる・・・」
これ以上もう樹を遠くに感じたくなくて、今まで思っていたが気持ちがどんどん零れる。
「オレの気持ち?」
「そうだよ。いつの間にか私の前に現れて、どんどん気持ちに入り込んで。だけど樹がどこまで本気なのかも全然わかんない・・。なのに、私だけこんな好きになって・・樹はずるいよ・・」
切ない気持ちがどんどん溢れてきて、伝えるのに必死で樹の目を見ることさえ出来ない。
「それ・・本気で言ってる?」
すると樹が私のその言葉を聞いて、冷静に確認してくる。
「だったら、何・・?」
私の気持ちが重い?
こんなはずじゃなかった?
本気じゃないって・・そう答える・・?
「はぁ・・・」
呆れるように溜息をつく樹。
・・・やっぱり呆れてるんだ。
やっぱり素直な気持ちなんて、言うんじゃなかった・・。
「ごめん・・」
ついそれ以上、樹の心が離れてしまうのが怖くて謝ってしまう。
「何がごめん?」
「今の、忘れて! 大丈夫! もう好きだとか言わないから安心して」
つい不安で切なくなって、口走ってしまった想いと言葉を、なかったことにしようとすぐ訂正する。
「は?なんでそうなんの?」
やっぱり樹、呆れてる・・。
「ごめん・・」
「だから~なんで謝んの?」
どんどん樹の口調が苛立ってるのか少しキツくなってくる。
「もう困らせないから安心して・・?」
言ってしまったその言葉は、きっと取り消せないんだろうけど。
でも樹さえそれを忘れてくれれば、また関係を続けられる。
「そうだね・・。なんで透子はオレをそんなに困らせるの?」
樹の言葉がチクッと胸に痛みを与える。
「透子は全然オレの気持ちわかってない」
樹のその言葉にもう何も言えなくて。
多分これ以上私が話したら、きっともっと距離が開く。