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第8話:紫藍の産声
そして、ついにその時は訪れた。予定日を数日後に控えた、ある激しい雨の日の夜中。
下腹部に、これまでに経験したことのない、背骨を金属の棒で殴られたような電撃的な激痛が走った。
「っ……、う、あ……あぁっ!!」
「ネス!? どうした、陣痛か! 間隔を計るぞ!」
隣で瞬時に跳び起きたカイザーは、驚くほど冷静に、けれど顔を真っ青にしながら事前に用意していた入院バッグを掴み、すぐに産院へと連絡を入れた。病院へ向かう車内でも、彼は私の手を片時も離さず、痛みの波が来るたびに「息を吐け、俺にすべて預けろ」と声をかけ続けた。
病院の分娩室に入ってからの時間は、私にとってまさに「地獄」だった。
数分おきに襲ってくる、内臓を素手で握り潰されるような激痛。痛みの波が来るたびに、私はベッドの柵を白くなるまで握り締め、絶叫した。汗で全身が濡れ、意識が何度も遠のきそうになる。
(痛い、痛い……! 身体が壊れちゃう、もう無理……っ!)
「ネス! 息を吸え、吐け! 俺を見ろ、一人じゃない! 俺がここにいる、お前の手を握っている!」
「カイ……、痛い、痛いよ……っ、助けて……!」
「分かっている、よく頑張っているぞ! お前は最高に美しい、もう少しだ、俺たちの子供に会える! 俺の命をお前に分ける、だから耐えてくれ!」
カイザーは私の手を、骨が軋むほどの強さで握り締め、もう片方の手で私の頭を優しく支え、一緒に呼吸を合わせてくれた。彼の叫ぶような声と、その手の圧倒的な熱だけが、私をこの世界に繋ぎ止めていた。ピッチの上で神懸かったプレーを見せる時のように、彼の瞳は極限の集中力と、私への狂おしいほどの愛で満ちていた。彼の存在が、私の最後の力を引き出してくれる。
「う、あぁぁぁーーっ!!」
最後の力を振り絞って、身体の中のすべてを押し出すように息む。視界が真っ白になり、世界の音が消えた。
次の瞬間、分娩室の空気を震わせるような、高らかで、驚くほど力強い産声が響き渡った。
「ぎゃあ、ぎゃあ……! ぎゃあ……!」
『おめでとうございます! 元気な男の子ですよ!』
看護師さんの声が聞こえた瞬間、私の身体から一気に力が抜けた。窓の外を見ると、いつの間にか激しかった雨が上がり、眩しいほどの朝の光が分娩室に差し込んできていた。私の胸の上に、まだ少し濡れた、温かくて小さな命が乗せられる。
「……産まれた。ネス、産まれたぞ……! 俺たちの、子供だ……!」
見上げると、カイザーの綺麗な瞳から、大粒の涙が次々とこぼれ落ちていた。ピッチの上で勝利の雄叫びをあげる時でさえ流さなかった彼の涙が、私の頬を濡らす。
「ミヒャ……、格好いい男の子だね。カイに、そっくり……」
「ああ……。お前が命をかけて産んでくれた、俺たちの宝物だ。本当に……ありがとう、ネス。お前は俺の、最高の英雄だ。世界で一番、誇らしい俺の妻だ」
カイザーは私の額に、涙の混じった熱いキスを何度も何度も落とした。そして、震える指先で、赤ちゃんの小さな小さな手をそっと触る。赤ちゃんが反射的にカイザーの小指をぎゅっと握りしめると、彼の目から再び一筋の涙がこぼれ落ちた。
「おい、小さな凡才。俺のネスをこんなに苦しませたんだ、これから一生をかけて、この母親を世界一大切にしろ。……そして、この世界へようこそ。俺がお前の父親だ」
その言葉には、溢れんばかりの慈愛と、新しい世界への宣戦布告が込められていた。
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